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047:物理的サーフェイスと仮想的サーフェイスとが互いに組み込み可能な環境

小鷹研理の《公認候補》で,ディスプレイの上に置かれたスマートフォンにスマートフォンを握った手が表示されている.握られたスマートフォンのディスプレイには腕が表示されている.ディスプレイの上のスマートフォンは影を失い,光るサーフェイスの一部のようになっている感じがある.それはモノであることをやめて,映像となったかのように見える.そして,複数のディスプレイには文字通りモノであることをやめたスマートフォンが映っている.同時に,手に握られることで,映像となったスマートフォンは厚みを与えられ,映像でありながら,モノの領域に引き戻されているようにも見える.

マテリアルデザインは高度を精密に測定し,設定することでピクセルに「厚み」を持たせて,モノのように扱えるような環境をつくった.《公認候補》ではマテリアルデザインとは逆に,ディスプレイの上に置かれたスマートフォンは「影」を失い,高度が無効化し,厚みも失っているようで,ひとつのサーフェイスに集約されているような感じがある.高度が異なるサーフェイスが,グランドレベルのサーフェイスに集約されていきながら,個々の高度は実際には失われていない状態にある.高度が失われないというよりは,個々のスマートフォンやタブレットに映る映像としてのスマートフォンが,それを表示するモノのサーフェイスと同一レベルのサーフェイスを形成し,モノとしての高さのちがいを吸収しているようにも見える.重なり順は確定しているのだが,映像としてのサーフェイスがそれらを無効化するかのように,デバイス間の高度のちがいを超えて,仮想の同一サーフェイスをつくるのではないだろうか.仮想のサーフェイスがつくるモノと映像とが集約されたサーフェイスができあがると,デバイスのモノの厚みが突如復活して,厚みを示す物理的サーフェイスを形成するが,それもまた瞬時に仮想のサーフェイスに回収されていくような感じがある.さらに,物理的サーフェイスを回収した仮想的サーフェイスもまた手に握られていることで再び物理的サーフェイスの厚みを持って,仮想的サーフェイスからぬけ出ようとするが,それは仮想的サーフェイスのままでありつつ,物理的サーフェイスの厚みと共在しながら,ひとつのサーフェイスに集約されていく.

マテリアルデザインが画像をモノのように扱う環境をつくったとすれば,小鷹研理《公認候補》は物理的サーフェイスと仮想的サーフェイスとが互いに組み込み可能な環境をつくっていると言えるかもしれない.

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