マサシモリ

些細でも何かが届くように、noteに小説をメインに記します。 学生時代にフリーペーパー…

マサシモリ

些細でも何かが届くように、noteに小説をメインに記します。 学生時代にフリーペーパーのライターを経験。現在は事業会社の人事および購買物流に従事。 東京下町生まれ、東京在住、妻と一男一女の計4人家族。

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【短編】 たかだかたか

何の変哲もない誕生日 前半 iPhoneから鳴り響くアラーム音により、7時10分頃に目が覚め、画面は2017年6月15日(木)を示している。機械仕掛けのようにトイレに入り、鏡に映った若干しゃがれた顔を眺めて存在を確かめた。用を足し、シンクで手を洗い、水道水をコップに注ぎガラガラっと喉をうがい、口をゆすいだ後に一杯の水を飲む。電動歯ブラシを操作しながら、眺めた洗面鏡に映る自分の顔は頬がやや緩んで見えた。 カーテンを開き、窓を開放すると、ベランダは濡れた形跡があり、若干じめっと

    • 空飛ぶストレート【 ショートショート】

      荒巻は頭とお尻がくっつく勢いで、天を見上げた。 宇宙人は言った、「たった一つだけ願い事を叶えよう」と。 「バカヤローッ!!」 と叫んでから、左利きから無理やり右利きに変えさせられた拳を雲一つない快晴の空に向かい、渾身の一撃を打ち放った。昨日出会った宇宙人の指示通り、約束の時間。一分の狂いもない。 荒巻正は無勝の4回戦ボクサー。次の試合に負けたら引退。独特の熱量が彼の背中を後押しする。まとわりつく空気が彼を虜にする。 1ラウンドKO負け。彼は消えた。 近年、世界は豹変した

      • 三つ葉のクロールオーバー【#2000字のドラマ】

        【ある日の3人】 ■土曜日13:00頃 約1年ぶりに3人は揃って顔を合わせた。渋谷駅前から見渡すセンター街入り口には陽炎が見え、交差点には人の魚群がうねる。交わす言葉は最低限に評判のイタリア料理店へ先を急いだ。 NHKの裏手、宮下公園にも人は散乱し、宿命に抗うようなセミの鳴き声、鬱憤を晴らすように太陽の光が容赦なく降り注ぐ。坂道を登りきると、店外には10人程度の行列ができていた。店先で予約名を伝え、足を止めるとアスファルトの照りかえしも加わり、毛穴からドッと汗が吹き出した。

        • 【短編】凧と糸

          唐突で、息つく暇も無かった。死の宣告とは素早く残酷でせつない。雑多で数奇な幾代もの過去が絡まりあい、青くて丸い惑星に生をうける。 夕暮れの空にあてもなくそよぐ親子が紡ぐ凧、地上から操られる白い線は蜘蛛の糸のようにさざれ今にもちぎんばかりにかぼそく…ゆらゆらと。 夢うつつの中、突き付けられた片道切符。無論あるはずもない死の宣告に、戸惑う。見上げれば遥か彼方、黒い雲がかった先の見えない別世界へ招かれる登り階段。夢と現実を差別化するバロメーターなんてないものだろうか。 会社勤めの

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        【短編】 たかだかたか

          【ショートショート】 ある日この頃

          胸につかえるモヤモヤ。食道におにぎり一個がつかえているような気がする。胸より下も人形が詰まっているようで、すっきりとしない。 腹の虫が鳴いている。何がどーってわけじゃない。 朝6時に目が覚めてから、用を足しにトイレへ足を運んだ。ベッドへ戻り、うたた寝する。天井を見上げたまま、寝返りすらうたず、起き上がろうとする気力は毛頭ない。 とはいえ、何もしないでも空腹は訪れ、体が喚きだす。寝巻のまま徒歩3分圏内にある、中華料理屋へ向かう。くたびれた年季の入った赤い暖簾、顔が皺だらけの店主

          【ショートショート】 ある日この頃

          【詩】 嗅覚

          湘南の海沿いの地下道、そこを抜けると ふわっと焦がれた夏の臭いがした 尽くせぬ胸の痛み 君とひと夏を過ごした懐かしい風景と磯の匂いとさざ波 ただちょっと恋の臭いを嗅いだだけ 君は、今、何処で、誰と手をつないでいますか? あのとき、毎日一箱は吸っていた紙タバコもいまでは電子タバコ 代わりによりとりどりの小説と数本のサーフボードとスケボー、そばには柴犬 私はあいも変わらず元気に生きています 予定は立ちませんが、まだ暫くかかるとは思います いつかそちらにいきますか

          【詩】 嗅覚

          【ショートショート】大きな木の木の実

          大きな木の下で育ちました。 見上げると私を陰で包んでしまうくらい、入道雲のような大きな木。 ここには見渡す限り、緑の大地と紺碧の海、広大な草原にぽつんと寂しくそびえる木です。耳を澄ますと涼やかな草を揺らすささやかな音しか耳に届きません。稀に海からふきつける乱暴な風が悪戯をします。 もしかすると、木から生まれたかもしれません。それほど愛しく身体の一部だから、欠かさず毎日食べています。 喧嘩して涙するとき、愁い、友人や家族と抱きしめあうとき、他人を責めて、自分を蔑んだときも

          【ショートショート】大きな木の木の実

          【つぶやき】 道と轍

          火曜日の決心が 水曜日には揺るがないように 弓が張りすぎないように かといって、緩みすぎないように 日々をこなして、過ごしていく これからもそんな日が続いていくはずだ 右手にインスタントコーヒーを 左手にはiPhoneを 目に映る情景には妻と息子と景色とあらゆる日常を

          【つぶやき】 道と轍

          【つぶやき】 存在の耐えられない軽さ

          宇多田ヒカルが耳に届けていくれる歌声はU2よりもBEATLESよりも心地よく好きかもしれない。 年月を重ねた今の彼女が唄うAutomaticが1998年当時より胸に響くリズムが落ちついて、GoodbyeHappinessが最後で切ない。 彼女はミラン・クンデラの著作、「存在の耐えられない軽さ」について触れたことに更に好きになった。 登山家に言わせれば、朝飯前かもしれながい、そこそこハードな登山を経験し、三鷹駅で下車。老舗ラーメン店でたいらげるチャーシューとメンマとどっさ

          【つぶやき】 存在の耐えられない軽さ