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『Tokyo発シガ行き➡︎』 (2019年5月号アーカイヴ/第7回) 「がんこ社長」

(※まずは出力してアナログにお楽しみになりたい方の為に)

がんこA3-90パーセント

この冊子はA4にプリントされたものをペキペキ折って一箇所に切り目を入れるだけで冊子になるスグレモノです。笑。しかし!2021年現在の組版に慣れている方、この頃”がんこエッセイ”は黎明期。冊子字の大きさ小さくて読みにくい上に、縦書きなのに右側綴じです、すみません💦

   ✴︎ ✴︎ 以下、アーカイヴ ✴︎ ✴︎

実は肺炎になり4月の半ばからつい先日まで入院してた。GW前、つまりなんとか“レイワ”が明けるまでには退院できたのだが退院後バタバタし「がんこエッセイ」もこの様に遅れてしまった、申し訳ない。
肺炎て意外と大病で、退院後けっこうずっと息が苦しいんやけど、なんか「息」のリズムというのがきっとすごく大事で、それがうまくできない今、きっと少しでもしんどくないように体がそうするのやと思うけど、わたしは全く標準語で話せなくなってしまった。たぶん、標準語の息継ぎが、関西弁のそれとは違う場所にあって、普段は無意識にスイッチして喋れてるけど、今はしんどいから、体が自動的に「無意識レベルの無理」をカットしていくのやろう。このエッセイがそうであるように、標準語で話し始めてもいつの間にかこんな感じになって、こんな感じになったら最後、元に戻れへんの。そやから今回は、こんな感じのまま、エッセイというより、皆様にお便りみたいな感じで書かせてもらおうと思う。

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 まずは3月31日、平成最後の年度にも関わらず「Gifted」にお越しくださいました皆様、本当にありがとうございました。予約の段階で130人の枠が満席、当日は入れ替わり立ち替わり、なんと150人ほどのお客様に来ていただきました。ジャズライヴもあったので、近所の小児病棟から、入院中のお子様も来てくださり(ああ、そうよ、こういうために音楽ってあるのよね)と、一人感慨深かった。
図書館の三田村館長さんは、素晴らしい館長さんやねけど実務的なことがまるで苦手なお方で、受付はカオス、見に来てくれた高校時代の同級生に「うちの町内会よりグダグダやったで」と笑われる。受付の方々が悪かったんじゃなくて、全く何をしていいかトップダウンの指示がなかったんやと思う。わたしはそもそも館長さんのそういう気配を感じていたので、あらかじめじぶんの仲間に東京から来てもらい(裏方でなく大学の同期でカメラマンなんやけど、彼女はとにかくまあなんでもできる)スムーズなご案内をできるよう全てを段取って「場内」をやっていたんやけど、受付までは気が回らなかった。(そもそも市に依頼されて来ている演者―わたしーが受付にまで干渉するのお節介すぎるしな)

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<Photograph by MihoKingo>

そんなわけで受付からのご案内、もたついて皆さまにはご迷惑をおかけしました。お客様はわたしが想像していたよりも年齢層が高く、わたしみたいなやつが、このやうな人生の大先輩方を目の前に語るなぞ大変申し訳なすび……という感じで一瞬頭が白紙になったのですが、そこは開き直らせて頂き、偉そうにも約1時間いろんな話をさせてもらって、最後には弾き語りもさせてもらいました。この弾き語り、中高の同級生たちは「大丈夫かいな!」と、わたしより緊張し、手に汗握る感じやったみたいやけど、笑、意外と好評で、幾人かの方が「がんこ堂」さんが設置してくれたサインブースに立ち寄って「あれ見たらわたしもやりたいこと始めようと思ったで!」と声をかけてくださった。だいたい70代〜80代の方が多く、それだけ長く生きてきてなお「新しく始めたいことがある」だけで凄いなあって、わたしのほうがまたGifted,与えてもらう。

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   <Photograph by Gunji Daichi>

打ち上げは「うの家」で、そこは、みなさまご存知「元宇野総理」のご自宅を改造して食べもの屋にしたものなんだけど、市が買い取っていたなんて知らずに行ったからびっくりする。と、いうのもわたしにとってここは子供の頃仲良くしていたⓂ️ちゃんのお家。たまに一緒に遊ぶのに迎えに行ったりして、用意して出てくるⓂ︎ちゃんを入り口で待っていた。その土間の部分とか、つまり当時至極パーソナルだった空間があのようにパブリックなものになっている感じがこう、人の家の風呂で宴を開いている気になって最初は落ち着かなかった。そうそう、ほんでここで、わたしがしたいのは我らが「がんこ堂」のまさに「ガンコモノ」笑、田中社長の話。

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 田中社長とは、今年の頭に、わたしをずっと応援してくださっている田中社長の右腕の大栢さんに「新しくなった図書館に行きませんか」とお誘い頂き、café_gankodoでお茶を飲んだ際に初めてお会いした。
 社長は去年わたしが連載していた神楽坂のタウン誌「かぐらむら」の長谷川時雨の評伝を読んで「なんか小難しい神経質なやつやったらどうしよう」と思っていたらしい。笑。

