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2018年 Album of the year ①

Jamie Isaac: (4:30) IDLER

個人的に男性R&Bのスロウジャムというのがジャンルで言えば一番好きで、2016年はGallant、2017年はdvsnのアルバムを愛聴していました。今年はディグ不足もありR&Bシーン本流ではこの手の音であまり良いものに巡り会えませんでしたが、jamie issacのこの作品のムードには一瞬で引き込まれるものがありました。
表面的にはネオソウル風とも取れるのですが、むしろ昨今のジャズやビートミュージックの流れから芽を出した歌ものという方がしっくりきます。歌は決して熱くならず、囁くような地声と甘く女性的なファルセット。これはメインストリームR&Bの猥雑な官能性とは趣が異なりますが、しかし実にセクシュアルです。サウンドは本人によるピアノと歌、そして打ち込まれたビートが基軸。時々添えられるサックスの抑えた色気もいいです。まさに気だるい都会の夜の音楽。
彼は影響源としてマーヴィンゲイやチェットベイカーを挙げているようです。音が絡み合い、曲が幻惑的に高揚していくところは70年代黄金期のマーヴィンゲイを確かに連想させ、また先述の中性的な歌は、これも確かにチェットベイカーを思わせます。個人的に思い入れが深い所ではMaxwellの傑作、urban hang suiteなども近いものを感じます。新たなクワイエットストームの逸品。

Ella Mai: Ella Mai

ここ数年のポップミュージックのクロスオーバー化で、黒人による歌物=R&Bという図式は無くなりつつあるように思います。そんな時代に純R&Bアルバムである本作が華々しく受け入れられたのは意外でした。発火点であるBOO'D UPはメロウかつクールでありながら、つい口ずさんでしまうフックが超キャッチーでした。
本作はよく90's風味と評されます。クールなR&Bで統一されたムードやいくつかの音色は90'sテイストを感じさせます。しかしビート自体はトラップを通過したものですし、ボーカルのアプローチもビートに対してフロウすることが染み付いていて、「90年代リバイバル」ではなく、2018年型オーセッティックR&Bという印象が強い。リバイバルではないからこそ、これだけシーンから歓迎されているんだと思います。あと、やはりUKからこう言ったシーンのど真ん中に切り込むシンガーが出たことは驚きでしたし、痛快でもありますね。
アルバムはアップ、ミッド、スロウと良曲揃い。聴き進めるほどにコクが増し、最後にゴスペル風曲で幕を閉じるのも美しい。Ella Maiのヴォーカルにはハリのある若々しさと、苦味のある切なさのどちらにも振ることができるある意味、黄金の中庸とでも形容したくなる魅力があります。
このアルバムを聴いて思うのは、R&Bは他のポップミュージックと比べるとメロディには華やかさも無いですし、誰もが仰天するような先鋭性もない。これは抑制と反復と人間の歌唱から生まれる熱と旨味を味わう音楽で、アーティスティックな気取りがないため生活の一部となりうる音楽だということ。そして自分はその感覚が凄く肌に合うのだなぁということです。
ベストトラックはH.E.Rとのデュエット美曲、GUT FEELING。切ないピアノリフと二人の歌唱だけで泣かせられました。

Chara: Baby Bump

charaに関しては昔から結構好きで、そこそこ愛聴もしていました。一聴すると奇矯に聞こえる歌も、優れたリズム感と彼女のフィルターを通したソウルミュージック感覚が伝わるもので、ヴォーカリストとしても魅力的だなと思ってました。ただ、アルバム単位では聴くとちょっとメルヘンチックだったりして個人的には少し辛いなと思う所もありました。
このアルバムに関しても半信半疑で聴き始めたのですが、ソリッドでファンキーなダンストラックとメロウなソウルミュージックのつるべ打ちで完全に喰らってしまいました。
ジャンルミュージックとしてソウルに焦点を絞った結果、メルヘンチックな重さ甘ったるさが抑制されて、何度も聴きたくなる「ビタースイートな名盤」の風格を既に纏っているように思います。また製作陣の人選に関しても抜群に冴えていて、mabanua,swing-o,tendreなど中堅〜若手の国産ソウル作家製のトラックはどれもしっかり踊れますし、深いコクと瑞々しさを備えています。恐らくcharaのディレクションによる所だと思うのですが、国産ソウル風ポップにありがちな軽いだけの雰囲気はなく、「抑制と反復と高揚によるセクシュアルなソウルミュージック」になっているのがとてもいい。つくづく、アルバムコンセプトと彼女の資質が完璧に噛み合った作品だなと感心してしまう傑作です。
3月にアナログが出る様なので必ず入手したいと思います。

mabanua: Blurred

上記のcharaの作品でも素晴らしい仕事をしていたmabanua。自分は彼のプロデュース作品も好きなのですが、それ以上に前ソロ作が大好きで未だにたまに思い出しては聴き返す愛聴盤です。
今作はモノクロのジャケットが示すように前作より淡白な感じ。サウンドはこざっぱり整理され、ビートもメロディもシンプルに。「シーンのトレンドは意識せず自分の好きな音楽を作った」とのことで、何回も、何年も聞いてもノビることのない音楽になっていると思います。シーンは意識していないとは言いつつ、元々ファッショナブルなセンスの持ち主なので、無駄な色気は削ぎ落とされていますが、持ち前のアーバンな感覚のみ残ったという感じでしょうか。
遠くの景色を眺めて感傷に浸るようなheart break at dawn、ストレートにメロウなnight fog、ミッドダンサーのtangled upなど、違う曲調でも淡い切なさという点で通底しており、気持ちよく何度も聴き通す事の出来る名作だと思います。

AERIS ROVES: MOON By ISLAND GARDEN

たまたま小袋成彬のラジオをつけていて知った程度で、自分はこのシンガーソングライターについてほぼ何も知識がありませんが、ロンドンで活動している人との事で、Jamie IssacにElla Maiにと、図らずも今ロンドンの音楽が肌に合うのだなぁと意外に思っています。
つまり彼が何に影響を受けて音楽を作っているのかすら分からないわけですが、芸のない言い方をすれば「フランクオーシャン以降」のR&B、でしょう。ビートのガッチリした曲もあれば、申し訳程度に添えられるものもあり、また曲調や音選びはロマンチックで自閉的なものを感じます。柔らかなヴォーカルもこの優美な音楽を物語るための声として素晴らしいと思います。あと、メロディも良い。
一方で雰囲気としてはフランクオーシャンほどのコンセプチュアルなものは感じさせず、風通しが良いため日常的に聴いても重くならないというのもとてもいい。
自分は誰かのレコメンドから音楽を聴くことがほとんどなのですが、こういう音楽と出会うためにはストリーミングサービスを「流し聴きする」など、もっと軽やかに柔軟に使わないとなぁと感じます。

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