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【TEX】アストロズは3年後も脅威。それがデグロムに賭ける理由となる

去年もこの時期に1日でものすごい補強してたなと思い出したもりまるです。日本時間12月5日に開催予定の各チームの首脳陣が集うウインターミーティングの2日前、MLB最高の投手であるジェイコブ・デグロムがレンジャーズと5年185M+1年37Mのオプション(行使条件は現在不明)で契約合意しました。

ジェイコブ・デグロムとは


デグロムのフォーシーム平均球速推移
(引用:Baseball Savant

普通のエース時代(2017年まで)

2010年のドラフト全体272位でニューヨーク・メッツが指名し、その年のうちに肘の靭帯を修復するトミー・ジョン手術を受けています。14年に彗星のように登場して新人王を獲得すると、以降17年までは普通のエース級として活躍します。当時はフォーシームの平均球速152キロ程度。ツーシーム、スライダー、チェンジアップ、カーブをまんべんなく投げ分けて、制球力も十分な穴の少ない投手でした。なお、この後がすごいので、あえて普通のエース級と記しています。

MLBのエース時代(2018~19年)

実力者として認められてきたデグロムですが、18年にフォーシームの平均球速がそれまでの152キロから155キロ付近まで上昇。スライダーその他の球種も同様に球速が上がり、この頃から球種もスライダーとチェンジアップにしぼり始めます。奪三振が増えて安定感が増したこともあり、2年連続でナ・リーグのサイ・ヤング賞を受賞します。この時点で現役最強クラスの投手として、ファンには認知されていたと思います。

出力が人間の限界を超え…(2020~22年)

新型コロナウイルスの影響で短縮シーズンになった2020年。2年連続でサイ・ヤング賞の右腕にまだ伸びしろがあったのかと驚愕させた年となります。平均球速はさらに上昇して159キロ前後となり、先発なのに160キロどころか162キロなどのボールが当たり前に。なお、球速は上がっても制球力の高さは健在であり、特にスライダーのコマンドはこれだけのパワーを持ちながら最高峰のものを持っていると思います。添付の画像はスライダーをどこに投げたかを示したものですが、すっぽ抜けて高めにいきましたなどというボールは一球もなく右打者の外角低めにロケーションが集中していて、芸術的な絵と思えます。重ねて言いますが、160キロ以上の投球が当たり前の投手の制球力です。

デグロムのスライダーのヒートマップ 2022年
(引用:Baseball Savant

ただし、この人間離れした出力にデグロム、いや人間の体は耐えられるようにできていなかったのか、この頃から故障が増えてしまい、21、22年ともに100イニングすら投げることはできていません。この耐久性は今回の大型契約の最大の懸念点でしょう。

また22年のデグロムの防御率は彼にしては悪い3.08であり、故障による量の貢献のみならず、質の方つまり能力的にもすでに衰えが始まっているという心配もあるかもしれません。が、こちらに関しては35歳以降で球速が大幅に低下するなどがなければほぼ問題ないものです。

デグロムの各種成績
(引用:Baseball Savant

MLB公式のデータサイトであるBaseball SavantにはxERAという指標があります。これは防御率の期待値と捉えてください。この数値は運などの要素を可能な限り排除したものであり、現実の成績とは必ずしも一致しませんが、そのときの投球内容なら普通だとこれくらいだよね、という数値です。これを見ると、18年以降はほぼ安定して2点台半ばを切る数値で、22年も2.24と上々です。これよりいい数字を出しているのはごく一部のクローザーのみであり、先発ではベストです。ただし、投球回が少ないのでもし200イニングくらい投げていれば悪化していたかもしれないし、この数字が未来を保証するものでもありません。あくまで22年が衰えの始まりだったのか、に対する異論の一つというところです。

レンジャーズのお財布事情

お金払いがいい理由は相変わらず不明

21年は100敗チームにも関わらず、オフに大型補強宣言を発するやコーリー・シーガーマーカス・セミエンといったビッグネームと各種想定記事より長い年数でリスク特大の大型契約を敢行し、今またデグロムにも同様の想定より長めの契約でオフシーズンの目玉を獲得したレンジャーズ。たしかにオーナーのレイ・デービスは石油関連の事業で成功したビリオネアであり、石油価格高騰で資産も跳ねてきてはいますが、各チームのオーナーも同等かそれ以上の資産家がそろっています。80歳という高齢で一刻も早くワールドシリーズ制覇が見たくなったのかもしれませんが、なぜ急にお金が出てくるようになったのかは不明です。

