雑記:Aqoursの音楽はグループとキャストのソロ活動が同時進行する今こそ最良の季節(なので聴いている)
Aqoursの活動が活発です。
2021年における新規関連楽曲は合計26曲となり、タイトルを冠した単独ライブは年末までに5本。テレビアニメの終了から約4年、その後制作された劇場版の公開から約2年という月日、また2020年以来の業界全体のブレーキを考えればかなり前のめりで、いわゆる声優ユニットとしても珍しいケースになっています。結果としてAqoursもライブやドームツアーが中止になるなど弊害を諸に受けているのですが(さすがに前のめり過ぎた)、それでもこの2年間、企画が途絶えることはありませんでした。
ラブライブ!は現在『サンシャイン!!』『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』『スーパースター!!』の3タイトル体制でライブを行っています。活発ですね。他作品の大多数はそもそも動けなくて苦しんでいるわけで、コンテンツの大きさと資本的体力を改めて実感します。見方を変えればこの状況でもブランドを拡大・維持するための労苦を分散しているとも言えるでしょう。新作アニメは放映され続けていますが、それでもライブを打たなければ作品の根幹が揺らぐ。意地さえ感じる攻勢です。
個々で背負うには苦しい時勢であるというのは外部からの想像に過ぎませんが、2019年以前はごく稀であった「タイトル間での合同企画」が頻繁に行われるようになったことも事実です(楽曲の共作、月一でのオールナイトニッポン放送、合同ライブなど)。大変良いことだと思います。頑張っていきましょう。
さてその一方、キャストそれぞれのアーティスト活動も2020年以降顕著に活性化しています。本稿の要旨はこっち。そして重視したい点は、キャストそれぞれが異なるレーベルからまるで違う音楽をやっているということです。所属事務所や来歴がバラバラなグループならではの混沌の様相。変化は多ければ多いほど良い。グループとキャストのソロ活動が並行している状況もまた珍しく、そうでなくともそれぞれが面白い音楽をやっているのが良いよね、という話をします。もっとされるべきだと思うので。
Aqoursキャストの良い曲
伊波杏樹
出だしで話が変わるんですが、伊波さんの場合、本稿執筆時点で本人名義の楽曲は配信されていません。所属事務所であるソニー・ミュージックアーティスツの公式ストアからは本人が作詞も手掛けられたCDが販売されています。しかし一般流通はしていない。つまり……インディーズ? 世間的にどういう扱いになるんでしょうか。追っている人に説明して欲しい。
さておきそれはそれで良いわけです。スタンスはそれぞれで良い。色んな人がいる方が面白いし、豊かです。
逢田梨香子(DMM music/Astro Voice)
逢田さんの歌は感情の起伏が耳を引きます。美しく激しい。テレビアニメ『装甲娘戦機』(主人公チームと世界との距離感がとても良かったですね。最終回の大胆な寂しさ……)のOPでもあった「Dream hopper」はBPMまでアップダウンするその最たる物ですが、この一曲だけではなく、デビューから一貫してサビに感情がグワッと来る曲を歌われています。なんでそんなことを? 詳しくは存じ上げませんが、元々映像媒体での俳優をやられていた、というバックボーンが想起されたりはします。
曲調はビートが強く悲壮なものが多く、歌詞は内省的。そして解放された感情の波が世界まで揺るがす。その説得力がある歌声です。だからこそ「花筵」のように真っ直ぐ語る曲が心に染みます……。
諏訪ななか(ユニバーサルミュージック/コロンビア)
諏訪さんは手に負えません。あまりにも声が異質。可愛い。近付くと危ない。甘い中毒性があります。可愛らしさと硬質さを持ち合わせる筋の通った声質はEDMとの親和性が高く、一方でノイジーなサウンドの中でも全く埋もれないほど強い。諏訪さんの声でしか刺激されない脳の部位があるのではないか。
"可愛い女性"の歌が多いと言ってしまえば簡単で、古式ゆかしい女性声優楽曲という趣もあります。若干のノスタルジー。しかし不意に「Poison Girl」のような急角度からも人間を描いてくるため、楽曲を連続して聴くと本能的危険を覚えることになります。クラクラしてくる。ついに完成した電子ドラッグなのではないか。
Aqoursは「9人が合わさった声のキラキラ感」に言及されることがありますが、単純に音だけを取り出せばそこに一番近いのが諏訪さんの歌声であるように聞こえます。しかし単独ではここまでパキッとしているというのも面白いですね。
小宮有紗
小宮有紗さんの場合も現時点で本人名義の楽曲が存在しません。また伊波さんとも違い、オリジナル楽曲自体を制作していない状況です。
やはりそれはそれで良いことだと思います。全員が同じことをする必要は無い。世界が危機に瀕したとき、一か八かの決戦では無く、愛する人たちと過ごす時間を選ぶヒーローがいても良い。その存在こそ(そしてそれが許容されることこそ)豊かさの鍵とすら言えます。それはそれとして電音部でのキャラソンが良く、並行する愛情溢れたDJ活動も素敵です。
斉藤朱夏(SACRA MUSIC)
