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初心者向け演劇の話・棒読みじゃないのに「読んでるだけ」って言われるのなんで?


またなんの期待にも応えられないぼくの持論なんですけども。
ちょっと慣れてきた初心者さんが度々言われる言葉があります。


「それ、読んでるだけだね」


録音して聞いてみても、棒読みじゃない。
ちゃんと感情込めてやってるつもりだし、読んでるだけってどういうこと?
って悩む初心者さん。
ぼくは舞台と映像の現場しかいなかったのでアニメの方はちょっとわかんないんですけど、ずいぶん前にテレビで声優を夢見る人にプロ声優が本格ご指導!みたいな企画をしていて、その時にプロ声優さんが同じことを言っていました。
なので、脚本もらってお芝居する際にはぶち当たるのかもしれないなと思いました。

答えを先に言ってしまえば、「読んでるだけだから」です。

もうね、これがどういう意味なのか言葉にするのが難しい。
そのまんまなんで。
「読んでるだけ」と言われる人は「読んでるだけ」なんですよ。
しかもこれ、棒読みとは意味が違います。
読んでるだけ=棒読み
ではない。
だから棒読みじゃなくても言われることがあります。

そもそも棒読みは棒読みなので、これは棒読み解消の練習をしましょう。
ここから先を読んでも棒読みの解消はできません。
それはそれで今度書きます。
エ〜〜〜って方はYouTubeで「棒読み 解消」って調べたら多くの指導者が教えてくれますんでそちらへどうぞ。


「読んでるだけ」ですけど、細かく言えば
「脚本に書いてあることをそのまま読んでいて、頭空っぽでなにも考えられていない」という状態のことを言っています。
エ〜〜〜?ちゃんと考えてるもん!
考えられていません。
だから言われます。

言われたときに「あ、しまった、気を抜いていたな」とすぐさま反省できる身でない時点でできていません。

言われたことないよ!って言う人は、ちゃんとできている、または指導者が悪い、または言っても聞かないと諦められたんだと思います。
後者は反省していただくとして、前者の指導者とはあなたのお芝居に対して成長を促そうとする人々のことです。
ぼくが後ほど述べることは本来、指導者が伝えるものです。
演出家や団体の長は指導者ではないです。
しかるべき指導をされている人という前提があってあなたを舞台に立たせている人たちなので、この人たちが指導するもんじゃないです。
しかし、指導者を得られるのは中・高の部活動くらいでしょう。
しかも学校の指導者は基本的に学校の先生が顧問として見てくれています。
学校の先生がその道のプロってことはそうそうありません。
学校の先生がその道のプロという超希少な場合もあるにはあるので、ちゃんとした指導者を得たいと思ったらそういう学校選びができるんじゃないかなと思います。
しかしまあ中・高入学時なんて赤ちゃんみたいなもんなんで、そこまで頭が回らない人も多いです。
「読んでるだけ」と言われたことがない、良い指導者を持ってこなかった、ということは1ミリも悪いことではないです。
大学演劇や社会人劇団に所属すると、楽しくわいわいやる人が多いので、そこでも言われることはないかも。
でもちゃんとした劇団、つまり商業劇団だったり、キャパ500以上のとこで3日以上を満席で迎えられる団体だったりしても言われません。
この辺は「読んでるだけ」とは言われなくなった経験者たちの世界なので、そもそも言われるような演者は立ち入ることもできないのです。


では「読んでるだけ」とはどういうことか。
ぼくが昔撮影現場でご一緒した俳優さんの行動をご紹介します。

その俳優さんは昭和を誇る大スターのひとりでして、その作品ではゲストという扱いでした。
主人公の父親役で、昔とても過酷な環境で国のための研究をしていた、という役です。
亡くなった後、主人公が同じ場所へ研究に行くことになり……というストーリーでして、その小道具のひとつに「父が研究の地で撮った写真」がありました。
ぼくがお会いしたのは、その写真を撮影する日でした。
その作品は実話を元にしていたので、これから撮影する写真にも実際のものが存在していました。
ぼくは当時制作の下っぱだったのでなにもやっちゃいないんですけど、その写真を元に、衣装や小道具が揃えられ、スタジオが用意されました。
その中にね、長い木の棒につけられた旗があったんです。
その旗を掲げるようなポーズだったんですけども。
装飾さんがこの旗をその俳優さんに手渡す時にぼくはすぐそばにおりまして。
装飾さんがね、はい、これですって渡したんです。
そしたら受け取ってすぐ、

「折っていい?」

って、装飾さんのお返事を聞かずに
バァァァァン!!!!!!ってぶち折ったんですよ。
膝使って。
折れた後は足で踏んで引きちぎっていました。
ぼくはもうウワワンこの木片全部片付けないと怒られちゃうよぉ😭と半泣きでした。
その間も俳優さんは旗を地面になすりつけて汚していました。

もちろん、ここまでにさまざまな確認、いわゆる「監督OK」が出されています。
衣装はこれでいいのか?セットはこんな感じでこういう飾りでいいのか?木の棒はこのくらいの長さ太さで旗の大きさはこれくらいで汚しはどの程度か?
装飾さんはなにも悪くありません。
ちゃんとお仕事して、木の棒も旗も用意した中から監督にOKもらったものをお渡ししていました。

