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勝利投手4

 ―本場のアメリカに行って野球を一から勉強しなおそう・・・!
 夢中になって英会話を学びはじめた国政の姿に妻も何も言えなかったに違いない。帰国後解説者を経て広島カープのコーチになるまで心理的にも経済的にも一番苦しい時期だった。
 平凡な生き方をしようとすればいくらでも楽な道があったのに、屈することなく闘い続けてきたのは、すべて今日この瞬間のためなのである。日本シリーズというひのき舞台で巨人を倒してこそ、国政の野球は巨人を超えるものであり、ひいては国政の生き方が正しかったことが証明されるのだ。

 ―いけない・・・!
 国政は我にかえった。今は感傷にひたっているときではない。ツーアウトといってもバッターはピッチャーの東尾が最も苦手としている篠塚なのだ。グラウンドをとりまくスタンドの歓声のボルテージが、また一段上がったようだ。

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