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112:エキソニモがカーソルの先端に打ち込んだ釘

エキソニモの《Click and Hold》について考えた.キャンバスに描かれたカーソルが釘付けされている.カーソルの先に打たれた釘が,カーソルから想起される「仮想空間」とキャンバスから想起される「物理空間」を貫いている.同時に,キャンバスという「絵画平面」が,「仮想空間」と「物理空間」とのあいだにとても薄く伸ばされて存在しているということを考えた.

カーソルが個別のモノだとして,その先端を釘付けした場合は,《Click and Hold》で描かれたような形では止まらないだろう.《Click and Hold》で描かれたカーソルになるには,カーソルとキャンバスとが接着していなくてはならない.「絵画平面」は,その接着を担っているいるのではないだろうか.

「接着」と書いたけれど,カーソルはデスクトップ平面で常に最前面にあり,浮いている.だから,常に「影」とともにある.もちろん,《Click and Hold》に描かれたカーソルにも「影」が描かれている.そして,カーソルは「影」とともにクギづけられている.キャンバスの最前面にカーソルは浮いたまま釘付けされている.物理的なキャンバスの平面の手前にカーソルがあり,それらは一つの絵画平面を形成している.そこに釘が打たれて,絵画平面が物理空間の重力下に置かれることになる.その結果,キャンバスが釘を支点にして,傾く.その傾きとともにカーソルは仮想空間で表示される角度を得ることになる.このとき,カーソルは仮想空間とともにありながら,物理空間のなかにもあり,二つの空間を絵画平面が接着している,と考えてみるとどうだろうか.

キャンバスに打たれた釘は,ジョルジュ・ブラックがキャンバスに描いた釘とは異り,文字通りの三次元のモノである.ブラックが二次元平面に三次元の奥行きを出すために描いた釘は,キャンバスを貫くことなく絵画の二次元平面のなかにある.対して,エキソニモがカーソルの先端に打ち込んだ釘は,キャンバスを貫き,絵画の向こう側の壁に達して,物理空間でキャンバスを支持している.


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