でもまあ「Gifted」にきてくださった方はわかると思うけど、わたしこんな感じやから、お会いしてたいして時間も経たんうちに「なんやモカちゃん、めっちゃPOPなやつやん〜〜」「ほんで絶対めっちゃええやつやん〜〜」てなって「よっしゃもう、ワシめっちゃモカちゃんのこと応援する!」ってなった。もともと大栢さんを通し、多大に応援してもらっていたのが、社長の花丸というか「がんこ判」を押してもらって、以降さらに応援して頂き、がんこ堂さんを通して先の図書館の話も頂いた。

 田中社長がどんな人か、ひとことで言うと、もう、さすが近江商人て感じの「三方よし」な人で(三方よしとは近江商人の哲学を表す言葉で、売り手よし買い手よし世間よしを指し、自分の利益だけを中心に考える商いは最終的には小ぶりで終わることを意味している)、彼の言い方を真似たら「もう、めっッちゃ! ええやつやねんけど」なんせ口が悪い。笑。そういう意味じゃないのに使う言葉を間違って誤解されたりしてる人っているやん。わたしが守山卑弥呼になりたい話をしたら「モカちゃんは俺からしたら可愛いらしいけど、もりやま卑弥呼はさすがに(歳が)行き過ぎちゃうか」とか言う。笑。あと、うちのパパちゃんもそう言うところがあるんやけど、全然どうでもよくないことを「んなんどうでもええねん」てすぐ言う。打ち上げの時に、わたしはようわかるんやけど、社長はわたしを好いてくれてはって、応援してくれてはって、もっとモカちゃんの本が売れたらいいのに! ってすっごい思ってはって、実は自分とこの売り上げとかどうでもいいと思ってはるのに、頑張って売ってやりたいんや! という気持ちが前つんのめりすぎて

「“がんこエッセイ”なんか正直ワシどうでもええねんしょーもない。それよりええ本書いてくれ、これやったら絶対売れる! ワシが応援したなる、ってような本を!」

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って、日本酒で顔を真っ赤にして叫んでて、大栢さんが「あんたなに失礼なこと言ってんの」って怒ってはったけど、社長の「売れるもんを書けい、売れるもんをぉうぉウ」みたいなのは止まらんくて、そしたらそれを隣で聞いていた、前述のカメラマンの友人が「売れるとかは結果論でしかないのに売れる本を書いたら応援するとかっていうのはそんなの応援じゃないし、わたしたちも当然作ったものが売れたらそれが一番いいなといつだって! 思っているけど、売れるためにものを作ることは芸術家にはできない、でも彼女はそのせめぎ合いの中でもちゃんとそれを生業にし、迎合せず魂を売らずに作品を作ってるんです!」って言い返して、ほな社長も「それはもうめっっちゃ!わかってんやけど、こっちは本屋やから売りたくても本がおもろないと売れ・・・」って言ってる間に大栢さんが「ちょっとアンタもう黙り」って社長を殴って話は終わった。笑。みんなはこんながんこ社長のことどう思いますか? わたしは大好き。みんなもこれ読んだら好きになるんちゃうかなと思って書いてみてる。この人がここの社長さんなんやで。人間らしいよな。まさに「がんこ社長」まさに「がんこ堂」信じられないくらい秀逸なネーミング。

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(田中社長と大栢さん)

 後日大栢さんから「うちの酔っ払いがすみませんでした」とlineが来たけどわたしはてっきりそれを三田村館長のことやと思って話進めてたらそれは田中社長のことやった。どうも大反省して禁酒をしておられるらしい。笑。全然反省するようなことなんか、なかったけどなぁ。そして「うの家」の打ち上げでしか知らんけど館長さんと社長は酔っ払い方が似てる。もし酔っ払って田中社長と館長さんが二人話し込んだり揉めたりしても、多分あくる日二人とも何も覚えていない。ブラックホール。館長さんはとても可愛くて、そしてちょっと(いやだいぶ)抜けている。けれどもあの図書館にスタジオと、プロの音楽家たちがびっくりするような機材の数々を揃えた。たくさんの人に反対されたみたいだけど、この町から出る未来の音楽家たちのために館長さんはそれを貫いた。そういうがんこさも似ているね。がんこ社長とがんこ館長。

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「付き合ってるんですか」冗談で聞いたら「うわうわうわ、もうこんなやつとなんで俺がやねん!」こういう男子のリアクションよく見たわ小学校の時。笑。それってまあまあ好きってことやんな、多分。

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(こちら写真右が館長さん)

        ✴︎ ✴︎ 以上、アーカイヴ ✴︎ ✴︎

なんか、雑記みたいなアーカイヴでしたけど・・・。 

なかじま・もかこ/ 守山市出身。1979年生まれ。附属中学→石山高校。2009年「蝶番」にて新潮社よりデビュー。 〈 挿絵・杉田美粋(妹)〉

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