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社会にはまだ偉人たちから学ぶ余地がある『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?』◆書評′19#21

久しぶりの書評です。読み終えるのに2ヶ月弱かかりました。
2019年21冊目は、リンダ・ユー『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?』です。

ブレグジットというのは、イギリスのEU離脱を指す "British" と "Exit" の混成語である。
かの有名な経済学者アダム・スミスならば、この大きな出来事についてなんと考えるだろうか? という疑問がタイトルになっているが、
これは、この分厚い本で議論されているいくつもの問いのうちのひとつに過ぎない。

『12人の偉大な経済学者と考える現代の課題』という邦題のサブタイトルや、『The Great Economists: How Their Ideas Can Help Us Today』という原題から分かるように、
本書は、12人の偉大なる経済学者を取り上げ、彼らの生い立ちや主張や経済理論を解説しつつ、
現代の世界で起きている様々な経済的課題に対して、その経済学者らであればどのように考えるだろうか、という興味深いコンセプトで書かれた大作である。

取り上げられるのは、貿易赤字や経済格差、生産性、金融危機に、公共投資、あるいは経済成長や低賃金といった問題である。
イギリスやアメリカ、中国、日本といった具体的な国や地域に焦点を当てる場合もあれば、グローバルな社会全体の問題として考えることもある。
いずれも、決して私達の生活に無関係なものではない


ここで選ばれた偉大なる経済学者は、次の12人だ。

アダム・スミス
デヴィッド・リカード
カール・マルクス
アルフレッド・マーシャル
アーヴィング・フィッシャー
ジョン・メイナード・ケインズ
ヨーゼフ・シュンペーター
フリードリヒ・ハイエク
ジョーン・ロビンソン
ミルトン・フリードマン
ダグラス・ノート
ロバート・ソロー

スミス、マルクス、ケインズあたりは聞いたことがあるという方も多いだろう。
この12人が選ばれたのは、単に経済学という学問の発展に大きく寄与したからというだけではない。

そもそも経済学とは、人間社会における「経済」という現象について科学する学問だ。
しかし、物理学・化学・生物学といった自然現象を対象にする自然科学とは、根本的に性質の異なる学問である。

ある現象について、そのメカニズムを解明し、法則やモデルの形に落とし込み、
それによって得られた知見を、また我々の生活を豊かにするための研究開発へ応用するという基本的な流れ自体は、自然科学も経済学も変わらない

ところが経済学の場合、経済学者が優れた理論を公に提示することによって、個人や企業や国家は、その主張を基に行動や制度を変化させうる。
その学者が、あくまでも倫理的に中立にそれを行ったとしても、
研究をするということ自体がその対象の在り方を変化させるという点において、経済学は純粋な自然科学とはなりえないのである。

そうである以上、私達一般人も経済について考えるときには、同時に哲学者でいなければならず、
常に、この社会をどうしたいのかという理想を描かなければならない。

本書は、著名な経済学者について学ぶというよりも(もちろん本書は、この目的においても十分過ぎるくらいの価値がある)、
現代の社会が抱える課題について知り、そしてこれらの非常に複雑で難解な問題に対して、我々にできることが何かを考察するということを主な目的にしている。

したがって、ここで選ばれた12人は、経済学という学問の枠の内側に留まることなく、より現実社会で起きている課題に目を向け、現実社会に対して(良くも悪くも)多大なる影響を与えた学者でもある。


社会の様々な課題を適切に捉える視野の広さと、経済学に関する知識の深さに加え、
あくまでも客観性を失うことなく、それらを巧みに融合させた議論を展開するセンスを兼ね備えた本書の秀逸さには、ただただ脱帽するしかない。

確かに決して簡単な内容ではないし、ボリュームもかなりのものであるため、読み終えるまでにはそれなりの時間と体力を要するだろう。

誰にでも気軽にオススメできるような代物ではないかもしれない。
しかし、内容は間違いなく上質なものであり、和訳はこの上なく読みやすく、確実に値段以上の価値がある一冊だと断言できる。

もし少しの興味と覚悟があるのなら、是非とも手に取っていただきたい。

より良い社会をつくるためには、我々一人ひとりが課題を正しく理解し、考え、行動しなければならない。
これは大変困難なことであるが、幸いにも、私達は何人もの偉人から学ぶことができるのである。

タメになる度 :★★★★★
文章の読み易さ:★★★★☆
分かりやすさ :★★★★☆
総合オススメ度:★★★☆☆


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