才能なんてありやしない
『文章は丁寧だけど頭の中に映像として浮かび上がってこないっていうか、情熱が伝わってこないんだよね笑』
『経験したことが無いからなんとな〜く想像して書いたみたいな?』
『平凡な人生送ってきて文才ないのにここで一発神作品作って有名になろうとか夢見ちゃった感じかな〜??www』
『結局何を書きたいのかが分からない。』
『はい、よく見る設定。新しいもの作れなくて先人達のオマージュ作品とかいうパクリ製造機乙。』
『不愉快。』
『最近出てきた〇〇さんの小説の方が何倍も良い。もう追い越されてるのかよ。』
『幻滅しました。』
『あんなに豪語してたくせに。』
『小説書くのやめろ。』
ここ最近新しい小説を書いて投稿したかと思えば、毎回このようなレビューばかり。最初の頃はこんなことなかったのに。いつからこんな風になってしまったのかと思い返し、すぐに原因であろう出来事が浮かんできた。
本が好きな私は趣味として自分で小説を書いては投稿するのを繰り返していた。ある程度書いた小説の量が溜まった頃、興味本位で一度無料小説投稿サイト主催の小説大賞にとある一つの力作を応募したところ、なんとその小説が入選したのだ。
当時はそれは大いに喜びSNS上ではしゃぎまくった。私のファンだと名乗る人達も増え始めた。毎日届く私を褒め称える言葉にどんどん天狗になっていく。まだ小説を書き始めてから日が経っていないというのも背中を押したのだろう。自分は小説を書く才能があると調子にも乗っていた。
賞金をもらい書籍化もされたが、書籍化から何ヶ月が経っても私の本が売れることはなかった。買われたとしても1冊、2冊。出版社からこれ以上売り上げが出ないのであれば店頭での販売を中止するということも伝えられた。
私はその話を聞かされた時、全てが出版社がでっち上げた嘘であると思い込んだ。
そんな筈が無い、私の本が売れていないわけが無い、おかしい、こんなにも私の小説が好きだと言ってくれる人たちがいるのに、売れないなんてありえない、おかしい、こいつら皆んなして私のことを騙そうとしている、私の本が売れないなんてあってはならない。
こんな言葉ばかりが浮かび上がり、自分の書いた小説が所詮その程度だということを全く受け入れようとしなかった。天狗となっていた鼻を横から思いっきり殴られへし折られるかのような衝撃に耐えきれなかったのだ。
少しでもプライドを守る為にこちらの立場が優位であることを示すような言動をした。周りからは私の行動を宥める言葉が聞こえてくるが、耳のはこれっぽっちも入ってこなかった。とにかく必死だった。一度あの時の優越感という極上の甘露を味わっては最後、二度と以前と同じような状況には戻りたくない。あの中毒性のあるあの感覚をずっと味わっていたい。その一心。
だが、いくら中毒性が高かろうが摂取できなければいつかはその魔欲から抜け出せる時が来る。
そして、私が周りを見渡せるようになる頃には、誰一人も近くにはいなかった。
数ヶ月の自身のSNSを見返してみるとそれはそれは酷いものばかり。世間からの評価を認めず出版社や普段小説を投稿していたサイトの批判まで言っていた。最初は同情や励ましの言葉も数を重ねるごとに少なくなり、遂には一つも付かなくなっていた。その代わりに増えていったのが冒頭にあったよく言えば批判、悪く言えばただの誹謗中傷のような言葉たち。
最初は絶望しか無かった。私の全てを否定されたかのような感覚。一時期は完全に小説を書くのをやめた。
だけど、気づいたら私はまた文章を紡いでいた。
こんな形で再認識することになるとは夢にも思っていなかった。私はただ小説を書くのが好きなだけだということを。いくつもの話を生み出してそれをそのまま放置していた。だがある日、ふと、この小説たちがこのまま誰の目にも触れずに終わらせるのは可哀想なのではないだろうかと思った。
結局は承認欲求を満たすために書いてるのに、綺麗事を言って誤魔化しているだけだろと言われるだろう。なんなら言われたことがある。
だけど、どうしても私が生み出した作品を見て欲しい。この小説たちに脚光を浴びる機会を与えてあげて欲しいと思った。
所詮は自己満足でしかないのだ。
こう思うようになってから私はまた同じサイトで小説を投稿し始めた。最初は全く閲覧数は0から動かなかったが、誰かが気付いたのか急に閲覧数は増え『過去に思い上がったやつが自分が行なった行動を都合よく忘れのこのこと帰ってきやがった』と。
そっから小説を投稿するたびに小説の内容そっちのけで暴言をぶつけてくる人が一定数存在していた。自業自得だと傍観していた人たちが心配の声をかけてくるようになるぐらいには。
これは私が招いた結果であると、受け止めていくと答え、私は今も小説を書いては投稿している。
結局は才能なんてないただの一般人のほんのちょっとした出来事。物語にもならないただの日常の一コマにもならない、ただただくだらないよくある日常の一つである。
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