「ナイトバード」

同級生に名前を呼ばれた。現実で、ではない。

未だ昼前、私は世界史の授業の最中にあり、教室に響く声は教師の物だけだ。その同級生も別のクラスで同じ状況にあるはずだった。

しかしそれは幻でもない。声が聞こえた瞬間から私の視野は、左右の目で別の絵を見るように、現実の教室風景と同時に全く違う景色を捉えていた。

胎金界。魔術の世界、私の知る唯一の平行世界。同級生の平衡存在は石壁の倉庫で蹲り、無闇矢鱈にあらゆる神名を呟いていた。周囲の数名の女性から私は状況を理解した。彼女たちは魔獣の生贄にされようとしていた。

助ける。15年間、平行世界を視ているだけだった。ようやく手の届く範囲にチャンスが来た。

私には平衡存在がいない。私を呼ぶ人物の周辺を同時に無数に視ることはできても、胎金界に直接介入することはできない。

できるのは、現実人物の意識を平衡存在と同期させることだけだ。それでも助ける。私は椅子を引いて立ち上がった。 【続く】

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