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狐につままれたような丼を彼女と食べた時の流れぬ定食屋

 数日来の熱帯夜が嘘のように涼しく、窓を開ければクーラーも不要なほど。とはいえ、ちょっとでも熱がこもれば部屋中に騒音を撒き散らすポンコツ冷却パソコンだから、そうも行かない。あきらめて窓を閉め電源を入れ、送風用サーキュレータも作動させる。それでもファンの唸りと風切り音が室内に響き渡るが、室温が下がれば多少はましになるはずだ。温度管理しつつ、だましだましブラウザやメーラ、ソーシャルサイトのクライアントを次々と立ち上げる。起動項目リストで自動化できるが、夏場は熱がこもりやすいので手動にせざるを得ない。
 受信メールやソーシャルの通知を仕分けしつつ、メッセンジャのフレンドを確認する。先日、いい感じのとんかつ屋を教えてくれた海辺の彼女もログインしているものの、どうやらお友達とやりとりしているような雰囲気だ。こちらからは声をかけず、少し様子見かと思ったら、その彼女からメッセ受信。そこから挨拶に始まってネットのゴシップ、ちょっとした不満やグチ、ペットのことなど、取り留めもない話が楽しい。
 夜も更けて、そろそろお開きにしようかというころに、彼女が『そういや、最近の出会いはどうよ?』と送ってきた。別に隠すようなこともないが、特に面白いネタもなかったので、少し前に猫っぽい感じのショートカット娘といい感じになったものの、色々あってうまく行かなかったことを正直に話す。間髪挿れず表示されたレスは、どう考えても大喜利めいた挑戦だった。
『若い女に さよならバイバイ♪』
 ご丁寧に音符まで添えてある。この勝負は受けて立たねばと、ない知恵を無理やり絞ってこちらも返す。
『オレはあんたと 旅に出る♪』
 反応が途絶えて不安になったころ、全く思いがけない文字列が表示された。
『そうだ! 京都、行かない?』
 文字列を確認、内容を理解した瞬間、沸き上がったのは驚きや喜びではなく、上滑りした冗談を華麗に見送られた敗北感だった……。
 
 それからなんだかんだやりとりして、本当に彼女と京都へ旅行することとなった。

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