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『立正安国論』に学ぶ「対話の精神」

 今回の企画では、2週間後に迫った世界青年部総会に向けて、先週に引き続き、世界青年部歌「Eternal Journey with Sensei」の歌詞を取り上げさせていただきます。

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 世界青年部歌では「Sensei! Your vow is my vow.(先生、あなたの誓いを必ず果たします)」と繰り返し歌われています。「vow」とは「誓い」の意味で、ここには『新・人間革命』の最終章である「誓願」の章の意義が込められていると思いますが、「Your vow is my vow」と複数人が登場することから、個人の誓いではなく、「誓いの共有」を表しているとも言えます。
 そして「誓いの共有」こそ、私たちが進める対話運動の決着点です。今回は、この「誓いの共有」に至る「対話の精神」について、『立正安国論』から学んでまいりたいと思います。

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〈御文〉
 主人の曰く独り此の事を愁いて胸臆に憤悱す客来って共に嘆く屢談話を致さん(立正安国論、御書17頁)
〈現代語訳〉
 主人が言う。自分も一人でこのことを憂い、胸の中で憤ってもどかしい思いでいたところ、あなたが来て同じことを嘆くので、しばらく、これについて語り合おうと思う。

 『立正安国論』では、客の苦悩の声に、主人が真摯に耳を傾けることから語らいが始まります。客が飢饉、疫病などによる社会の惨状を嘆き、それを食い止めたいとの熱意を吐露したことに対し、「独り此の事を愁いて胸臆に憤悱す」と、主人も同じ悩みを共有していたことを明かします。この「憂いの共有」こそが、社会の変革を目指し、未来を照らす対話を開始する糸口となっているのです。
 今、多くの人がSNSを利用して、不特定多数に向けて自分を表現しています。SNSは、元々はその名の通り、社会的なつながりを提供するサービスとして作られましたが、特定の意見が増幅され、社会の分断をも深めているのが現状だと言えます。
 相手の声に耳を傾け、対話を始めることの重要性を感じます。

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 イギリスの認知心理学者ターリ・シャーロットさんの著書『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』では、意見の異なる相手を説得する際、私たちは本能的に、自分が正しくて相手が間違っていることを示すデータを用いて、相手の意見を変えようと試みますが、これがなかなかうまくいかない理由を説明しています。
 人は、新しいデータを提供されると、自分の先入観を裏づける証拠なら即座に受け入れますが、反対の証拠は無視する傾向があるそうです。では、どうするか。相手の間違いを証明しようとするのではなく、共通点に基づいて話をすることが大切です。
 例えば、「ワクチンの接種で子どもが自閉症になる」と信じてしまっている親に「ワクチンと自閉症は無関係」という科学的証拠を示しても、親は考えを変えません。それよりも、ワクチンが命に関わる病気から子どもを守ると伝える方が効果的です。相手の先入観を否定することなく、子どもたちの健康維持という共通の目的と一致するからです。

 実は『立正安国論』にも、同様の配慮が見られます。

〈御文〉
 先ず国家を祈りて須く仏法を立つべし(立正安国論、御書26頁)
〈現代語訳〉
 まず国家の安泰を祈って、しかるのちに仏法を立てるべきである。

 国が滅び、人々が死んでしまったならば、仏法もまた滅ぶほかないのであるから、まず国家、社会を安定して、しかるのちに仏法を立てるべきであるとの客の言葉です。ここには、政治が主であって、宗教は従であるという考え方があります。
 ここで注意する必要があるのは、これが時の為政者・北条時頼を想定した「客」の言葉であることです。
 これに対し、主人である大聖人は、否定するような回答をしていません。主人は「いや、違う、仏法が第一で、国家は二の次です」といった明示的な回答は避け、相手と対立するのではなく、対話による教育的、感化的なアプローチをしていくのです。

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 池田先生は、次のように講義されています。

 『相手の心が開き、大きく動いていくのは、どこまでも人間的な魅力、人格の力です。それは、自身の置かれている立場や肩書によるものでは決してない。一人の人間としての生き方に現れるといっていいでしょう。
 いかなる境遇であれ、人々のため、社会のために尽くしながら、朗らかに、確信に満ちて力強く生きる姿は、相手の心を揺り動かさずにはおきません。』
(『池田大作先生の講義 世界を照らす太陽の仏法』第22回「人間革命の宗教②」「大白蓮華」2017年2月号)

 『立正安国論』では最後に、客が「唯我が信ずるのみに非ず又他の誤りをも誡めんのみ」(33ページ)と自らの決意を披歴し、主人と客とが「誓いの共有」をしていく場面で終わっています。
 ここに私たちの目指す、対話の決着点が明確に示されています。

 9.27世界青年部総会に向けて、対話を広げてまいりましょう!

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