冷蔵庫

冷蔵庫の扉に映った夏の終わり

・作者より
本作はフォトストーリーEl color de rosa solidarioの続編です。
単体でも十分にお楽しみいただけますが、前作もあわせてお楽しみいただけると幸いです。

 急坂をのぼって階段路地を超え、ペンキ塗りの庭木戸を開けたとき、既に大半の家財は運び出されていた。回収待ちの廃家具をならべた前庭とは対照的な、がらんとした屋内で、スウェット姿の娘だけがお茶をすすっている。
「遅かったね。ママはもう行っちゃったよ」
 やや上目づかいにくりくりした大きな瞳を輝かせ、娘はなぜか妙にうれしげだ。
「そうか……じゃ、薔薇色の連帯も今日でおしまいだな」
「でも、ママとは『フレンド』なんでしょ?」
 無邪気そのものの笑顔を輝かせる娘は、本当になにも知らないのだろう。
 いや、なにも知らないのは自分も同じ。ただ、女主人と俺の関係が、娘とのそれとは少しばかり違っていただけだった。
「それがさ、アカウント消しちゃってるんだよね。ママ」
「ほぇ! マジ?」
 心底から驚いている娘の顔をみながら、女主人が俺のことをどう思っていたのか、いまさらのように全くわかっていなかったことに、自分自身も驚いてしまう。そして、それ以上にわざわざやぶにらみ気味の寄せ眉と、唇を尖らせる変顔まで作って予想していなかったことを誇示する娘と女主人との感情についても、たぶんわかっていないのだろう。
 とはいえ、俺は女主人と自分との関係を積極的に気にかけたことはないし、考えることもない。ついでに言えば娘の人となりや、彼女と女主人の関係性についてもそうだ。ただ女主人と娘との関係も、俺と同じような距離感だったとは、いささかなりとも思っていなかった。それどころか、いわゆる同性愛関係が基盤で、たまに刺激を求めて異性との肉体関係も楽しむという、快楽追及のスウィンガーめいた印象を持っていた。
 自分の認識が根底から覆ったこともそうだが、無意識にしても古臭い両性愛者のイメージをそのまま投影していたことに思い至るのはあまり愉快なことじゃない。
 なぜなら、それは客観的な認識の仮面をかぶっていただけでなく、その下には自分だけポルノ男優と女優めいたその場限りでありながら、相手のふたりには安定した関係であってほしいという、あまりにも虫のよすぎる願望が潜んでもいたことに、いまさらながら気がついてしまったためでもある。
「私は最初から期間限定のつもりだったけど、おじさんとママはそうじゃない思ってたんだけどなぁ」
「期間限定って?」
「もともと、ここって立ち退き前提だったじゃない? 最初からそれまでの間だけって、そういう約束だったのね」
「それにしても急じゃない?」
 ふたたび大きな瞳をくりくりさせながら、珍しく意味ありげなためを作ると、娘は口先だけでちょっと早口で言う。
「旦那のコネでいいとこみつかったのよ」
「へぇ、そうなんだ」
 ちゃんと声をかけてもらったのに、それでも流しそうめんを逃してしまったような無様さへ気がついた瞬間、娘から「ねぇリアクション薄くない?」とつっこまれる。ただ、そうはいっても娘は俺のそういうところを把握しているようで、すぐに「でも、おじさんのそういう鈍感なところ、ママは割と気にいってたんだけどね」と、フォローにならないフォローも入れる。
「旦那ってさ、ここにも来たんだ」
「そそ、もとはママの紹介だからね」
 娘の口元に淫靡なほほ笑みを感じたのは、気のせいだろうか?
