見出し画像

「アフリカに服を送るな」と叱るアメフトキャプテンの今

本当にすごい学生の魅力は、しょぼい面接官のモノサシでは測れない。
反省している。

「いま面接してきた学生、やばかったよ」

ニヤニヤしながら同僚が話かけてきたのは15年ほど前のこと。
当時、僕らは某外資系企業で採用活動にたずさわっていた。

面接にはいろんな学生がくる。
数学では負けないと豪語する学生。
独立国を作るという学生。
首に直にネクタイを巻く学生。

さて、今回はどんな学生なのか。

その同僚は統計の問題を出したらしい。
2個のサイコロを振ったときにどの数字が出やすいかとたずねた。正解は7なんだけど、その学生は自信満々に12と答えたという。
もちろん、12を出すには2個とも6が出ないといけない。

学生は、同僚の目を見てこう言ったそうだ。

「僕はここぞというときなら100%の確率で6を出せます。信じてください」

お前は新田明男か、と思った。
マンガ『タッチ』に出てくる強打者の新田はここぞというときに打つ。監督からも「わしが心底打ってほしいと願う場面での新田は10割なんだ」と恐れられていた。

新田明男はそうそういない。いるのは、大口をたたいて印象を残そうとするビッグマウス系学生だ。

マンガ「タッチ」より


僕らはトレーディングの採用活動をしていたから、統計の問題を”自信”で乗り越えようとする彼を面接で通すことはなかった。

しかし、次の年の4月、その新田くんは会社にやってきた。すぐ隣の営業部で採用されたのだ。
アメフト部出身の新田はマッチョで全身こんがり焼けていた。にこやかな顔だが鋭く射抜いてくる目つきが印象的だった。

彼の仕事はお客さんである銀行に、いろんな金融商品を売ること。その商品を作ったり値付けしたりするのが僕らトレーダーの仕事だった。彼と関わることは多かった。

営業マンは商品に詳しい必要がある。しかし残念ながら彼は飲み込みが遅かった。特に、僕があつかう商品は複雑で、説明してもなかなか理解してもらえなかった。
「おい、新田よ。お前はいつも6を出せるんじゃねえのかよ」と内心思っていた。

そんな矢先、彼のお客さんが僕の商品を取引したいという。しかも大きい取引になりそうだ。

「ちょっと、自信ないっす」

新田は泣きそうな顔をする。おいおい、大丈夫かよ。このサイコロは6どころか半分の3も出やしない。話が違うだろ。
さて、困った。彼にミスがあれば、お客さんは怒るだろうし取引で大損することもある。しょうがないから、新田とお客さんの電話にのることにした。

そこで、ようやく分かったのだ。彼が必ず6を出せると言っていた本当の意味が。

電話の向こうにいるお客さんも新田とのやりとりを不安に思っていた。しかし、こんな提案をしてきた。

「新田君、取引内容わかる?難しそうなら僕がトレーダーと話そうか?」

驚いた。通常あり得ない会話だ。

想像してみてほしい。
パソコンを買いに来たのに、店員がスペックを説明できなければどうするだろうか。すぐ別の店員呼んでこいと怒るだろう。ましてや銀行がお客さん。半沢直樹の世界だ。普通はめちゃくちゃ厳しい。

ところが、そのお客さんは直接トレーダーと話そうかと気遣ってくれている。それだけ新田が気に入られているのだ。よく考えてみると僕も同じだった。僕も彼を気遣って電話にのっている。
いつもの僕は、物分かりの悪い人に厳しい。彼の上司に文句言って、担当を変えさせたかもしれない。

だけど、そうはならなかったのは彼を応援したかったから。一緒に働く中で、彼がめちゃくちゃ真っ直ぐで、めちゃくちゃ熱心で、めちゃくちゃ誠実だとわかったからだ。

彼は魅力的な人間だった。僕やお客さんがサポートしたように、これまでも彼は周りを巻き込んで成功してきたんだと思う。
その意味で、彼のサイコロは全面6だったし、ここぞというときに10割打てる正真正銘の新田なのだ。
だが、このときはまだ彼の本性を知らなかった。

しばらくして、マッチョな新田が同じマンションに引っ越してきた。
彼のプライベートを垣間見るようになった。音楽をかけてテラスでバーベキューをキャッキャ楽しんでいる姿も見かけたし、怖そうな感じの友人たちと車で出かけているのも見かけた。

いわゆるパリピ、そんな印象だった。
僕も、彼のホームパーティに誘われた。パリピたちと話が合うのか不安になりながら参加した。そこで彼やその友人たちの意外な一面を知ることになる。

フェスに行っているんすよ、とでも言いそうなトーンで彼は言った。

「彼らにも手伝ってもらって、アフリカ支援しているんすよ」

彼とアフリカの子どもたち


新田は写真を見せてくれた。アフリカの子供たちがたくさん写っていた。アフリカのスラムには、ご飯が食べられなくて教育も受けられない子達がたくさんいる。

その子たちのために、学校を作ったり、寝泊まりできる場所を作ったりしているという。それも、ただお金を集めるだけではないのだ。
彼は有給休暇はすべてアフリカで過ごしていた。卒業旅行でアフリカを訪れて以来、毎年アフリカに行って自分の手足を動かして支援をし、本当に必要なものは何かを考えていた。

「アフリカには服を寄付しちゃいけないんすよ」

服を寄付することが経済発展を妨げていると教えてくれた。世界中から衣類が送られてくるからアフリカの人にとって服はもらうもの。買おうとしない。だから衣類を作る産業が発達しないと彼は言う。

たしかに、産業を育てるには、繊維工業などの軽工業から始めないといけない。いきなり、自動車やパソコンは作れない。日本が明治時代に急速に産業化したのも繊維工業の発達から始まっているのだ。

新田は経済を勉強したわけではない。
現場の声を聞いて経済の本質を感じてきた。GDPだインフレだと数字の話をして”グローバル経済”を語っている人たちが、まがい者にみえてくる。

「いつか、アフリカの人が作った服を日本で売りたいんすよ」

新田は夢を語っていた。
彼の本名は、銅冶 勇人(どうや・ゆうと)。


銅冶、夢に向かって歩き始める

8年前、銅冶は会社を辞めて、夢に向かって歩き始めた。アフリカで作った服を売るアパレルブランドCLOUDYを立ち上げた。

ガーナにあるCLOUDYの工場

最近、テレビでも見かけるようになったし、大活躍しているようだ。
彼はしっかり者に見えて本当は頼りない男だ。それが彼の強さだと思う。これからも周りも巻き込んで、10割打ち続けてほしいと思っている。

今もアフリカの未来を作り続けている。

銅冶 勇人、とにかくすごい奴なんすよ。

https://www.instagram.com/yuto_doya/

(追記 2023/01/20)
「経世済民オイコノミア」で、宮台真司さんとともに、銅冶勇人さんの活動をお聞きしました。
その時の話はこちら。


ーーーーーー
読んでいただいてありがとうございます。
田内学が、毎週金曜日に一週間を振り返りつつ、noteを書いてます。新規投稿はツイッターでお知らせします。フォローはこちらから。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?