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ライターはいつ独立すべきか?

「取引先一つ」で独立してはいけない

編プロや出版社、あるいはまったく畑違いの企業に勤務している人が、フリーライターとして独立するにふさわしいタイミングとは、どんなときか?

これはなかなか難問である。個々の書き手の力量と立場によって違うとしか言いようがない。
「編集者の名刺が50枚集まったら独立してもいい」などと一律に線引きするわけにはいかないのだ。

私自身は、23歳のとき、編プロに入社して1年ちょっとでフリーになった。いまにして思えば、これはいささか早すぎた。というのも、フリーになってから2年ほどはまともに食えなくて苦労したからだ。
少なくともあと2年は編プロで修行を積み、十分に準備してから独立すべきだったと、いまは思う。

もちろん、食っていけるという自信と目算があるからこそ人は独立するわけだが、その目算どおりにことが進まない場合も多いから、見極めはなかなかむずかしい。
私にしても、フリーになる際、「食っていけるだろう」というおおまかな目算はあった。が、その目算は甘すぎた。

私のように時期尚早の独立をしてしまう人にありがちな失敗は、大別して二つあると思う。一つは「辞める会社に頼ろうとすること」であり、もう一つは「取引先(原稿発注元)一つで独立してしまうこと」である。

勤務先が出版社や編プロであった場合、「フリーになっても、この会社から仕事をもらえば食っていけるだろう」と考えてしまいがちだ。

もちろん、フリーになる際には円満退社するに越したことはないし、その会社から仕事をもらって悪いわけではない。だが、「前の会社」に丸ごと依存してしまい、そこから受ける仕事しかやらないような状態は、望ましくない。

第一に、それでは独立した意味がない。第二に、そんな状態は往々にして長続きしない。出版社や編プロで働き続けている側は、その会社を辞めてフリーになった者にとかく反感を抱きがちである。「フリーになったんだから、ウチにばっかり頼らないでもっとほかで書けばいいのに」と……。
だから、独立に際しては、「いまいる会社からもらう仕事以外で食っていけるか否か」を考えなくてはいけない。

また、「前の会社」に限らず、「取引先一つで独立する」のはリスクが大きすぎる。
「A社からレギュラーでもらう仕事が月に〇〇万にはなるから、食っていけるだろう」――こういう胸算用はきわめて危険だ。A社からの仕事を切られたら収入がゼロになってしまうからである。

フリーライターが一つの仕事を失うのは、ごくかんたんなことだ。編集者の気分一つで切られてしまう。ライターとクライアントは、「向こう3年間、あなたに月30万円分の仕事を発注します」などという契約書を交わすわけではないのだから……。

だから、一つの仕事を突然切られても路頭に迷わぬよう、取引先は“タコ足配線”にしてリスクヘッジをしなければならない。
独立する前に、願わくば30の取引先、最低でも10くらいの取引先は確保しておくべきである。

「半年食っていける」貯金は必要

そうしたことをふまえたうえで、一般論として言うなら、やはり独立はなるべく早いほうがいい。
なんとなれば、フリーになっていきなり高収入を稼ぎ出すことは難しいから、少ない収入で暮らしていける若いうちに下積みを経験しておいたほうがいいからである。

独身のうち、しかも親がかりの「パラサイト・シングル」のうちに独立してしまえば、収入の少ない下積み時代をなんとか切り抜けることができる。
たとえば、独立直後の私はまだ独身で家賃3万円の風呂なしアパートに住んでいたから、月に15万円もあれば食っていけた。いまではとてもそうはいかない。

それともう一つ、あたりまえのことだが、独立はある程度の貯蓄をしてからのほうがいい。
当然多いに越したことはないのだが、目安として、「いまの自分の生活水準で、仕事がなくても半年食っていける程度の金額」は貯めておきたい。
なぜなら、幸運にもフリーになってすぐに食っていけるだけの仕事が確保できたとしても、その仕事を終えて原稿料が振り込まれるまでには数ヶ月のインターバルがあるからだ。


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