巨人・門脇誠が露わにした「三井ゴールデン・グラブ賞」の盲点

NPBの2023年のシーズンは阪神タイガースの38年ぶり日本一で幕を閉じたが、ここからは様々な賞が選手たちに贈られることになる。
まずは2023年の「三井ゴールデン・グラブ賞」が発表された。

https://npb.jp/award/2023/voting_glove.html


「三井ゴールデン・グラブ賞」は守備の名手に贈られる栄えある賞であり、シーズン前からこの賞を獲りたいと公言する選手も多い。

一方で、本賞の受賞は、新聞社、通信社、テレビ、ラジオというマスメディアに所属するプロ野球に関連する記者(5年以上の経験者)による無記名投票の結果によって決まるため、毎年、受賞結果には疑問が残るような選出も見られる。

守備は打撃成績や投手成績と異なり、数値化された指標が少ない。
あるいは、その守備指標は一般には馴染みが薄いため、したがって、投票権を持つ記者の印象や心象が投票行動につながるのではないかと指摘される。
単純に選手の失策数の多寡、リーグ優勝したチームの選手や、シーズンを通して休まずレギュラーで出続けた選手、投手成績や打撃成績がよかった選手、あるいは過去に守備がうまいと認識された選手が経年により衰えたとしても、そのまま受賞し続けるケースもみられる。

一般的に「派手なファインプレーをする選手=守備がうまい選手」と結び付けがちだが、目立たないが堅実な守備をする選手、守備範囲が広くてアウトを増やす選手、逆にそれがゆえに打球にチャレンジした結果、失策が増える選手もいる。

近年、さらなる問題となるのは「選考対象となるプレイヤーの資格」である。

選考対象となるプレイヤーの資格
投手:規定投球回数以上の投球、又はチーム試合数の1/3以上に登板していること。
捕手:チーム試合数の1/2以上で捕手として出場していること。
内野手:チーム試合数の1/2以上で1ポジションの守備についていること。
外野手:チーム試合数の1/2以上で外野手として出場していること。

*有資格者の発表
https://mgg.mitsuipr.com/pdf/2023shikaku.pdf

今年、このルールによって、割を食ってしまった選手がいる。
読売ジャイアンツのルーキー、門脇誠である。

門脇誠は創価高校、創価大学を経て、2022年のドラフト会議で、読売ジャイアンツから4巡目指名を受けて入団した。
身長171センチと小柄であるが、創価大学時代は1年春から遊撃手のポジションにレギュラーを掴み、大学3年秋に東京新大学野球リーグで首位打者と最多打点、4年秋にも首位打者を獲得している。

さらに特筆すべきは、創価高校時代、1年夏の西東京大会の初戦に出場してから、創価大学4年生秋まで、公式戦116試合、すべて出場し、しかも999イニング連続フルイニング出場を果たしたという。
この事実を以って、原辰徳監督は門脇を評して「ストロング門脇」と名付けたほどだ。

門脇がルーキーで迎えた2023年シーズン、巨人の新人野手の中で開幕メンバーに入ったのは門脇のみであった。中日ドラゴンズとの開幕カード3戦目となった4月2日、7回裏に代打で出場してプロ初出場(結果はセカンドゴロ)。
そして、開幕2カード目の横浜DeNAベイスターズ戦、4月5日に、開幕からノーヒットが続いた不振の坂本勇人に代わって、門脇は「8番・遊撃手」でプロ初先発出場を果たした。
だが、これは坂本の復帰に伴い、一時的な出場機会にすぎなかった。

門脇は5月9日のDeNA戦(新潟ハードオフ)では岡本和真に代わって三塁でスタメンに入ると、DeNA先発のトレヴァー・バウアーから2安打の後、第4打席ではプロ初ホームランを放って勝利に貢献した。そこから21試合連続で三塁で先発したが、打撃の調子は上向かず、今度は一塁手・中田翔の復帰に伴い、岡本が三塁に戻り、門脇は吉川尚輝、中山礼都との併用で二塁の守備につくようになった。

門脇の4月の打率は.111、5月は.190、6月は.160。
この間、遊撃、三塁、二塁と守備位置を転々とした。
だが、随所で新人離れした守備を見せ、内野の守りでは欠かせない存在になっていた。

https://www.nikkansports.com/baseball/news/202305130000728.html


6月23日の広島戦で、坂本が足のケガで離脱すると、翌6月24日から遊撃のスタメンは門脇で固定されはじめた。
7月17日、神宮球場でのヤクルト戦で、大西広樹から今季2号ホームランを放つなど3安打をマークしたあたりから打撃が上向き始め、7月は打率.283、1本塁打、OPS.667とまずまずの成績を残した。