「じゃ?」
「もちろん」
「うわぁ! まざりたかったな!」
「おじさん、忙しかったしね」
「それにさ」
「それに?」
「おじさんだと、みられてる感じしないのよね」
 娘は申し訳なさそうなため息をひとつ。そして「なんか、ふつうっていうか、ドキドキしないのよ」と続ける。
「あぁ……」
 確かにそうだった。ここしばらくは妙に忙しく、女主人の誘いを断ったことさえある。それに、娘の『ふつう』にも、思い当たる節があった。
 そもそも、はじめてこの家に招かれたのも、互いにみたりみられたりしつつ行為する、そのためだった。おそらく、娘がいう旦那も最初は同じだったのだろうが、他人のセックスを間近にみる、あるいは人前で行為することへの初々しい興奮や刺激が、彼のなにかを目覚めさせたのであろう。
 そして、それこそが思い当たる節、だった。
 俺はイベントなどで参加者らが突発的に始めたとしても、いちおうはみないようにしつつも驚きを装いはする。なぜなら過剰な関心はもちろん、無関心もまた興をそいでしまうから、抑制的に関心をもつそぶりはみせる。あるいは快楽追及のスウィンガーに混ざって楽しむ際にも、とりあえず『こういうのは初めてなので、みなさんにおまかせします』ていで、あまり前へ出ないように心がけているつもりだ。
 当然、それらはいずれも主催や中心者との関係によって大きく変化するものではあるのだが、いずれにしても『空気になりつつ、こぼれた人がいればケアも考える』という姿勢が基本だ。そして、娘がいう『ふつう』が自分のそういう態度を指していることは、ほぼ間違いなかった。
 まぁ、そもそも俺は身体接触や挿入への欲求だけが過剰で、そのほかのフェティシズムについてはぼんやりしていたというか、よくいえば中立的な態度だったところが、ひと癖もふた癖もあるヘンタイさんたちとも無用の摩擦を生じることなく、なんとなくうまいことやっていけた要因だろう。
 だが、それもまたひとつのフェティシズムであり、その代償もある。もしヘンタイ界隈で誰かといい感じになっても、たいていはそれでおしまい。なにせ、フェティシズムの不一致は論外なのだ。
 その先に進められる相手は、俺と同じフェチを抱えた誰か。つまり、身体接触や挿入への欲求だけが突出しているか、あるいは次々と相手を変えていくスウィンガーだった。とはいえ、俺と同じフェチを抱えた誰かなんてそうそういるはずもなく、またスウィンガーは誰とも長続きしないから、結局はどんなに頑張っても一夜限り。
 そう、俺と女主人との関係もそれだった。互いにスキマ時間で遊べればそれでいいと、そういうつもりだったはず。
 そう、少なくとも俺は、俺自身は、自分もそのつもりだったはずなのだが……。
 なくなってから気がつくものもあるのはわかるが、自分はそんな人間ではない、なりたくないってつもりはあったのだがな。
 がらんとした空っぽの部屋で自分のそういう空虚さに気がつくなんて、出来すぎているにもほどがある。
「でさ、おじさんなにしにきたの?」
 うっすらといら立ちをにじませた娘の声が、俺の甘くほろ苦い空想をすみやかに、そして生きたまま埋葬する。
「なんかママから渡すものがあるって話なんよね」
「あぁ! それならこっち」
 廃棄や処分と大書された段ボールをよけながら奥へ入り、黄色味がかった午後の日差しが差し込む廊下を進む。娘の若々しく張った尻に目を奪われていると、足元に散らばったガラクタを蹴飛ばしそうになる。
 細い木の柱と薄い壁の和室は、いまどき珍しい畳敷き。低い天井にぶら下がる電灯はモダンなペンダントライトに更新されていたが、部屋の雰囲気を壊さないよう竹づくりを模したレトロ調の傘をかぶせていた。つと膝をついた娘は、たてつけの悪いふすまをぐいと開け、押し入れの下段へもぐりこんだ。
 夏の西日が照らす尻へ、つい手を伸ばしそうになる。俺が膝をつくと同時に娘が後ずさりをはじめ、じっとりと汗ばんだきゃしゃな背中が目の前に立ちあがる。よける間もなく娘の身体が顔に迫り、首筋が俺の鼻面をこすっていった。
「あ、ごめん」
 倒れかかる娘を胸で受け止めつつ、手を突こうと前へ腕を伸ばしたら、反対にもたれかかるような体勢になっていた。
「ごめんごめん」
「おじさん、わざとでしょ」
 細い腰にからみついた俺の腕をそっとほどき、娘はゆっくり立ち上がった。
 追って立ち上がろうとした俺の額に手をそえ、み下ろすように目線をあわせてくる。そして、ゆっくりとほほへ両手が動き、やわらかな掌に包まれる感触を楽しんでいたら、顔が娘の太ももへ押し付けられていく。

 これは、もしかして、もしかするか?