それをぶち折って汚しまくっている俳優さんも悪くありません。

なぜなら、その一部始終を監督に報告しましたら、なにも言わずそのまま撮影してそのまま何事もなく撮影が終了したからです。
半端な演者がこれをやるとハァ????事前にOKだしてたのに演者が好き勝手動いて道具ぶっ壊して事実と異なる部分作っていいと思ってんのかよ💢💢💢と怒鳴られ二度とお仕事もらえないと思うんですけど。

なぜ許されたか。
俳優さんが監督から絶対の信頼を得ていたからです。
信頼というのは、俳優さんと監督がマブタチなかよぴぴ♡だったわけではありません。
俳優さんの俳優としての仕事に信頼があったのです。

今回の俳優さんの仕事は、
・実際に存在したの人の役
・動くシーンはなく、実際の写真を元に写真を一枚撮るだけ
でした。
こういう役をどう演じるでしょうか。
史実通り台本通り指示通りに動き、実際の写真と同じものを作れるように動く方がほとんどだと思います。

しかしあの俳優さんは違いました。
たった一枚の写真のためだけに、自分の役がどんな人間でどんな環境にいてどんな行動をするのか、実際に存在した人の史実通りの行動を理解するだけではなく、自分自身がこの役を演じた時にこの役はどんな行動をするのか、自分にしかできないこの役はどんなキャラクターなのかを考え固めて現場に来ていたのです。
フツーの演者さんは大抵、監督の解釈とズレがあり、打ち合わせやリハで擦り合わせていくはずですけど。
この時は監督が引いたのです。

「この人の役の解釈に間違いはない。自分とズレがあったなら、自分の方が間違っている」

と、監督に言わしめる力がこの俳優さんにありました。
だからそのままOKが出たのです。

例えこの程度の長さの棒でこの程度の汚れの旗であるのが史実上で正解だったのだとしても、自分が演じるこの役はもっとこういう環境だった!だからもっとボロボロのはずだ!こんなに立派な長い棒なんて手に入らなかった!旗なんてこんなに綺麗なはずがない!

たった一枚の写真のためだけに、すでにOKが出されていた小道具を躊躇なくぶち壊せるほどにキャラクターを練ってきていました。
セリフもありません。
動きもありません。
決められた衣装に決められたポーズがあります。
それでもそこまで考えて現場に臨まれたのです。


「読んでるだけ」と言われた方は、ここまで考えることはしていたでしょうか。
考えて、それを伝えられる努力はしたでしょうか。
なぜそのセリフで、その行動をするのか、全て考えたでしょうか。
そして、考えたつもりになり意固地になり、演出家からの指示に反発したりしていないでしょうか。

ご紹介した俳優さんはプロ中のプロです。
昭和の大スターと呼ばれたひとりでした。
昭和の大スターが写真一枚でこれだけ、いやきっとぼくが気づいていないだけでもっともっともっと深く多く思考を巡らせていらっしゃったはずです。
同じことをセリフがあって動きがある中ですぐできるという人の方がいません。
いたら化け物です。
化け物はこの世に存在しません。
比喩ではなく、いないのです。


なんとなくわかってくれましたでしょうか。
「読んでるだけ」と言われる人が読んでるだけということが。
あなたが演じるこの役のことを一番理解しているのは、現状、演出家と脚本家です。
でも本来、あなたが演じるこの役のことはあなたが一番理解しているはずです。
だから疑問が出てくるはずなんです。
この子はこの時こうだからこういうセリフがあるのに、この演出はなぜこうなるのか?
このセリフのここに違和感がある、この人はこう言うのでは?
そしてその問いに、演出家も脚本家も快く応えてくれるでしょう。
それはこういう意図があってね、かもしれないし、なるほど君の解釈でいこう!かもしれません。
こういったディスカッションが稽古場で飛び交うはずなのです。
休憩中でも稽古が終わっても、いくらでも話していられるはずなのです。
そしてこういう話が飛び交わない稽古場は2パターンしかありません。
未熟な団体か、ディスカッションをせずとも演出側と演者側で解釈が一致している団体かです。
見極め方はもうわかりますね。
「読んでるだけ」になっていないかです。


「読んでるだけ」にならない方法は、常日頃の練習しかありません。
国語の授業のようですが、今この時このキャラクターはなぜこの行動をしこのセリフを発したのか?
考えましょう。
なるべくたくさん、そして柔軟に。
あなたはその役を演じるけどそのキャラクター本人じゃないので、絶対はありません。
わからなければ聞きましょう。
本来の意味での正解はないけど、今回の演出上の正解は演出家が持っています。
セリフの意図がわからなければ脚本家に聞きましょう。
演出家も脚本家もそばにいなければ、仲間とたくさん話しましょう。
仲間もいなければ、インターネットに頼りましょう。
ひとりで突き詰めでもいいですが、柔軟でいることは忘れずに。



詳しいお稽古についてはツイッタースペースで話したりなど。
金銭がちょみっと発生しますが、個人稽古もぼくでよければ喜んで。
スペースでお稽古してるときは無料です。
よしなに。

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