2013年梅雨、私は22歳だった。
某大手スーパーのレジをしながら、業務提携でライターを始めて、通信制の大学生として生きていた。

正直毎日忙しかったし、色々な世界で別の自分として生きていたから楽しかった。特にライターになれたのは本当に偶然で出版社に勤めて出版社を作りたかったから、まずは経験を積もうと小さな出版社の事務の求人に応募した。それから直接編集長に連絡をもらって、事務は無理だけどライターやりたいなら一度会社に遊びに来る？と誘ってもらえた。

当日、電話越しで会社に遊びに行っていいのか！めちゃくちゃ雰囲気よさそう！と思って、これから自分の人生が軌道に乗っていくんだろなという希望の中の希望しかなかった。

中学生のときに将来の設計図をかく授業があったが、周りのみんなは詳しく書けないと悩んでいたが私は大学卒業後にライターとして就職して結婚、子供を産んでアットホームダットみたいに自分が働いて旦那さんが育児や家事をしてもらう家庭を築く。その後、ライターの経験を活かして、出版社を起業する。みたいな流れを一番に書いていた。

とりあえず簡単な答え合わせをすると、大学卒業まではできたけど＋2年オーバーして、就職活動自体せずにレタッチや特許図面の作成、ゲームの運営のすべてアルバイトしかしてない。子供はおろか、結婚すらしてない。何も実現できなかった。途中2回もうつ病でロスタイムがあり、気づけば30歳という恐ろしいゆとり経歴ができた。

最悪で怠惰な日々を過ごした。

それでも、22歳から30歳までの8年間、側にいたのはこのエプソンのPX-405Aだった。購入するきっかけとなったのが、先程話したライターでの仕事上で校閲作業があったため、親のプリンターを使いまくってインク代を払わずにいたために、購入命令が下った。

当日、大学の参考書代もバカにならなかったので、一番安いプリンターとして、このPX-405Aを購入した。一万円くらいだったかな。すぐ壊れるだろうし、安ければいいやとなんの期待もせずに買った。

届いたとき、とてつもないでかいアマゾンのダンボールに入っていた。アマゾンでは色々頼んでいたが、こんなにもでかいダンボールで届いたことはなく、ものすごいワクワクした。それからアマゾンでの買い物依存症に陥る。

真っ白で角は優しさのカーブをえがいていた。スキャン部分は指紋一つないピカピカの透明な板がはまる。メカを買った感でほわほわしていた。すごく嬉しくて自分だけのプリンターがあることがとても幸せだった。

仕事上で印刷するものは白黒だったから、気づかなかったけれど、同時期くらいに一眼レフも購入して写真を始めた。撮りまくっていたので、なにか商品を作ってみようとおもって印刷すると、ものすごくきれいに印刷できて、たまらなく嬉しかった。ああ、絶対に売れると確信した。現にハンドメイドサイトで徐々に売れるようになり現在まで続けている

写真は撮るだけじゃなくて、印刷することでより多幸感があった。それからずっと印刷した。ときにはスキャンもした。スムーズで、故障もなく、快適だった。

しかし、6年を過ぎたあたりから、印刷用紙にローラー痕がついたり、黒が印刷されずセピアの写真が印刷されるようになってしまった。
それから新しい少し高いプリンターを購入してから、たまに試し印刷するくらいにしか使ってなかった。心のどこかで寂しくなって、撫でたりしてて黒インクさえでてくれたらいいなと思っていた。

私の撫で撫では功を奏することもなく、そのまま飾り物となった。インクのクリーニングを試してみたものの黒は印刷されることはなかった。

写真には黒は必要不可欠だ。
他の色も不可欠だけど、黒は一番消耗する色であり、写真をぐっと引き締める効果ももたらす。

たくさんつかってきたから内部にはインクがついている。あの写真かなーとか何を印刷したか思い出す作業。

出会いは期待もなかった。だけど、私との関係に大きな亀裂をいれることもなく、従順にひれ伏してくれていた。ときには何十枚も同じ写真を印刷したり、酷使させたけど大事な存在になっていた。これからも使いづけるだろうし、側にいてくれるとおもった。

だけど私が賃貸生活のため、狭い家でスペースを有効活用しないと新しい物が置けないから、この度‥お別れすることとなりました。

粗大ごみの有料のダサいBシールを貼り付けるとき、心が張り裂けそうだった。正直そこまで想っていたかというほど、哀しかった。有効活用できない自分にも、広い家に住めてない自分にも腹がたったし今まで何していたのかと責めた。

最近、物に対する想いが強くなりすぎている。だから、潔く捨てようと決めた。

世の中にはメカノフィリアという人々がいて、物に愛着を感じてしまうらしい。私も少なからずそういう気持ちは捨てきれず、身を切られる思いだ。

本当に寂しい。
PX-405Aで30万くらい稼いだ。自分の作品で。この世に認知されている数は少ないけれど、作品を残せたことが嬉しいし感謝している。

捨てると決めたものの、粗大ごみ回収は来月。それまで撫でて感謝を伝えようと思っている。最後に尻のスキャンでもしようかな。