 かすかに汗ばんだ太ももの感触とセックスの期待に、俺は顔が醜く歪んでいくのを止めようとも思わなかった。
 娘は静かに俺の頭を引きはがし、若い床屋のようなぎこちなさであごに手を添え、互いにみつめあうよう顔を上にむける。
「ほしくなった?」
 枕元に蝉の死骸をおく猫のようなほほ笑みが、俺の上から降り注ぐ。
 当然のように大きくうなずく俺に、面白くてしかたなさげな声が響いた。
「残念、ダメなの。もうすぐ旦那が来るから」
「えぇっ! ほんまか」
 どうせこういうオチだったろうとか、そうそううまい話はないよなぁとか、自分で自分に突っ込みを入れている間に、みるみるテンションは下がっていく。自分でもあまりにあからさまで、娘が苦笑しているのもわかったが、場の雰囲気を気遣う余裕などかけらもなかった。
「ごめんね。おじさんのほしくなった顔、最後にもっかいみたくなっちゃってさ」
「ひどいなぁ」
「でも、おじさんの反応がそんなにかわいいなら、もっと前にやればよかった」
「だめだよ。そしたら襲っちゃうよ」
「おじさんは襲わないでしょ? 嫌がったらそこで止めてたもの。いつも」
「まぁ、そうだけどさ」
 実際、こんな風にふたりきりでも相手が積極的にならない限り、こちらから仕掛けてはならない。もちろん力づくは論外だが、明確なサインがあるまで待つことが、自分自身をも守るすべでもあることは、いくつもの苦く高い代償を支払って学んでいた。
 とはいえ、娘からきちんと「マテ」をしつけたペットのように思われるのは、それが事実であってもいささか面白からぬことでもあった。
 まぁ、いいさ。
 気持というか、場の空気を入れ替えようと思ったのは、娘も同じだったろう。すっかりうっちゃられていた押し入れの荷物を引っ張り出し、先ほどのやり取りなどなかったかのような笑顔で「これよ、これ」と木箱を軽くたたく。
「これ、茶箱じゃない?」
「わからないけど、箱ごと持ってっていいって。ママは『おじさんなら欲しがる』って、そう言ってたよ」
「確かにほしいけど、これじゃ宅配かなにかで送るしかないな」
「旦那の軽トラに積んでもいいよ」
「それは大げさすぎない?」
「どうせこれから来るし、おもての冷蔵庫もってくからさ。気にしなくてもいいよ」
 こういう屈託のなさと、やや込み入った性欲のありようの同居が、たとえようもないほどの魅力をもたらしていることに、当人は気が付いているのだろうか?
