見出し画像

『遙かなる時空の中で7』総評

『遙かなる時空の中で7』、通常EDと大団円EDを含むすべてのルートの攻略が終わりました。

本当にすばらしい作品でした。

私が『遙かなる時空の中で7』に出会うまで

正直なところ、最近の私はそれほど熱心なネオロマンスゲームのユーザーではなかったと思います。女性向け恋愛ゲーム自体に、すでに興味が落ち着いてきていました。

『遙かなる時空の中で7』が発売することは知っていましたが、「そのうち時間ができたら遊びたい」というラベルを貼ってのんきに構えていたものです。
ところが、発売直後から周りのユーザーの評価が非常に高いことが気になってきました。私の周りは、ネオロマンスゲームを遊びつくしてきたようなコアユーザーが多いですから、彼女たちを満足させるゲームを提供するのは大変なことだと思うのです。

これはゲームのクオリティに期待できるのではないかと思い、いそいそとソフトを購入しました。

ネオロマンスゲーム回帰

PlayStation Portableの生産終了に伴って、女性向け恋愛ゲームの次世代機がなかなか浸透しないことが指摘されるようになって久しいと思います。
詳しくは下記をご参照ください。2018年の記事ですが、女性向けゲームの歴史が非常によくまとめられています。

この時点で女性向けアプリゲームのサービス終了が増えてきたことについて指摘されていますが、女性向けゲーム市場のなかでさらに恋愛ゲームの市場は更に狭いものです。恋愛ものには興味がない女性もいますから。コンシューマでもソフトが売れないうえに、アプリゲームでも苦戦を強いられているこのジャンルは、このまま衰退していくかもしれないと個人的には思っていました。

栄枯盛衰は世の常。仕方がないことと思います。
私はもうたくさん素敵なゲームをプレイしたから、これからは思い出としてその記憶を大切にしよう……そんな気持ちでいました。

そこに登場したネオロマンスゲームの新作『遙かなる時空の中で7』。

私がこの作品にさして期待していなかったのは前述のとおりですが、そのうえ、私も最盛期には女性向け恋愛ゲームを年間数十本プレイしていたので、もう「遊び尽くしてしまった」とも思っていたのです。
だから、自分がこんなに夢中になるなんて思いませんでした。

今だからこその『遙かなる時空の中で』

この作品に、何かすごく新しいストーリー上のトリックがあったとか、思ってもみなかった展開で度肝を抜かれたとか、そういったものはありませんでした。
ただただ、純粋に感動できたのです。

女性向け恋愛ゲームの根幹はコミュニケーションです。
主人公が相手に出会い、相手から何かを感じて成長し、相手にも何かを与えていきます。だから、ゲーム開始時点で相手か主人公のどちらかに何か大きな欠落や悩みがあり、相手とそれを乗り越えて発展していく作品が数多くあると思います。

それでいうと、本作の七緒は個人的なコンプレックスやトラウマを抱えているわけではありません。
彼女の抱える目標、ゲーム開始時点の欠落とは、異世界・戦国の「乱世を鎮める」ことです。これを、八葉たちとともに実現していきます。

「乱世を鎮める」とはいっても、自ら武将になって徳川家康のかわりに幕府を開くというわけではありません。それは無理です。彼女は龍神の神子として、自分にできることに懸命に取り組みます。
怨霊を浄化し、龍脈を整えて、天下に安寧をもたらす。龍脈が整えば天災も飢饉も減るし、怨霊に脅かされることがなければ人心が荒廃することにも歯止めがかけられるはずです。
非常に地道なのですが、こうした働きは、じつは多くのユーザーが毎日していることと似ているのかもしれないと思います。たくさんの人が、毎日仕事なり勉強なり家事なり、目の前のことをこつこつ頑張って、精一杯世の中を守っているでしょう。
だからこそ、七緒が積み上げていくものが「乱世を鎮める」という大きな目標に通じていくのが喜ばしく感じられます。

また、七緒が出会う登場人物たちに関しても、本当に魅力的に作り込まれていることを感じました。
彼らが好きでないと恋愛成就しても意味がないのですから当然かもしれませんが、誰もが非常に尊敬できる人物像だったと思います。歴史を下敷きにしたエンターテインメントとして強い背景を背負っているのですが、それだけではなく、この作品の「真田幸村」や「黒田長政」としてどう描くかが突き詰められています。

だから、歴史を元にしてこのエピソードをそう描くか、という面白さの向こうに、それを納得させるオリジナルの豊かな人間描写がある。人間関係の描写も本当にすばらしくて、もう、これこれ、これが見たくて私は『遙かなる時空の中で』を遊んでいるんだと何度も思わされました。
私は物語の中でしか出会えないような人たちに出会いたいのだ、と。

好きな台詞や好きな場面は枚挙にいとまがありません。
おかげでプレイ中、ほとんど退屈することなく駆け抜けることができました。

古き良き物は常に新しい

本作は、ストーリーとしては古きゆかしき貴種流離譚です。
現代に逃れていた織田信長の娘であり龍神の神子が地位を取り戻すという序盤の物語と、さらに真田幸村ルートや天野五月ルートで判明する要素との二重構造となっています。このことを共通イベントのなかで竹取物語に託し、筒見屋あやめの口から語らせています。

また、そこに異類婚姻譚の要素も含みます。こちらの要素を、天女の羽衣伝説に託しているところもまた非常に印象的でした。

そういった意味で、古来からの説話的要素が何重にも込められています。誰もがどこかで触れている、懐かしくいとおしい物語。
そのことが、ほとんどもうやり尽くされたと思われた「女性向け恋愛ゲーム」「ネオロマンスゲーム」の懐かしさ、いとおしさにもリンクして感じられました。

本作の言葉の美しいこと。流れるキャラクターボイスに耳を傾けているだけで心地よかったです。
様々な伝承や書物や詩の引用、たとえ話、本心を託した美しい言葉。何度見返しても、まるで叙事詩のように感じられます。「言霊」を作品内のひとつのキーワードにしているくらいですから、言葉への誠実さはネオロマンスゲームをプレイするときいつも感じることではあるのですが、今作ではそれをとくに強く感じました。

人を愛することは美しいのだと、繰り返し繰り返し教えてくれます。

ただ、ひたすら純粋に感動できる作品。
私は本作に触れているうちに、またこんなゲームが遊びたい、と心から思いました。女性向け恋愛ゲームを思い出のなかにしまいかけていた私に、神様が与えてくれた贈り物かもしれません。
そんな風に思える、大好きなゲームです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?