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『Tokyo発シガ行き➡︎』 (2018年12月号アーカイヴ/第2回)クリスマスは愛で出来ている"

本当は今回「西友のねじりパン」のことを書こうと思っていたのだが、挿絵を担当してくれている雑誌ライターの妹に「配布は12月なんやからやっぱりクリスマスちゃう?」と的確なアドバイスを頂きクリスマスのことを書くことにする。四季とか無関係に自分の世界観だけを掘り下げている小説家に比べてライターさんというのはいつも読者に寄り添っている。

(※アナログ形式で読みたい方のために一番下に原稿を画像として貼り付けてあります。解像度も十分あるかと思いますのでそちらが良い方はそれをプリントなさってくださいませ!)

さて。わたしは小さな頃、守山の西友の斜めまえにある「駅前コーポラス」に住んでいた。今でも帰省して西友の前を通ると、かつて住んでいた部屋を立ち止まって見つめてしまう。その頃わたしは2人姉妹で、その後妹が続々と増えて引っ越しをするのだが「駅前コーポラス」には小さなツリーが買ってあって、毎年季節が来ると、母とすぐ下の妹と、飾りつけするのが楽しみだった。今思えばそれは、もうすぐ無くなってしまう「守山銀座」で、おばあちゃんが働いていたおもちゃ屋さんで買ったものだったのかもしれない。
亡くなったおばあちゃんはとても料理の上手な人で、父と母は共働きだったので、クリスマスの日など特別な日はご馳走を作って、食卓を彩ってくれた。なのに「ケンタッキーが食べたい」などと言っておばあちゃんを不機嫌にさせていたなあ。

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わたしは早くから女優を志し演劇に目覚めていたので、小さな妹たちというのは、わたしにとっては前向きに「ごっこ遊び(わたし的には芝居 笑)」に参加してくれる強い味方だった。当時、子供の視点に立って一緒に遊んであげていいお姉ちゃんだね、とか言われていたけど、付き合わせていたのはわたしの方だったのかもしれない。わたしが18歳で上京した時、一番下の妹は8歳だったわけだから、まだ子供である。知人には“ベスフレ”でおなじみの我が姪っ子は現在4歳。新しい家に引っ越し末妹が生まれ、今のベスフレくらいの年になる頃には、我が家のパーティには演劇がつきものだった。

当時のわたしは、クリスマスの日は直帰、高校生とかに芽生える男女で過ごすクリスマス的なロマンの欠片もなく、自宅に埋蔵されてるサテン生地などを駆使して4人分の衣装を作り、各々に設定を作る。
皆はその設定で芝居仕立てにクリスマスを過ごす。
下の妹二人は子供なのではしゃいで乗り気になってくれるがすぐ下の妹は多感な思春期、しかし帰宅すると姉から否応なく渡される衣装、という状況で仕方なく参加する。けれども次第に楽しくなってきて、結局4人で盛り上がっているというのがクリスマスの図式だったように思う。
現在姉妹は皆東京にいるのであるが、わたし以外は家庭があるし、わたしは長く接客業もしているのでクリスマスは絶対出勤、みたいなところがあり4人でクリスマスを過ごすことは最近ではなかったのだが先日すぐ下の妹(めっくす)から「クリスマス会を催したいと思ってるんやけどみんなその辺どんな感じ〜?」「トマト鍋とかしてプレゼント交換的な」と姉妹のグループにLineが入ってきた。わたしは最初、どうしよう、と思った。いきなり読者をロマンから現実に引き戻して大変申し訳ないのだが、わたしは今、破壊的にお金がない。

東京で作家やってザギンで働いていたらさぞかし儲かっているでしょうと周りには思われがちなのだが、まず東京の家賃が死ぬほど高くて殺されそう、おまけに今はバイトをしつつ本当に書きたいものを少しずつ書き進めている暮らしで、出版をしてないから執筆での収入がない。そんなわけで30代前半は連載や刊行に加えてカードの使い込みもあり、笑、割と羽振りのいい暮らしをしていたわたしだが、ここ数年は大卒の初任給より低いくらいの月給で日々を回しており、なのに39歳的な最低限の社交もあって生活は苦しい。そこで「お金がないのまじで」と本音を言えるのはまず妹たちからか!? と考え、何と返信したものか迷っていた。
返信を最初に入れたのはこの挿絵を描いている妹、美粋だった。
「え〜素敵〜。☆の形の人参とかパプリカ入れよ〜」

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これを見た時にわたしの気持ちは180度転換した。彼女は東京で子供2人をワンオペ育児しながら、夢があって経済的には立ち行かない夫を支え、産後2か月で仕事復帰し家計を一人で担って寝る間もないほど忙しい、なのにこんなに素敵な返信をしてきている。姉妹のクリスマスのための時間を作ろうとしている。わたしの脳裏にはこの記事の前半に書き連ねた、これまでのクリスマスの景色が流れていった。そして思った、このクリスマスポテンを牽引してきたのってそもそも誰よ? わたしやん。そのわたしがクリスマスおそろかにしてたらあかんやろ、お金ないとか、しらけたこと言ってたらあかんやろ。
わたしはすぐにクリスマスのスタンプと「楽しみ☆」という言葉を返した。めっくすからは「あ! 前のめり物書きふたり♪」と返事が来た。

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何かを大きく間違えるところだった。大げさだけどもそう思った。間違えなくってよかった。そして思う。
わたしがかつて小さかった今は大人の妹たちの永遠の記憶のためにも、これからも常にクリスマスパーティは絶対よ!というスタンスで行こうと思ったように、きっと世のお母さんやお父さんたちも大変な背景を大変じゃない顔で何とかして、子供のためにツリーを買ったり、時間を作ったり、しているんだろう。これを読んでくれているあなたも、もしくはあなたのお父さんやお母さんも。あなたの彼や、彼女さんも。クリスマスは愛で出来ている。そんなみんなの温かいクリスマスに幸あれ。  (2018.12月号)

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<挿絵>  杉田美粋・すぎたみいき(モカコ妹)

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