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応援上映はあなたにスキを気づかせる。ゴールデンカムイ感想

応援上映とは、劇場内での歓声はもちろん声援、声掛け、合いの手ツッコミ何でもありの鑑賞スタイル。サイリウムや応援うちわの持ち込み、コスプレも許可される場合がある。

この記事はネタバレを含みます。

2024年2月23日、小雪降るすすきの。TOHOシネマズには一目でわかるファンが集まり、寒さのピークをものともしない熱気が満ちていた。

ロビーには刺青人皮カーディガンなどのコラボアパレルを着た方、カメラに囲まれるコスプレイヤーに、ポップコーンと大きなうちわ等の入ったバッグを持つ大荷物の方と、多様に好きを表す姿が見られた。持ち寄ったぬいぐるみをかざし、あちこちで撮影会が開かれている。おそらくここで初めて会った人々が、楽しみましょうと声をかけあっている光景は美しい。取材に来ていたローカル局のTVクルーも同じ想いなのか、同じくキャラプリントのTシャツを着てその輪に溶け込んでいる。

鞄に下げた推しキャラぬいぐるみを手がかりに知らない人と交流する友人が羨ましくなるも、自分の持ち物は今しがた100均で買った光る棒2本。徒手空拳でここにいる自分が恥ずかしくなった。ゴールデンカムイといえば連載初期から熱い勢いを見せコアな漫画ファンまでを釘付けにし、そのスピーディかつ濃厚な展開で沢山の人を巻き込みながら完結した大人気漫画だ。そのグッズを持っていないなんてどうかしている、といった空間である。

やがてスクリーンへの道が開かれ、ロビーの熱気がそのまま動く。エスカレーターは静まり返り、壁一面のキャストポスターとの記念撮影も皆無言。座席に着くなりコートの下のコラボアパレルを解放し、応援うちわを構えてサイリウムのテストをする。皆が膝の上にぬいぐるみを乗せる頃、ようやく辺りに期待とワクワクの声が上がり始めた。私は光る棒を折り準備は万端、ああこの人達と初めての鑑賞を共にするんだ…と謎の感慨が湧き上がってくる。

いよいよ幕開け。
「東宝!ありがとう!」
「wowow!ありがとう!」
「集英社!ありがとう!」
いきなりの手慣れた声援に気圧されるも、爆音と共に映し出される203高地の迫力にうたれ初めて漫画を読んだ時の興奮が蘇ってきた。兵士を薙ぎ倒し咆哮する杉元!その姿はまさに思い描いた3次元の姿。少し少年らしい気もするけど、これは確かに杉元だ。

新たにキャラが出てくるたびに歓声が上がり、愛が叫ばれる。特に盛り上がりの激しかったのが土方、鶴見、月島である。前者2人は常に大仰な演出と共に現れ、スローモーションでその魅力を誇示する。応援上映を狙ったかのようなタメぶりに場はタイミングよく熱狂し、特に鶴見のハマり過ぎてやり過ぎな演技はあちこちで声にならない声を起こさせた。目立ったのは月島へのコールだ。今作では影のように付き随う寡黙な姿が描写されていたが、彼が画面の端にいるだけで劇場は揺れ、一言口を開けば猿叫を起こしていた。漫画よりも背が高くなった姿に成長期!と声が上がる。彼の人気がしのばれた。

そしていよいよ造反組が現れた。当然上がる歓声。一人一人名前が呼ばれ、中でも玉井伍長には名前と共に「いい髭!」という掛け声も上がった。
急に私の心は違和感を感じた。スクリーンにはスキーで滑る造反組の流麗な姿が映されている。見惚れる間も無く話は進み、例の惨劇が始まった。直接的な描写は抑えつつ想像を掻き立てる演出に、劇場に悲鳴が上がる。誰かが叫ぶ、「玉井伍長〜!」その声で気づいてしまった。なんということ、応援上映で「私が最初に言うんだったのに」と思ってしまってたなんて!私は確かに悔しさを感じていた。

玉井伍長はゴールデンカムイに出てくる沢山の猛者の1人にすぎない。しかし漫画からそのまま出てきたようなビジュアル、なんとなく人の良さそうな口調が一転し「もういい撃とう撃とう」と心底呆れ返った声をあげるさま。新たな解釈、初めて見る玉井伍長を見て「私はずっと伍長推しだったのかもしれない」と思わされた。それ位の3次元パワーをぶつれられたのだった。ああ、玉井伍長。

映画は序盤の山場を見事に映像化し、杉元とアシㇼパの絆が結ばれる瞬間を書ききり次回へ続いた。劇場は拍手喝采、感謝の声と共に応援上映は終わった。劇場から出ても推し活は終わらず、壁一面のポスターの前では記念撮影が繰り広げられあちこちで感動を分かち合う交流が生まれていた。こんな場所で「同担拒否」が発生するとは夢にも思わなかった私は、気持ちひっそりと会場を後にした。

映画ゴールデンカムイはこれからもファンを増やし、続編も大成功し続けるだろう。その過程で今後玉井伍長のグッズが出るかもしれない。出て欲しい。ブロマイドでもひとつあれば、そこに祭壇が作れるからだ。