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114:デジタル世界を実体のあるものとして捉え直す

名古屋での写真研究会での発表準備に,美術手帖2016年9月号・特集「#photograph」に掲載されていた「INTERVIEW Felicity Hammond(フェリシティ・ハモンド)───写真の未来と過去のはざまでイメージの平面空間を拡張する」を読んだ.

───デジタル技術は作品にどのような影響を与えていますか?
ハモンド 私は作品を通して,産業に打撃を与え,ある種の損失を生みだしたテクノロジーの発展に批判的な目を向けています.デジタル世界を実体のあるものとして捉え直すことで,実際に存在しているように見えるけれど本当は二次元である,というデジタル生成されたイメージが生み出す奇妙な感覚と向き合っているのです.イメージが飽和していけばいくほど,価値のあるイメージをつくり出すことがますます難しくなっていきます.モノをつくること,また物質を扱うことは,デジタル世界を揺り動かすひとつの方法でもあります.pp.51-52 

フェリシティ・ハモンドというアーティストは知らなかったけれど,上の受け応えが気になった.ハモンドが言うまでもなくデジタル世界は「二次元」である.けれど,ハモンドと同じように「二次元」であるデジタル世界を「実体」として捉える感覚が生まれてきていると思われる.それは,ハモンドが言うようにデジタルな世界でのイメージは精巧につくられ,加工されているから「実際に存在している」ように見えているから,「実体」として捉えてしまうと言うことがあって,だったら,デジタル世界を「実体」として「あえて」捉えてしまおうと言う流れのような気がする.そして,あえて「実体」として捉えると,今度はデジタル世界の「二次元性」が奇妙になってくる.この奇妙な感じは,「実体」として回転できたり,拡大・縮小できたり,移動できたりと様々な操作ができるのに,それは「二次元」に存在している,と言うところから出てきていると考えられる.だから,デジタル世界を扱いつつ,モノを扱うようになる.二次元のデジタルイメージと三次元のモノを同時に扱いながら,デジタル世界を実体のあるものとして捉え返すことで,モノの世界におけるデジタル世界=二次元のあり方をあらたな視点から取り扱えるようになる.

「デジタル世界を実体として捉え直す」と考える人が,「写真」を用いたアーティストとして紹介されていることが興味深い.「写真」というジャンルはモノの世界を紙の上の二次元に定着させてきた.二次元と三次元とを機械・装置を介して変換してきた人たちが,コンピュータという計算機を介して,三次元から二次元,そして,二次元から三次元という変換を自由に行なっている.それが「イメージの平面空間を拡張する」ことになるのかもしれない.

発表で扱うかはわからないけれど,写真集を買ってみた.


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