斉藤朱夏さんの曲、めちゃめちゃ良いんですよね。地声に近い低めの歌声と目線の低い歌詞の説得力がすごい。目の前で歌っているような飲み込みやすさがあります。真っ直ぐな声、「キミとあたし」の肩肘張らない間柄。諏訪さんとは別方向で危険。好きになってしまう。
ベースが立ったバンドサウンドが多かったり、ほとんどのCDに一曲はスカがあったり(「リフレクライト」「Your Way My Way」「ぴぴぴ」)、カントリーな楽曲があったりと(「あめあめ ふらるら」)、とにかく嬉しい音楽をやられています。でもEDMも良い。あと「またあした」で終わるアルバム『パッチワーク』が感動的に良いです。
小林愛香(トイズファクトリー)
小林さんの楽曲はとにかく表現することの楽しさが伝わってきます。元気でポップに優しく手を引いてくれる。表情豊かで飛び跳ねるような突破力がある。それでいて重たくなりすぎない力加減は、やはり歌唱歴の長さから来る技術によるものでしょうか。熱が籠もっていても、はしゃいでいても心地良い。
アニメタイアップ曲のパワフルさも良いんですが、何を置いても「ゆらゆらら」は完璧な一曲。歌声の魅力が凄まじい。そして希代の名曲「Night Camp」!!! 状況によっては泣きます。
高槻かなこ(Victor/Lantis)
高槻さんには覇道の趣があります。明らかに人より一歩先に居ようとしている。作詞作曲にも積極的で、作品は繊細かつ先進的。バチクソに格好良い「Subversive」はEDとはいえアニメタイアップらしくなく(らしさって何だろう)、誰よりもアニソンを聞いてきた上で──元々アニソンカフェで働かれていて、当時のレパートリーは1000曲に登ったと聞きます──人と違うことをやろうという心意気を感じます。クリエイティビティの勝負。自分の可能性を探っている。
派手すぎないシンプルな曲調で光る声ということもあり、人間味と自我の強さがイケています。作品なんだからこれで良い。聴けば聴くほど考えれば考えるほど好きになる。作詞作曲を手掛けられた「soda」がポップに温かくてめちゃ良いです。良すぎる。
鈴木愛奈(Lantis)
この手の話題で対比にするのはお行儀が良くありませんが、そうでなくてもやはり、鈴木愛奈さんは王道を行く人というのがしっくり来ます。楽曲の多くは勇壮で、声は美しく力強く伸び、カップリング曲すらテーマソング然としている。堂々と旗を振り、作品とファンを牽引する姿が似合う。
とにかく声が強く、豪勢で多様な音色に全く負けない。少しも埋もれない。民謡というルーツから滲む和の雰囲気にさえ先達の築いてきた王道アニソンの系譜を感じます。一方で「アイナンテ」のように可愛いに振ると強烈にキュートなのが、もう。
というか1stアルバム『ring A ring』はすでに極まっています。歌声が抜群に際立つ構成。制作陣の自信が凄い。
降幡愛(Purple One Star)
80'sを現代に持ってくるという明確な独自色。声優アーティスト全体でもダントツに独特です。しかし決して色物ではない。全曲を作詞するご本人の愛と制作陣の凄みによって名曲が量産されている。サウンドは当時らしくありつつ現代的に洗練され、どの曲も気持ちよく聴けてしまいます。それでいて歌詞の物語は……。MVも合わせて作り込みとこだわりが全開で、これはむしろいわゆるアニソンでないからこそ好きにやったということでしょう。そして初のタイアップは驚きの実写映画主題歌。MVには小宮有紗さんが出演。面白すぎる。それでいて降幡さんの歌う姿は本当に格好良くて……。
雑記なので急に終わってもいいんですが、楽しく書いてきたのでもうちょっとやります。
これだけの個性溢れるプロが結集したグループが今のAqoursというわけです。しかも現行で精力的に活動している。やはり最良の季節だと思うのです。
象徴的な楽曲とMVが「DREAMY COLOR」です。
電子音の中に際立つアコギがいい味ですね。本MVは「アニメから生まれたグループ」が「アニメの舞台で実際に歌う」という時点で大変に楽しい映像ですが、そこに甘んじない演出の効いた一つの作品でもあります。
注目は9人の歌唱するステージ。前半は体育館、海岸とアニメに登場した舞台を巡り、後半に架空の海上スタジアムで同じように踊るという構成は、明白に虚構と実像の重ね合わせを強調するものです。この辺りはCDに付随するディレクターズカット版の方が思いっきりやっていて分かりやすい(ダンスシーンで実景とCGを切り替えまくる)のですが、映像としての見やすさを考えれば妥当な取捨選択ではあります。どっちも良い。また実景パートでの衣装はキャストそれぞれが選んだという証言もあり、そういった裁量の広がり一つを取っても円熟が感じられて楽しいですね。
今のAqoursは作品全体と個々の活動が積み重ねられ、それがまた作品に還元されるという幸福な状況にあります。そしてこの積み重ねはアニメやライブを経て視聴者・観客に育ってきた文脈をも内包している。もはや簡単に真似できる形でもありません。その域に到達し、現在も進み続けている。今ならその姿を目撃することが出来る。最良の季節。
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