私の本屋大賞一次投票振り返り(2017年〜2019年)

前エントリに続いて、本屋大賞の一次投票コメント、2017年から2019年(今年の)までを紹介する。

2017年(この年の本屋大賞は、恩田陸『蜜蜂と遠雷』幻冬舎)
1位 芦沢央『許されようとは思いません』新潮社

今年も短編集の世界でハイレベルな作品ばかりが出て、その中から選ぶのは本当に大変である。その中でも断トツで素晴らしかったのが『許されようとは思いません』だった。作品ごとに雰囲気をガラリと変える作風の幅広さもさることながら、どれも強烈な驚きに溢れている。芦沢央の時代が絶対にやってくるだろう。今のうちに読んでおいて!

2位 長岡弘樹『赤い刻印』双葉社
『傍聞き』以降、常に読み応えのあるミステリ作品を世に出し続ける長岡さん。作品ごとに物語性も高まり、小説として素晴らしくなっている。特に『赤い刻印』はミステリの驚きと人間ドラマが見事に融合しており、一遍ごとに唸ってしまった。驚きと感動を両方味わいたい方に必読。

3位 乙一,中田永一,山白朝子,越前魔太郎,安達寛高『メアリー・スーを殺して』朝日新聞出版
これははっきり言って、企画の勝利。思いついたもん勝ち。ただそれだけでなく、どれも面白い小説であり、名義ごとに雰囲気も使い分けていることも分かる。山白朝子名義の2作品が特に良かった。

この年のコメントを振り返って言いたいことは、「それみたことか!」
芦沢さんの時代は、いままさに来ていると思う。

2018年(この年の本屋大賞は、辻村深月『かがみの孤城』)
1位 辻村深月『かがみの孤城』ポプラ社

今となっては信じられないが、辻村深月さんは「メフィスト賞」作家である。そのイメージが全くなくなるほどに多彩な作品を発表し続けており、もう私の手の届かないところに行ってしまわれた……と思っていたら! これは、メフィスト賞受賞当時の辻村さんの作風ではないか。しかも、より洗練され、さらにサプライズの要素が強まった。少年少女の描写も素晴らしく、今までの作風の集大成と言ってもいい。もう最高だ!

2位 澤村伊智『恐怖小説 キリカ』講談社
近い将来、「ホラーといえば澤村伊智」と呼ばれる時代が必ず来るであろう。これは予言ではない、断言である。どの作品も、構成は単純でありながら、怖い。過去のホラー名作のプロットを実に巧く「本歌取り」をして、自分の世界にしてしまう。本書は著者の三作目だが、デビュー作『ぼぎわんが、来る』を踏まえて読むと、なお怖い。あの時『ぼぎわんが、来る』を酷評しなくて良かった、と心底思う。私は今ごろ、著者に殺されていたかも知れないのだから。

3位 今村夏子『星の子』朝日新聞出版
ストーリーを一言でまとめると「新興宗教のせいで家族が崩壊する話」なのだが、悲劇性を全く感じない、むしろ爽やかな読後感すら与える、不思議な小説だ。宗教が周りに与える影響や、主人公の家庭の変化がリアルに描かれながらも、少女の繊細な心の動きまで見事に描写している。芥川賞を受賞する前に(本当はこれで受賞するはずだったのだ!)、本屋大賞から猛烈にプッシュしたい作家さんだ。

この年のコメントも「……だろ!」と言いたい気持ちでいっぱいだ。『かがみの孤城』は言わずもがなだが、澤村伊智、今村夏子と、個人的にもすごい作家さんばかり推している。それにしても、芥川賞よ、今度こそ頼むぞ……。

2019年(この年の本屋大賞は、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』文藝春秋)
1位 道尾秀介『風神の手』朝日新聞出版

『風神の手』は2018年最初に発売された作品だが、いきなり私にとって今年ベストの位置に入り、そのまま年末までこの地位を譲ることはなかった。各作品ごとにミステリ的な驚きを用意しながら、全体を通してひとつの町の物語として深い読後感を残す。街と人々の歴史そのものが主人公と言っても過言ではない。道尾秀介さんの小説技巧の全てが注ぎ込まれた傑作である。

2位 芦沢央『火のないところに煙は』新潮社
前々から応援してきた作家さんがブレイクするのは、側から見ていても気持ちいいものである。芦沢さんはここ数年どんどん実力をつけて来た作家さんだが、特に2018年の文庫重版ラッシュは嬉しかった。本作は「ミステリ」と「怪談」をみごとに結びつけた作品集で、芦沢さんの筆力がいかんなく発揮されている。ミステリの面白さとエンタメ性の高さで、初心者からマニアまで広く楽しめる作品だ。

3位 石川宗生『半分世界』(東京創元社)
奇想に満ちたSF作品集。どれも「なんでこんな設定思い付いたのだろう」と思わせる作品世界と、その奇想を徹底的に追求した妙味が面白い。マジックリアリズムってこういう作品群を指すのか、と逆に勉強になった。ともあれ、騙されたと思って触れてほしい、びっくりするから。

この年は道尾さんが年中ずっとベスト1だったので、それを押し切った。そして本格ブレイクした芦沢さんと、唯一無二のSF新鋭、石川さんに投じてみた。

こんな感じです。二次投票はまた別なのだが、私らしさは出なくなるので一次投票のみを挙げてみました。
では、ごきげんよう。

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