20221123-帰省

今日は、高校の友人2人と執事喫茶に行った。親にも執事喫茶に行くことを話してはいたが、私のイントネーションと滑舌の問題で、羊とふれあいに行くと思われていた。

執事喫茶では、「お嬢様」「奥様」「おぼっちゃま」「旦那様」から呼び方を事前に選択することができる。元々、高校の女友達Rと2人で行くところだったのを、執事の「おぼっちゃま」を聞きたいという理由で男友達Hもそこに誘った。「おぼっちゃま」「旦那様」という2つの選択がHにあるとはいえ、あいつは「おぼっちゃま」を選ぶだろうという謎の信頼があった。その期待通り、Hは「おぼっちゃま」を選択していたし、サスペンダーを買ってきて、一人称もなるべく僕にするなど精一杯おぼっちゃましてくれた。

入店後、燕尾服を着た執事達に、おかえりなさいませお嬢様おぼっちゃまと出迎えられた。おぼっちゃまにだけフォルテがついていたのか、強調されているような気がした。執事の香川です。と名乗ってもらった後、席まで荷物を持ってもらい、椅子をひいてもらって座る。執事香川、全然香川顔じゃなかった。

シャンデリア〜✨みたいなシャンデリアと想像よりも多くいた執事に圧倒され、私たちはしばらく小声で喋っていた。席について執事香川と少し談笑していると、いつのまにか「幼少期に家を出てから久しぶりのご帰宅」という体で話が進められていた。ここでは、物分かりの良さが必要となる。私たちは、「あ、私たちは幼少期に社会勉強のために家を出ていき、久しぶりの実家なのね。」と持ち前の物分かりの良さを発揮し、「あの棚昔壊しちゃって爺やに怒られたよね。」とか「照明変わって雰囲気が暖かくなったわよね。」とかありもしない思い出話に花を咲かせた。1番適応力が高かったのは、元演劇部のRだった。どこか庶民感が拭えない私とHに対して、Rは執事香川のメニューの説明に「ええ」とお嬢様らしい相槌をしていたし、笑うときに口を手で覆い、いつもより上品な笑い方をしていた。飲んでたのはりんごジュースだったけど。

執事香川は、メニューのどこを見ているのか分かっていない私が、お酒のページを開いてしまうと、ああいけません!お嬢様!と制止してきた。その反応が面白くて、もう一度お酒のメニューを見てみたくなったが、私は執事を困らせるようなお嬢様ではないのでぐっとその気持ちを抑えた。

あの場所では、紅茶をおかわりするのにも、お手洗いに行くのにも、机のベルを鳴らして執事を呼ぶ。Hと私が、ベルの鳴らし方をどう鳴らせば優雅なのかを考えているうちに、ロン毛で高身長の執事が紅茶をお注ぎしますかと来てくれた。そして、ベルを片手に鳴らしたそうにしていたHを見て、「もう既に私がおりますので、鳴らしてみたければ鳴らしても良いですよ。」と言った。察する能力が高い。Hは、人差し指と中指で持ち手を挟んでみたり、シンプルに持ち手をつまんでみたりと持ち方を色々と試してみた後に、「どう、鳴らすのがいいですかね、、?」と執事に聞いた。こいつは執事に何を聞いているんだろう。ロン毛執事はそんなよく分からない問いにも微笑みながら、「お好きに鳴らしてください。それが世界のルールになるのですから。」と返した。執事ってすごい。

しばらく経った後、執事香川が「社会勉強の成果を見せていただきましょう。」と伝票を持ってきた。そうだよね。お嬢様は普段の支払いなんて全て執事に任せているもんね。私達は、それじゃ長い社会勉強の結果を見せちゃおうかなと会計を済ませた。その後、スイーツを食べ終わり、紅茶を飲んでいると「お嬢様、おぼっちゃま、そろそろお出掛けのお時間でございます。」と終わりの時間を告げられた。あっという間だった。
執事香川にまた椅子を引いてもらって席をたち、コートを羽織らせてもらい身支度を整えた後、「いってらっしゃいませ。」執事達に見送られながら、私たちは外へ出た。

外は大雨だった。家に帰り、体をあたためるために温かいミルクティーでも飲もうとした時、これお湯を沸かすところから自分でやらなきゃいけないんですか?ベルを鳴らしたら執事香川がいれてくれるんじゃないんですか?となったので執事喫茶ってまじですごい。

自室のベッドで横たわっていると、一階のリビングから時々大きな歓声が聞こえてきた。今日は日本とドイツのサッカーの試合らしい。インスタを開くと、元サッカー部が、さあ俺の出番ですよとばかりに日本ドイツ戦への興奮を発信し、サッカーとか知らなそうな女の子達がオフサイドがどうとか言っていた。私ってスポーツ観戦でそこまで興奮したことってないな。別にスポーツ観戦以外でもないんだけど。執事香川も日本の勝利に興奮して、ニッポン!ニッポン!とか言って拳を突き上げたりするのかなとふと思った。
私はもうお嬢様からどこにでもいる大学生に戻ったので、明日も普通に1限がある。


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