 ともあれ、やや小ぶりだが使いこまれた木目の茶箱をみていると、がぜん興味がわいてくる。こりゃ控え目にいっても、昭和末期からのタイムカプセルだ。ところどころはがれかかった目張りの紙テープや、すすけたラベルもいとおしく感じる。
 ありがたく頂くとすることとして、ひょいと持ち上げたら中身がごとりと動いた。
「ありゃ、なにか入ってる」
 ひとまず床に置き直し、慎重にふたを持ち上げた。
「おぉ! カメラじゃん!」
 丁寧に敷き詰められた新聞の上に、おそらくは深紫か濃紺のカメラケースとレンズがひとつ、そしてフラッシュであろう黒い物体などなどが、ごちゃっと固まっていた。ちらっとみえたときには、とにかくカメラっぽいなにかであることに期待を寄せてしまったが、冷静に観察するとガラクタにしかみえない。
 重さから考えて、ケースは空ではない。その中にはカメラやレンズも収まっているだろうが、むしろそのことが期待感をいちじるしくそいでしまう。おうおうにしてケースは湿気を含んでしまうので、入れたままだとカメラの劣化を速めるばかりだった。また、それ自体も皮脂や紫外線で合皮が傷みやすく、腐食が始まるとべたついて内部のカメラにも粘着し、手の施しようがなくなるのだ。
 ジェットコースターか荒れる先物相場のように乱高下する俺の気分は、思い切り表情にも出ているのだろう、娘はやや心配げに「だめっぽい?」とささやきかける。
「正直、期待は持てないけど、でも確かめてみるよ」
 そういいながら茶箱をいったん廊下へ出し、慎重にカメラケースを持ち上げると、やさしく上蓋を開いた。案の定、合皮はかなり劣化しており、ちょっとでもこすれたりまがったりすると、そこから細かい破片がはらはら舞い落ちて行った。
「やばいな……」
 予想通りとはいえ、つい顔が渋くなる。そばでみている娘も不安そうだが、合皮の崩壊がおさまったところで、いよいよ本体とご対面だ。底カバーを静かに取り去ると、安っぽいプラ外装や手あかで変色したゴムの指あてが現れる。運がよいことにフィルムは入っておらず、操作ボタンの感触も悪くない。レンズは本体に装着されていた標準ズームと、単焦点がひとつ。どちらも外観は手ずれでてかてかしているが、光学部に顕著な問題はなさそうだった。
 手早くフィルム室と電池室、そしてファインダを確認し、さて電池を探そうかと立ち上がったところで、娘の視線に気がついた。
「ごめん、つい夢中になってて」
「おじさん、顔がエロかったよ」
「マジ? さっきよりも?」
「マジ、マジ。手つきもいやらしいし」
 俺のまねだろうか、娘は口元をだらしなく緩めつつ、なにかへ這わせるかのように指先をねっとりうごめかせる。おいおい、これじゃまるでヒヒ爺じゃないかと苦笑しながら、娘に「そこまでエロくないだろう」と返したら、さらに「おじさんってコーヒー淹れるときもやたらエロいんだよ? 知ってた? わたしやママを触ったりみたりするより、カメラやポットもってるときのほうがずっといやらしくて、嬉しそうなんだよ」とたたみかけられてしまう。
 どうにも居心地の悪い、なにか申し訳ないような気持に襲われ、いったんカメラを茶箱へ戻しつつ、なぜか「ごめんね」とわびてしまう。俺にとってのセックスは成熟した人間たちがお互いに合意して楽しむものであり、そこに『義務と演技』のような虚無を介在させてはならない、はずだった。
 だから、セックスとは誠実に向き合っていたつもりだったのだが、そうでもなかったということなのだろうか?