7月下旬から再び、三塁に廻ったが、8月に入ると、8月6日の広島戦(マツダスタジアム)で4安打の固め打ち。
8月19日の広島戦で遊撃のスタメンに本格的に復帰すると、8月23日のヤクルト戦(東京ドーム)でも3安打、翌8月24日のヤクルト戦ではプロ初の打順2番でスタメン出場を果たし、7試合連続安打、8月29日の広島戦でも打順2番で3安打と、8月の月間打率.339、OPS.779としり上がりに調子を上げた。
9月に入っても、打棒は衰えず、9月3日のヤクルト戦では3安打、6日のヤクルト戦では再び2番で3安打、9月9日の中日戦では今季3号本塁打を放つなど、シーズンの打率も2割5分台まで乗せてきたのである。

そこで原監督は9月中旬、大きな決断をくだした。
9月17日、東京ドームでの対ヤクルト戦で、坂本が「特例2023」から復帰するにもかかわらず、坂本を遊撃には戻さず、門脇を遊撃に据え、坂本は三塁で先発させたのである。
坂本は高卒プロ2年目の2008年から遊撃のレギュラーを掴み、今年5月31日の千葉ロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)でNPBでは史上初となる「遊撃手で2000試合出場」を果たしたばかりだった。
ここ数年、坂本の衰えがささやかれており、原監督が坂本のコンバートを計画していると喧伝されていたが、ついに実行に移したのだ。
しかも、この日、2-2で迎えた9回裏、門脇に打席が廻り、清水昇からプロ初のサヨナラ打をマークした。

今季の坂本は開幕から不振、ケガによる1か月の離脱はありながら、116試合に出場し、規定打席も上回り、打率.288はリーグ7位、22本塁打もリーグ7位、60打点、OPS.884はリーグ3位と、「衰え」を指摘する外野の声を一蹴できるだけの成績を残している。

一方の門脇もルーキーイヤーのシーズンを終わってみれば、126試合に出場し、83安打、打率.263、3本塁打、21打点、11盗塁、OPS.638と大卒新人としては及第点の打撃成績だった。
9月以降はほぼ「2番・遊撃」のスタメンを確立した。
だが、門脇の貢献が大きかったのはやはり守備である。
とにかく守備範囲が広い。
DELTA社が算出する守備指標"UZR"では、今季の門脇は前半戦で12球団トップ、シーズンを通しても、同じ遊撃手で名手の源田壮亮(西武)をしのぐほどの数値を叩きだしていたという。


https://twitter.com/Deltagraphs/status/1680955449343111169


したがって、門脇の守備が新人でありながらゴールデン・グラブ賞級であることは疑いがない。
だが、ここに落とし穴があった。

門脇は出場した126試合のうち87試合で先発したが、うち遊撃手が44試合(途中出場15試合、変更6試合)、三塁手が35試合(途中出場12試合、変更1試合)、二塁手が8試合(途中出場4試合)だった。

すなわち、門脇はもっとも出場が多かった遊撃手でも先発・途中出場・守備位置移動を含めて65試合にとどまり、ゴールデングラブ賞の選考基準である、「内野手はチーム試合数の1/2以上(=72試合)で1ポジションの守備についていること」に該当しない。

これがもし外野手であれば「チーム試合数の1/2以上で外野手として出場していること」なので、もし内野手も同様のルールであれば該当するのである。

「ゴールデン・グラブ賞」の前身である「ダイヤモンドグラブ賞」が1972年に創設されてから現在まで、NPBの新人選手が受賞したのは以下の9名しかいない。

高代延博(日本ハム) 1979年 遊撃手
石毛宏典(西武) 1981年 遊撃手
木田勇(日本ハム) 1980年 投手
古田敦也(ヤクルト) 1990年 捕手
立浪和義(中日)1995年 二塁手(高卒)
高橋由伸 (巨人) 1998年 外野手
上原浩治 (巨人) 1999年 投手
松坂大輔(西武)1999年 投手 (高卒)
赤星憲広(阪神) 2001年 外野手

もし門脇に受賞資格があれば、22年ぶり史上10人目の新人選手の受賞もありえたわけで、誠に残念である。

MLBでは2022年から守備の名手に贈られる「ゴールドグラブ賞」に新たなに「ユーティリティ」部門を追加した。
これによって、守備位置をまたいで活躍した選手にも脚光を当てようという意図である。

NPBでも、こうした選手は少なからず存在しており、特にDH制のあるパ・リーグでは複数ポジションを掛け持ちするのは顕著になりつつある。
今後、門脇のような選手を出さないためにも、NPBにはなるべく早く、「三井ゴールデン・グラブ賞」にユーティリティ部門を新設することを強く願いたい。





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