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第21回甲状腺検査評価部会―過剰診断の被害に背を向ける福島県の涙ぐましい努力

第21回甲状腺評価部会は2023年7月28日に開催されました。会議の参加者は下記のとおりです。
 
鈴木元(部会長) 保内郷メディカルクリニック医師 (日本放射線影響学会推薦)
旭修司 会津中央病院内分泌乳腺外科部長 (福島県病院協会推薦)
今井常夫 東名古屋病院名誉院長 (日本内分泌外科学会推薦)
片野田耕太 国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部部長
近藤哲夫 山梨大学人体病理学教授 (日本病理学会推薦)
祖父江友孝 大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教授 (日本疫学会推薦)
南谷幹史 帝京大学ちば総合医療センター小児科学病院教授 (日本小児内分泌学会推薦)
村上司 野口病院院長 (日本甲状腺学会推薦)


消えた「過剰診断」

この会議では「甲状腺検査に対するまとめ(案)」が提出されました。(資料4:甲状腺検査先行検査から本格検査(検査4回目)までの結果に対する部会まとめ(案) https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/587696.pdf
その内容を見ていきましょう。甲状腺がんが福島県で増えている原因について放射線の影響は否定しています。これは国連のUNSCEARの見解とも合致しており、妥当だと考えます。問題は、では何が原因で甲状腺がんが増えているのか、というところです。まとめには以下のように記されています。

・生命予後脅かしたり、症状をもたらしたりしないようながんを過剰に診断しているのか、将来的に症状をもたらすがんを早期発見しているのかいずれである。
・どちらかの判断は不可能であり、今後検証が必要。
・検査には安心と生活の質の向上につながる可能性がある反面、将来的に症状や、がんによる死亡を引き起こさないがんを診断し、治療してしまう可能性があるなどの不利益が考えられる。
・対象者の理解と同意を得て実施していくことが重要。
・検査の利益不利益等、検査に関する情報提供を今後も推進しながら検査を実施していく。

部会まとめ(案)

検討委員会で鈴木部会長が認めた「過剰診断」がでてきませんね・・

わかりやすくまとめるとこうなります。

・過剰診断(という言葉は使っていませんが)はあるかもしれないが、あるかどうか判断できない。
・早期診断のメリットも過剰診断のデメリットもあるだろう。
・だから対象者に説明を十分して検査を継続していく。

以前はもっと踏み込んだ見解を出していたのに・・・

先日の検討委員会後、SNS上では、「福島県がはじめて過剰診断を認めた、大きな前進だ!大きく検査が変わるかも。」というご意見が出ていますが、そうはいかないかもしれません。実は、過去には福島県も「過剰診断」という用語を出していました。第19回「県民健康調査」検討委員会(平成27年(2015年))に提出された「甲状腺検査に関する中間とりまとめ」です。( https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf
ここには、甲状腺がんの患者が多い理由について
過剰発生か過剰診断かいずれかだが、後者の可能性が高い。」
とはっきり書かれています。また、福島医大の先生方がしばしば主張される「ガイドラインに従って診療しているので問題ない」という見解に反するような、
「既存のガイドラインとは条件が異なるので新たなガイドラインが必要」
との前向きな意見も記載されていました。
「甲状腺検査がなければ少なくとも当面は(多くはおそらく一生涯)発生し得なかった診療行為を受けることとなる。」
という検査による健康被害を懸念する記述もありました。2015年の時点ではこんなに踏み込んで記載されていたのですね。


ガラパゴス化して国際的に孤立する福島県

これから見れば、今回の案は2015年のものに比べ大幅に後退しており、福島県のガラパゴス化が顕著になっているように思います。

県の姿勢は悪い意味で一貫しています。

1) 過剰診断の被害は認めない 
2)検査の縮小・中止は認めない
 

です。特に、「過剰診断」という用語を使うのをあの手この手で徹底的に避ける姿勢は驚嘆するほど見事です。

今回出された案の結論は科学的な見解に裏付けされた結論とは到底思えません。
国連USCEAR、WHO IARC,SHAMISENなどの国際専門家組織が福島で過剰診断の被害が出ていることに対する懸念を表明しているのに、今になってさえ「まだわからない」と言っているのです。
さらに、それを検証するために「さらなる調査が必要」とまで言っています。
さらに不可思議なことに、「早期診断には安心や生活の質の向上などのメリットがあるかもしれない」と言っています。
つまり、過剰診断の弊害が明らかな甲状腺超音波検査を、もしかするとメリットが証明できるかもしれないから(今までのデータではメリットは証明されていませんが)さらに推進すると宣言しているのです。これは人体実験の発想と言っても良いのではないでしょうか。これが英訳されて海外の専門家の目に触れたらと危惧します。「日本の専門家の倫理観はどうなっているのだ」ということになりはしないでしょうか?

こういったおかしなことは、結局、福島県が過剰診断の害を認めないということが原因ではないでしょうか。もしかすると、甲状腺検査の被害が大きくなりすぎて方向転換をすることができなくなっているのではないでしょうか。
甲状腺超音波スクリーニングに明確なメリットがあることはエビデンスがありません。過剰診断の害を認めれば、害が利益を上回ることになるので検査を続けられません。検査を続けようと思えば、明らかではない利益をあると誤解されるような記載をし、その一方で、過剰診断の被害を「まだわからない」として結論を先延ばしすることしか方法がないのでしょう。しかし、良識ある専門家にとってはこのような欺瞞に満ちた内容を承認することはできないことでしょう。実際、次のような発言をされた部会員もおられます。

祖父江友孝氏 
「言葉が足りないじゃなくてここに書いてあることに基本的なところで賛同できないです。ですから、もしもこのままいくのであれば、異なる意見を言っている委員がいたということを記述して欲しいです。」


おそらくほぼ原案通りで決着します

しかしながら、今までの福島県の有識者会議での議論のやり方を見ても、おそらく大きな変更なしにほぼこの案の通りに決まることでしょう。だからこそ、祖父江氏はご自分に科学的に賛同しかねる文章の共同責任が及ばないように、このような発言をされたのではないでしょうか。
「まとめ案」は部会長を中心とした何人かが作成しているものと予想されます。その後、部会で意見が交わされますが、意見が割れた場合は「部会長預かり」、となり、部会長を中心として最終意見が決定されます。以前、県民へのメリットデメリットの説明文(福島県の甲状腺検査について県の住民に対する『説明』の問題点https://note.com/mkoujyo2/n/n740dfe34d227)で専門家の同意が得られなかった時も、同様の対応が取られました。したがって、今回の案も鈴木元部会長の意思が強く反映した形で決着することと予想します。その背景には、検査を管轄している福島県や環境省の意向があるものと思われます。

福島県民の方々には、県から発信される情報がこのようにかなり偏った形で決められていて、必ずしも国際的な常識に合致したものではないことを知っておいていただきたいと思います。


最後に、内堀雅雄福島県知事にお願いがあります。

内堀福島県知事殿
福島の甲状腺検査、学校検診が過剰診断の被害を引き起こした世界初の例として世界中の専門家が県の対応を注目しています。
これ以上、福島の甲状腺検査が誤った道を歩まないよう、政治的なご決断をお願いできませんでしょうか。
・「過剰診断」という正しい言葉を使って検査の危険性を県民に伝えてくださいませんか。
・「学校検診の中止」をご検討いただけませんか。
・「甲状腺検査の被害者を救済すること」をご検討いただけないでしょうか。
どうかよろしくお願いいたします。