私の本屋大賞一次投票振り返り(2015〜2016年)

本屋大賞において、一次投票で自分が投票した作品とコメントを記録として残しておきたい。
遡れば第一回まで行けるはずだが、メールアドレスを途中で変えた記憶があって、多分残ってない気がするので、ここ最近5年分をまとめてみる。投票当時のコメントそのままなので、少しフォローも入れている。
まずは、2015年と2016年の2年分を。

2015年(この年の本屋大賞は上橋菜穂子『鹿の王』KADOKAWA)
1位 米澤穂信『満願』新潮社

この作品集については、好きなエピソードがある。担当編集者が「連城三紀彦さんの『戻り川心中』のような短編集と作りませんか」と米澤さんに提案したところ、米澤さんは「では泡坂妻夫さんの『煙の殺意』のような短編集を目指します」と答えたという――これを聞いて何とも思わないミステリファンがいるなら、その人はモグリである。そしてその結果『満願』は、『戻り川心中』と『煙の殺意』の両方の魅力を兼ね備えた大傑作になった。ぜひ多くの人に読んでいただきたいし、読んだ人と、どの作品が気に入ったかを語り合いたいのである。

2位 歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』文藝春秋
いろんな恋愛模様を描いた作品集、だと思っていたら! さすが『葉桜の季節に君を想うということ』の作者だけあって、ただでは終わらなかった。これは参った、としか言いようがなく、詳しいことが言えないタイプの短編集である。歌野晶午さんを推して来て良かった、とも思った。とにかく、読んで驚いて欲しい。いやほんと、絶対驚くから!

3位 連城三紀彦『小さな異邦人』文藝春秋
連城さんが最晩年に発表してきた作品を収録した短編集。連城さんは亡くなる直前まで、前人未到の領域を探求し続けたほどのミステリ精神の持ち主だったことを実感した。どの作品もため息が出るほど凄いが、特に表題作はオールタイムベスト級の誘拐ものミステリである。連城さんの新作がもう読めないことが残念でならない。

この年を振り返っての感想は「俺って本当に連城三紀彦が好きなんやなあ」。実は発掘部門も連城三紀彦の『戻り川心中』を挙げている。
3作品ともガチガチのミステリを投票した年だった。『ずっとあなたが好きだった』、歌野さんらしいサプライズにあふれているので、もっと広まって欲しいなあ。


2016年(この年の本屋大賞は宮下奈都『羊と鋼の森』文藝春秋)
1位 辻村深月『朝が来る』文藝春秋

「子どもを返して」と言ってきた「片倉ひかり」は本当に朝斗の実母なのか? という謎に焦点を当てたミステリーでありながら、「子どもが作れない」栗原夫妻の苦悩、そして「望まない子を産んでしまった」片倉ひかりの苦悩をそれぞれ執拗なまでの説得力で描く。どちらにも感情移入してしまうが、特に片倉ひかりの壮絶な人生は凄まじい。しかし可哀想とも言えない部分があるのも辛い。子どもを持つ、という重みを両者の視点で見事に描き切った小説で、子どもを持つ人、持たない人、どちらにも大いなる感動とエモーションを与えてくれる。辻村さんの到達点だと断言するぞ!

2位北村薫『太宰治の辞書』新潮社
あの「円紫さんと私」シリーズが帰ってきたというだけで感涙モノだ。しかも当時から相応の時を経ており、「私」は子持ちの編集者になっている設定が素晴らしい。だから本にまつわる謎に引っ掛かると、徹底的に解き明かさずにはいられないのだ。円紫師匠は今回はチョイ役に甘んじているが、「私」の謎解きの旅の道筋を示唆してくれる。謎解きの楽しみと読書の楽しみを同時に教えてくれる小説で、読んでいる間は本当に幸せだった。本好きの人ならこの感覚が分かっていただけると思う。

3位 秋吉理香子『聖母』双葉社
連続幼児誘拐事件に怯える母親、その事件を捜査しながら遅々として進まない警察、そして、その事件の犯人。三つの視点の物語が交差するとき、衝撃の真相がっっっ! 著者のすげえ「離れ業」に圧倒された小説だが、よく読み返してみると、かなり際どい書き方をしていて、人によっては「アンフェア」と思うかもしれない。しかし、賛否両論をあえて承知で、これを世に問うた度胸を買いたい。一人でも多くの人に驚いていただきたいし、この真相について語り合いたいのだ。


本屋大賞になった『羊と羽の森』はノミネートされるに違いない、と判断して、一次投票では投じなかった。(もちろん二次では投票した)
『朝が来る』が辻村さんの到達点だと思う気持ちは実は今でも変わってない。『かがみの孤城』はこれとは違ったアプローチの、これもまた到達点なのだ。
2位と3位は以外かも知れない。『太宰治の辞書』は正直そんなに傑作おいうわけではない。しかし、「円紫さんと私」シリーズであるだけで、読んでいる間がずっと幸せだった作品だ(現在は創元推理文庫)。『聖母』も賛否両論あったが、そのチャレンジ精神と、キャリアの若い作家さんを応援する意味で投票した。

2017年〜2019年は、次のエントリで。

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