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Mr.Children『Your song』のMVを考察していたら夜が明けていた

2018年10月3日、Mr.Childrenの新アルバム『重力と呼吸』が発売される。

つまり明日、家に待望の新譜が届くのだ。3歳児のときに聴いた名もなき詩がミスチルとの出会いだったと思うと、あと少しで結成30周年になろうというモンスターバンドがいまだコンスタントに新譜を出し続けてくれることに、感謝しかない。

楽しみで、ソワソワして、なんだか今日はほんとうに、遠足が楽しみで寝つけない小学生のような夜だ。もう真夜中だというのに、ついスマートフォンの画面の明かりをつけて、”Mr.Children”と検索する。

アルバム曲からMV3本解禁!!』

えっ、なんだって。そんな、そんな情報を前に自分を抑えられるほど僕はできた人間ではなくて、今の僕はまさに、よだれたらして甘い飴の前でおあずけをくらったまま放置されてるわけで、サディスティックなプレイだとしたってそれはもうたのしめないくらいにただ鞭打たれてるわけで、明日仕事があったって、我慢するのは無理だった。

気がつくと僕は、【Your song (Original Story)】というMVを観ていた。アルバムの収録曲『Your song』を背景に、男女の物語が進んでいく。観た。観終わった。あきらかで、あからさまで、いやらしいほど「あれっ、これってどんな意味が隠されてんの?」と思わせる、Mr.Childrenらしいメタファーが仕込まれていた。ああダメだ。書いてみたい。明日も仕事があるけれど、僕なりの考察を書いてみたい。書くね。

メタファーになっているのは、MVの舞台となる「豊洲駅」の駅看板だ。

小さな奇跡が日常に溢れていたとしても

それに気づくほどの心の余裕がなかった。

MVはこんなセリフと、「豊洲駅」の駅看板を映し出して幕を開ける。そして、とある男女の物語が始まる。

それは、あまりにも平凡で冴えない毎日の中、いつしか奇跡を求めることすら止めた男の子と、指を鳴らすとささやかな奇跡を起こすことのできる女の子の物語だった。

奇跡なんか起きない、つまらない毎日をただぼんやりと過ごす男の子。

ささやかな奇跡を起こせることで、いつしか奇跡を求める人々の欲望に押し潰された女の子。彼女は「魔女」と呼ばれ、ひとり心を閉ざす。

それでも。

それでも人は
否応なしに奇跡に出会う

このメッセージを最後に、『Your song』が流れ出す。

Mr.Childrenが演奏する「豊洲駅」の移動通路で、彼らは出会う。

いいことなんてなんにもなかった彼らは、二人で時間を重ねるうちに、いいことなんてなんにもなくて最低だったはずの自分が、そんな自分のまんま、相手の傷を癒したり、心の穴をふさいだりできることに少しずつ気づいていく。そうやって痛みに触れて、また愛を育んで、ありきたりな幸せの中に帰っていく。

最後に、演奏を終えた桜井和寿が目を閉じて、願いを込めるように指を鳴らす。

すると再び「豊洲駅」の看板が現れ、物語は終わる。

お気づきだろうけれど、
Toyosu」が、「To you」に変わってる。

「ん!?」ってなる。そりゃあなる。なった瞬間の、「はいきたミスチル」感ね。これが最高ね。で、考えてみたんだけど、「Toyosu」から「s」をなくすと、「To you」になるんだけど、僕はね、これ、「s」ってのは「es」のことじゃないかなと思ったんです。

Mr.Childrenの過去の作品に、「es」という曲があるんです。”es”ってのは簡単にいえば、「自我」のこと。「エゴ」なんて言ったりもする。どうしようもなく本能的で、無意識的な自我。そんな「es」という楽曲の中で、桜井和寿はこんな歌詞を残しているんです。

よろこびに触れたくて明日へ
僕を走らせる”es"
よろこびに触れたくて明日へ
僕を走らせてくれ 僕の中にある"es"

つまり、若かりし桜井さんを走らせていたのは、自我。桜井さんが自分を前に進ませてくれると信じていたのは、自分の中にある自我だったんだよね。

だけど、今回のこのメタファーは、そんな「自我」を、「es」を、「s」を脱ぎ捨ててみれば、「To you」、つまり「あなたへ」の思いに突き動かされる新しい自分に出会えるのかも、というメッセージなんじゃないかと思ったんです。「自分」のことばっかり見るのをやめて、目の前の「あなた」への思いで前に進んでいくことができたなら……なんて、そんな願いを込めているような。その願いは、Your songの歌詞を聴いていても、なんだかリンクしているような気がしました。

苦手意識を持ってた食べ物もスポーツも 堅苦しい場所も君が勧めるなら無理なんかせず 受け入れることができたんだ

自分を脱ぎ捨てることができた今の僕にとっては、

時に僕が 窮屈そうに囚われている考え事に
なんてことのない 一言でこの心を
自由にしてしまう
飛び込んでくる嫌なニュースに
心痛めて また時には
ちっちゃなことで 笑い転げて
一緒に生きていく 君のエピソードが
特別に大きな 意味を持っている
そう君じゃなきゃ 君じゃなきゃ

一緒に生きていく「君」との毎日が、特別に大きな意味を持っている。
それはきっと、これまで自分が大切にしてきた「自我(es)」なんかよりも、よっぽど大きな意味で。

だからこの曲のタイトルは、主語は「僕」で、「僕」のことを歌ってるけど、『Your song』。『To you(あなたへ捧げる歌)』でも、『My song(僕の歌)』でもなく、『Your song(あなたの歌)』。僕を明日に走らせてくれるのは、僕なんかじゃなく君だった。「僕」のことを歌ったこの曲だって、もはや君の曲だった。この曲の主役は、僕の主役は、君じゃなきゃ、君じゃなきゃ。
『Your song』というタイトルは、そんなメタファーも背負っているんじゃないかと思いました。

で、最後に、奇跡なんかちっとも起こらない男の子も、奇跡を求める人の欲望に押し潰された女の子も、これはどちらも桜井さんの心を表現してるんじゃないかなと思っていて。創り出す音楽に、奇跡みたいな出来事を起こす力を期待されている気がして、桜井さん自身押し潰されていたんじゃないかなあと。そんな奇跡なんて、ちっぽけな俺には起こせないんだっていう、桜井さんの心の叫びがあったんじゃないかなあ。

だけど、「Toyosu」から「s」をなくしたら「To you」だね、なんて、そんなほんとうにちっちゃな奇跡なら、自分(桜井さん)にも起こせる。そんな小さな奇跡でも、誰かの心に、日常に溢れているかもしれない小さな奇跡に気づける余白を作ることができたなら……なんて、そんな願いがこのMVには込められていたりして、と思いました僕は。あーすっきり。あー好き、ミスチル。あれやこれや考えれるこの感じめっちゃ好きミスチルの世界。

実際そうなのかは全然わかんないけどね!「Toyosu」から消えた「s」は3人称の「s」で、つまり「僕と君だけ」ってことだとか、アルバム収録曲「singles」の「s」で、僕たちはもう一人じゃないよってことだとか、いろんな考察があるみたいで。全部おもしろいよね。あと、"音楽的には今までのアルバムで一番自分たちの自我が出てる"ってインタビューで言ってるしね。でも僕は自分で思いついた説にすごくゾワゾワしちゃったので、誰かにもちょっぴりゾワゾワしてもらえたらなと思って書きました。

ミスチル、最高でしょ?

はい、いらっしゃい。とりあえず、聴いてみて。

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