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『フリー・ファイヤー』について話しておく

『フリー・ファイヤー』 それは人と人が90分間撃ち合って死ぬアクション映画だ。イギリスで製作され、2016年に公開された。

特にいま安く見れるのかとかは知らない。人に見てほしい映画の話をする以上はアマゾンプライムとか手段が用意された状況が良いと思い待っていたが、未だその時は来ない……。もううんざりだ。どうしてメガコーポの顔色をうかがわなきゃならない? いつかもわからない機会を待ちつづけて好きな映画の話もしないまま死ぬなんて馬鹿げている。そんなのはごめんだ。

「もとより俺のような素人に冷静な判断ができるはずもないのだから」――本作はそういう映画です。




あらすじ+α

70年代、ボストン、場末の倉庫。アイルランド人クリス(キリアン・マーフィ)は独立闘争のために”国際的なクズ”ヴァーノン(シャールト・コプリー)から銃器を買い付ける。しかし取引現場に集まった双方の5人、計10人の悪党にはそれぞれの思惑と因縁、そして抑えがたい感情があった。

そういう訳で銃撃戦が始まり、そして終わる映画だ。

舞台はひとつの倉庫の内部と周辺だけ、話に広がりはなく、なにより90分と短い。爆発寸前の空気があり、単純に始まり、スパッと終わる。つまりとても見やすい。筆者は120分超の長い映画でも好きになることはあるが、上映時間が長いこと自体をありがたがる趣味はあまりない。見やすいというのは純粋にいいことだと思う。


「両手で撃て」

本作は悪党が90分間撃ち合って生きたり死んだりする映画だ。繰り返して申し訳ないと思うがマジで他に内容はなく、それでも面白い。なぜか。登場人物全員が必死だからだ。

素人、チンピラ、仲介屋、革命闘士、武器商人、用心棒、殺し屋、ヤク中(該当者複数)――全員が拳銃を撃ちまくり、全員の銃弾が外れ、流れ弾や誤射が多発し、全員が負傷する。銃弾という死神が相手を選ばずに飛び交い、あさっての方向に外れ、たまに誰かに当たる。結果的に誰が死んでもおかしくない展開になり、実際死ぬ。それが繰り返される混沌の90分間だ。

エンターテインメントにおいて死ぬことは生きることだ。彼らの生きようという必死の努力は現実感を持って真に迫り、かつ現実でないからこそ笑いとして成立する。そう、書き忘れていたが本作はアクション・コメディ映画らしい。確かに笑えるパートは多いが、コメディって言いきっちゃうとちょっと違う気もする……。まあ各自で判断してほしい。


「動脈には当たってない。一時間半は生きられる」

「いくら短いと言っても間が持つの? 長ったらしい回想とかラブシーンとか入るんじゃないの?」そんなことはない。

一般的なアクション映画において人は殴られれば倒れ、撃たれれば動かなくなる。ジェイソン・ステイサムに殴られれば誰だってダウンするし、イコ・ウワイスに蹴られても立ち上がるインドネシア人はタフすぎてヤバいと俺も思う。ましてこの映画の登場人物ときたらヒーロー映画なら中盤のボスとして立ちはだかることもできないような一般悪党ばかりだ。先行きが不安になる気持ちは分かる。そんな疑問に対してこの映画は二つの答えを提示する。

一つはすでに出ている通り「銃弾が外れる」こと。もう一つは「当たってもなかなか致命傷にならない」ことだ。なにしろろくすっぽ狙いもつけずに発砲しまくる映画なので、運よく目標に届いた銃弾ですら肩や腕、脚を掠める程度で、FPSめいたヘッドショットや胸部への一撃はまず生まれない。そして致命傷でなければ失血死までには時間がかかる。もちろん死ぬほど痛いので撃たれた奴から叫んで地面に転がることになるが、上映終了には間に合わないという完璧な寸法だ。

なので登場人物たちはどんどんボロボロになりながらしぶとく無様に生き延び、かといって状況を劇的に変えることもできないままとりあえず撃ち合い罵り合い続ける。なんという混沌。なんというグダグダ。しかし90分間しかないのでテンポはいい。奇跡的なバランスで成立している映画なのだ。


制作側のREAL

つまり本作は「銃弾はあんまり当たらないし、拳銃の弾じゃ当たっても簡単には死なない。それでも面白いじゃん」を体現した映画だ。念のため書いておくが、アクション映画を安直に揶揄するような作品では決してない。

詳しくは上記の公式サイトを見てほしいが、要約すると本作監督ベン・ウィートリーは「銃撃事件の報告書を山ほど読み、娯楽の範疇に収めつつ実際の銃撃戦を想定した」と語っている。つまり監督にとってこれはREALな作品だったいうことだ。

「99%は実写。爆薬の起爆剤を500個、銃弾は6000発ぐらい使った」という撮影手法もREALの表現に繋がっているのだろう。なにより筆者は本作の映像がとても気に入っているし、これ見よがしな語り口からして監督もそう思っているに違いない。


以上です

以上です。いろいろ書きましたが要するにシンプルなアクション映画なので、好きな人は好き、興味がない人は一生見ない種類の作品です。見ないと損だとかいう大それた勧め方をするものでもないでしょう。

それがどうした、と思います。僕は劇場でこの映画を観て笑いましたし、さっき見返したところやはり楽しめました。だからたぶん同じように楽しめる人もいるはずです。とりあえずウォッチリストに追加して、それから引き金を引くか考えるというのはどうですか。さあ。さあ。


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