総年俸過去最高は170M

レンジャーズの過去の総年俸推移
(引用:Cot's Baseball Contracts

上図のとおり、レンジャーズの過去最高の総年俸、いわゆるペイロールは170M程度です。今回のデグロム獲得やクオリファイング・オファーを受諾したマーティン・ペレスの残留などで50Mほど増えたので、現時点で162Mに到達。例年と同じならばここで打ち止めとなる気もします。

2023年の現時点のペイロール
(引用:sportac

2023年の贅沢税ラインは233M

22年にすったもんだがあった中で成立した労使協定で贅沢税支払いの上限は23年には233Mとなっています。贅沢税の基準までは70M程度あるということですね。かつてそのライン付近まで投資したことがないチームではありますが、予算がどの程度残っているかは不明ながら、ペレスの20Mは23年1年限りであり、もう身動きが取れませんということはおそらくないでしょう。これで限界、あとはジョシュ・ヤングジャック・ライターたちプロスペクトに賭けますだとそれはそれで面白いかもしれませんが、そこまで愚かではないと思いたいところです。

博打の理由は同地区ライバルか?

通常の再建チームの動きは、

  • 下位に低迷して資金を節約し、プロスペクトを貯める

  • 復調狙いの選手をかき集めて、トレードで対価を得る

  • プロスペクトの成長に合わせて徐々に補強へシフト

  • 大型契約は勝負に出るタイミング

のようなプロセスを取りますが、レンジャーズはトッププロスペクトのデビュー時期を前にして勝負に出るような大型契約を連発しています。FA選手は年俸が競合して割高になりやすく、また基本的に年齢が高めでキャリアの全盛期が基本的には30歳前後ということを考えるとFAに頼ったチーム構成は特大のリスクをはらんでいます。それでもなぜ今勝負に出ているのか。それは22年に危なげなくワールドシリーズ制覇を成し遂げた同地区のヒューストン・アストロズを仮想敵とした場合に、通常の再建策では太刀打ちできないと判断しているからではないかと推測しています。

現ワールドチャンピオンのアストロズはおそらく3年後も5年後もMLB屈指の強豪でしょう。

  • リーグトップクラスの資金力

  • 若手・現役を問わないスカウト力

  • 無名選手を一流に仕立て上げる育成力

  • 組織全体から醸し出される勝利への貪欲さ

ア・リーグ西地区に編成された際には微塵もなかった勝利の哲学のようなものが確立されているこのチームと今後も渡り合っていかなければなりません。そうなった場合、彼らほどの育成力やスカウト眼を備えていないチームはどこかでリスクを取ってでも大きなリターンを期待できる動きをしなければなりません。トッププロスペクトの成長は必ずしも約束されたものでもなく、半分程度モノになってくれれば上出来といった感覚です。ただ若手の成長を待っていても、帝国化したアストロズにはいつまでも届かないという未来が待ち受けているかもしれない。そして、お金を節約しても贅沢税がある以上、一気に投下できるわけでもない以上、余っているなら使ってスター選手を獲得し、新型コロナウイルスで機会損失した新球場の客足を増やし、放映権の元となるローカルTVの契約件数をより広げていこうという動きは理解できるものです。

23年のア・リーグ西地区は面白い!

ポストシーズンでアストロズと勝敗の結果よりも密度の濃い争いを繰り広げたシアトル・マリナーズも精力的にトレードを敢行し、戦力を整えています。彼らは今のレンジャーズと異なり、正攻法の再建策を進めて21年ぶりのポストシーズン進出を果たしました。もちろん今年も同地区ではアストロズ打倒の最右翼となるでしょう。もちろん世紀の傑物であるマイク・トラウト大谷翔平を擁し、タイラー・アンダーソンらを獲得したロサンゼルス・エンゼルスも大谷が契約延長しなければラストイヤーとなる今年にレンジャーズ以上の意気込みを見せてくるはずです。オークランド・アスレチックスは再建まっしぐらで総年俸がデグロム1人くらいのチームになるかもしれませんが、ショーン・マーフィーは大量のプロスペクトを補充できる人気株であり、その動向は注目でしょう。立ち位置もカラーも5チームすべてで個性があるア・リーグ西地区、来年も楽しみにしたいですね。

ダニエルズが解任されてクリス・ヤング体制が確立したり、名将の誉れ高いブルース・ボウチーが監督になったりも大きな話題ではあるのですが、デグロム獲得のインパクトには及ばないので、割愛とします。また大きな動きがあれば更新します。



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