「あやまることないよ。わたし、しなくてもいいしね。ここでママと過ごしてわかったんだけど、だれかが興奮していく瞬間が好きなの」
「興奮?」
「そう、ここに来た人たちがわたしやママの裸をみたりして興奮するでしょ。その、興奮していくところ。だから、来る前からガンギマリっていうか、ギンギン濡れ濡れの人ってあんま好きじゃないのね。つまんないから」
「興奮する瞬間はわかる?」
「わかるじゃん? あ、おじさんはあんま急に変わらないほうだね。けど、みんなぱぁっと、ほんといっきにモードが変わるの、わかってるでしょ?」
 うなずきながら「でも、ママも変わらないほうじゃない?」と聞く。
 ふと、娘は目を泳がせた。
「変わんないっていうか、ママなんか違うから。わかってるっていうかさ? はじまってもふつうなの。でも、気がつくとモードチェンジしてる。だから、最初はすごくびっくりした」
「そういうの、つまんない?」
「つまんなくはないけど、怖い。なれるかと思ったけど、だめだった。だからもう、ママとしないの」
 いつしか夏の昼下がりは夕暮れへ変わり、黄色味を帯びていた日差しにも朱がさしていた。俺は「そうか」とうなずいて、茶箱を玄関へ運び出す。やはり、送るかタクシーで持ち帰るほうがよさそうだ。部屋へ戻ると、娘は携帯をいじっている。
「旦那、少し遅くなるって」
「ふふ、またエロ顔みたくなった?」
「違うよ。ほんとに遅くなるって。メッセ来たの」
 再び欲望がこみ上げ、のどの渇きにも似た、あるいは胃袋が持ち上がるような、圧迫感を覚え、心拍数もいっきに増える。しかし、こんどは娘に余裕が感じられなかった。挑発的なほほ笑みや虚勢の飾りをまとうことのない、むき身の感情がそこにある。ただ、それは恐怖というより、自身の不用意さに対するいら立ち、あるいはわずかでも信用した人間に裏切られるであろうという悲しみに思えた。
 ちぇ、そういうつもりじゃなかったのか。いや、最初からそういうつもりじゃなかったよな。この娘って……。

 かすかにこわばった顔へほほ笑みを返すと、俺は「そろそろ行くわ」と告げる。

 茶箱を抱えて表玄関から出ると、白い冷蔵庫が夕日に照らされていた。家の中にあったときは、台所の油煙をかぶってかすかに黄色味を帯びていたような覚えもあったが、紅に染まってしまうとわからない。
 ただ、扉にはいくつか白味の強いところがあり、それらがあやふやなモザイク模様を形成していた。
 そう言えば、この辺にママが写真をはってたっけ。
 ビーチリゾートではっちゃける、トップレスのを。
 そういうプリントを冷蔵庫に貼るところが、ママらしいと言えば、そうだったな。
 さすがに持って行ったかと、妙にセンチメンタルな気分を楽しんでいたら、白い扉に人影が差す。振り返ると、まだ携帯を持ったままの娘が立っていた。
「さっきはごめんね」
 わざわざ出てきてくれたのは、いや、そういう期待はよそう。むしろ、もめごとへの心構えをしたほうがよいかもしれん。様子をうかがうように詫び言葉を口にしつつ、娘の反応を探る。
「ううん、こっちこそ、ごめんなさい。お別れの挨拶もしなかったし」
「大丈夫。で、なにかあったの?」
 照れくさそうな口元に携帯をかぶせながら、娘は「旦那、近くまで来てるって」と、きまり悪そうに答えた。
「あちゃぁ、じゃさっさと行くわ」
「送ってくよ」
 いちおう、少しだけ考えるそぶりをみせといて、意を決したように「ありがとう、でもやっぱりやめとく」と返し、軽く会釈した。
「それじゃね、さようなら」
「うん、またね」
 あまりにも無邪気な娘の言葉に、つい「またねって、もうあわないでしょ」などと、冷たいセリフをなげてしまう。
「そう? じゃ、うちのグループに招待しとくね。おじさん」
「グループって?」
 口にすると同時に、ずいぶん間抜けな反応だなと、われながらあきれてしまう。
「ソーシャルに露出のクローズドがあるの。おじさん、アカウントはあるでしょ?」
 露出のクローズドってなんなんだよ。いや、意味はわかるけど。
「うん、あるよ。受け取ったら参加しとくね」
「みにきてよ」
「いいけど、あんたもやるんだ」
 てらいも屈託もなくうなづく娘に、俺も小さなガッツポーズで約束する。
「おじさんだけの時なら撮ってもいいけど、みるだけよ。しないからね。さわるのもなしよ! 絶対!」
 こんどはうなづきながら親指を立てると、別れのあいさつに頭を深く下げる。
 そして、家へ戻る娘を背に茶箱を持ち上げながら、秋は虫がいなくなるからな、露出にはちょうどいいんだっけ、などと太平楽な空想をもてあそんでいた。

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