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友人が父親になった日

僕が友人Aくんと同居をはじめたのはまだ前世紀の話だ。
安い賃貸アパートをAに契約してもらい、僕がそこへ転がり込む形で。
Aが企業に勤め、家事一切を僕が引き受ける形で数年暮らし、
平和ながらも住環境にはなにかと不満が募ってきたところで引っ越しをすることに。

21世紀という言葉も定着してきた当時、ルームシェアという形態も周知されはじめていたものの、
夢を追う二人の若者が家賃節約のために身を寄せて、なんて形容するには少々年齢を重ね過ぎていて、
不動産屋でも「学生でもないいい歳した男が?ふたりで??」とあからさまに不審感を突きつけられる。
大家さんもそういったいわゆる普通(大多数)ではない契約は嫌がるようだ。
犯罪にでも使われたらたまったもんじゃないと。デスヨネ。
なのでまたAが単独で契約し、僕は友人の家に遊びに来てる人設定だ。いつもいるけど。
そしてまた何事もなく数年が経ち、部屋に飽きてきたところで引っ越し機運が高まる。
しかし引っ越す度に前回のような煩わしい思いを延々しなくてはならないのも癪だなと、ならば住宅は買ってしまおうか。

その頃には世間では多様性を受け入れていこうよという価値観も熱を帯びはじめ、十数年前とはずいぶん空気も変わった。
今なら大丈夫かなと、住宅購入で担当する不動産屋の営業マンBさんには、男二人の同性カップルで暮らすための住宅探しと正直に伝えた。
その瞬間すっと心がひとつ軽くなった気がして自分でも驚いた。
それまでは笑顔で平然と嘘をつくのが当たり前になってて麻痺していた部分ではあったけど、やはりどこかに棘として刺さっていたんだな。
Bさんは驚いた表情ではあったが嘲笑うことも敬遠することもなく、真摯に住宅購入完了まで対応してくれて感謝しかない。

無事誰にも文句を言われない形で住宅を手に入れ穏やかな暮らしで歳を重ね、ある日届いた保険の案内に目を取られる。
これもそろそろ見直しかな~そういやもしなにかあってAが亡くなったら、せっかく手に入れたこの家も持っていかれてしまうよね相続的に、という話に。
お互い前々から分かってはいたけれども目を逸らし続けてた問題である。
しかしこの歳になり、やれ親も高齢になり具合が悪いだの、誰々さんが若くして亡くなっただのという話もたびたび耳に入るようになり、
いよいよ直視しないといけないタイミングなのかなと。
現状相続に有効なのは養子縁組か遺言状か。

養子縁組はとても大変、裁判所であまり他人には触れられたくない繊細な状況を滾々と申し立てたり法律の専門家のところでもまた...なんていう勝手なイメージを持ってた。
逆に遺言状は紙一枚書いておけばOKなんていう、これまた勝手なイメージだった。

果たして実際はどうなのかと改めて調べてみたら、遺言状はもちろん自作でもいいんだけど、しっかり穴のない法的根拠を求めるならば、弁護士に担当してもらって書き上げたほうがいいと。
費用手間暇とまた一から関係性の説明もなかなか面倒だ。
そして驚いたことに養子縁組のほうが書類を役所に提出しておしまい、受理されたらその場で即有効という至極単純明快システムだった。
婚姻届などと同等に、それぞれの戸籍謄本と一枚の養子縁組届書類だけで完結とな。
なにそれ簡単!ということで、じゃあ早速やってみよっかと軽く盛り上がる。

ひとつ気を揉んだ点は、届出用紙に記載しなくてはならない自分たち以外2名の「証人」欄。そんなのいるんだ?
twitterで相談したら誰かしら協力してくれそうではあるけども、そうしてまでお手を煩わせるのもなんだかなってことで、
ネットで証人代行業者を探したら、とある行政書士事務所が請け負ってくれそうなのでお願いすることに。
費用は5,000円前後からあるようだ。
それを0日目として以下経過。

■1日目■
早速お役所に手続きの説明を聞きに行く。
おおむね事前に調べた通りで、そのまま届出用紙を貰う。

■2日目■
お互いの戸籍謄本を取り寄せるために、各種切手・封筒・手数料としての定額小為替などを購入。
代行業者さんへ申込みメールと料金振込み。

■3日目■
前日用意した謄本請求セットをそれぞれの役所へ向けて投函。
証人代行業者さんへの必要書類も投函。

■7日目■
謄本のうち一通と、代行業者からの書類が到着。

■8日目■
残りの謄本も届く。

■9日目■
揃った書類を持って市役所で提出。
ほんの数分、名字が変わるよとか本籍がこうなって云々という説明を淡々と受け、はいこれで受理されますので終わりです、というあっけなさ。

以上で無事に養子縁組が完了し、Aくんとの公的な続柄が「友人」から「父親」になりましたとさ。

まぁ世の中には、こんな一見変哲もなく人知れず田舎で地味に暮らしているマイノリティは、意外といっぱいいるんだよってことと、
同性婚まではまだまだ先が長そうなこの国だけど、養子縁組はこんなに簡単だからそういう気があるなら便利に活用しようぜってお話でした。


余談だけど、前にいちばん長く住んでた場所では、町内会などのお知らせもなく、近隣の方々と顔を合わせればにこやかに挨拶はするけども、それ以上はなにも関わりのない程度の関係性で。
なので仲良くなることもトラブルになることもなく、ある意味円満なご近所付き合いだった。と思っていた。
引越し後しばらくして、たまたまそのご近所さんたちとばったり遭遇して談笑する機会があったんだけど、
「そういえばあなた達さぁ、やっぱりコレな関係だったのぉ?(笑)(頬に手の甲を添える例のポーズで)」
「そうそうウワサだったのよぉ、ねっ奥さん!🤭」

あ~住んでた当時は耳に入らなかったけど、やっぱり周りではそういう認識だったんだなぁ。
そしてきっと今もこのご近所ではそう噂されてるんだろうな。
直接害がないから問題ないけどね!
自分の鈍感力にこればかりは感謝してる。


ここから追記です。

まずはたくさんの方に読んでいただけて感謝です。
いただいた感想の中で、「おめでとう?でいいのかな??」と少し困惑された様子もあったので明記します。
「おめでとう」で本当に嬉しいです\(^o^)/

小学生の頃に自分が同性愛者だと自覚し、そして周り世間を見渡してみて、
あっこれは結婚とかそういう公的に一般的な暮らしはできないんだな、無縁なのだ望んでもがっかりするだけだ希望など捨てるんだ、と強く言い聞かせて過ごしてきました。
なので今回の展開は、自分でも驚き戸惑いつつもあるけど、やっぱり嬉しいものです。
たくさんのお祝いや応援の言葉をありがとうございます!

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