がんこ2019

『Tokyo発シガ行き➡︎』 (2019年1月号アーカイヴ/第3回) "謹賀新年"

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(※アナログ形式で読みたい方のために⤴︎ 原稿を画像として貼り付けてあります。解像度も十分あるかと思いますのでそちらが良い方はこちらをプリントなさってくださいませ!)

       ✴︎ ✴︎  以下アーカイヴ  ✴︎ ✴︎

2019年になりました。明けましておめでとうございます。
今回で第3回の「Toyko発、シガ行➡︎」です。東京で暮らしていると、決まって、実家の“お雑煮”はどんな味なのかという話になります。特に東京の人は「白みそのお雑煮」が珍しいみたいでどんな見た目でどんな感じの味なのか興味津々で訊いてくれますが、皆さんのお家はどうですか。ちなみに我が家は昆布と鰹で取った出汁がベースの透き通った感じのお雑煮で白みそではないのですが、守山市小浜町にある母の が白みそなので、毎年二種類のお雑煮を食べています。白みそにも違いがあると思うけれど母の実家は、こいも、大根、もち、を白みそで煮るので、ほぼほぼ真っ白(笑)雪みたいなお雑煮。

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実は元旦、小浜町のその家に親戚みんなが集まって宴をした。もともと江戸時代末期に作られたこの家は、仏間とその隣の部屋が、襖を外せば繋がるようになっていて、子供の頃はよくそこで法事が行われてその後の「なおらい」的な宴会をしていたものだが、段々とそのような行事も減っていき、大人になってからはわたしと3人の妹、父母が元旦に挨拶に行き、同じ敷地に住んでいる従姉妹一家とおじいちゃんとおばあちゃんとすき焼きをする、というシンプルなもの、居間で事足りていたのだが、去年末妹も結婚、わたし以外の妹はみんな苗字が変わってしまった(笑)。同時期にこの挿絵を描いてくれている妹(3番目)の二人目の出産などもあったので、元旦の宴には妹3人の旦那Guys&甥姪も参加すると考えると総勢十数人になるぞということで十数年ぶりに仏間の部屋での「すき焼き大宴会」をすることにしたのである。
大宴会であるから準備も大変、我々4人姉妹は年末までは東京にいるから、買い出しは叔母と母にお願いし、宴会準備部隊は、長女(私)と次女&次女旦那。そして後片付けは下の妹2人という役割分担。そんな中、大人数で宴会とかが苦手な我が父が、乾杯だけしたら帰る、しかも「相棒」が始まる前に勝部に送り届けてくれ、とかいう絶対的主張をし(!)さあ今からすき焼きを始めるという最高に慌ただしい時間帯に、3女(美粋)が送迎のために場を離れることに。鍋は3つあって、4歳の姪がいて、0歳がいて90歳のおばあちゃんがいるのに、気が利いてほがらか、動きも早く料理も上手で、かつ子供達の母という大いなる戦力が「父」という家族ヒエラルキーの皇帝によって奪われてしまった。笑。ゆえに、「ジュース頂戴 by 姪」「おばあちゃんに誰かお肉入れてあげて!」「たまごたまご」「たまごそこに全部あるから男子誰か割って配って!」「こんにゃくがない」「こんにゃくは台所にあるねん」「三つ葉がないとすき焼きじゃないんじゃない」「そう思った人が鍋に入れて」「肉」「あるある」「ジュースもうないんだけど By姪」「肉」「あるある!どんどん焼いて」「あ、でも美粋の分残しといてな」「ジュース」「てかさパパめっちゃわがままじゃない!?」「まあまあ怒らんと」「でもさ!」「肉!」「今解凍してる!」
軽くカオスになった。笑。

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仏間には、ほんの数年前まではこの場に座っていたこの家の主のおじいちゃんの遺影があって、騒ぎながらすき焼きをつつく我々を目を細めて見つめていた。生まれたばかりの甥はなぜか末妹の生まれた頃に見た目がそっくり、まるでタイムスリップしたかのよう。甥が末妹ならば、ここに座っているわたしはまだ小学生で、立ち上がって台所に行けば、慌ただしく野菜を切ったり酒をつけている祖母や母の若い後ろ姿に出会うだろう。時は流れ、今はわたしたちが台所に立ってこの仏間に食材を運んだり酒を運んだりしている。ここにいる男たちはいとこを覗いてみな他人だけれど、ここの家族であろうと、笑顔でこの場に居てくれる。それは妹たちが各々旦那にとても愛されているということなのだと思う。

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演劇学科に入学して最初に渡された戯曲は「ロングクリスマスディナー」という外国の戯曲で、舞台にはディナーテーブルが据え置き、場面はいつでもクリスマスで、会話はたわいもなく、登場人物はどんどん年を取り新しい命が生まれ、老いた人はある時から食卓にいなくなる、そういう走馬灯のような戯曲だった。18歳の私は当時、何てつまらない、何が言いたいのかもわからない戯曲だ! と思っていた。今でも18歳が興味を持てる戯曲じゃないし教材としてはどうかと思うけれど、今はその戯曲を書いた人の気持ちが手に取るようにわかる。
そう、時は本当にあっという間に過ぎていくの。それ。
この元旦の「ロングすき焼き大宴会」だって、次第に顔ぶれが変わり、子供は大人になり、去年までそこに座っていた人がそこにはいなくなる。わたしもいつか遺影となって「あ、もうそこのお肉焼けてるよう」と思いながら、騒がしい宴会を見つめるのかもしれない。そんな時大人になった姪が白菜を切ったり、こんにゃくを洗ったり、するのだろう。
仏さんがいる仏間で宴をするということを、小さい頃なんか変だと思っていた。多分「あの世」と関係があるものの前で食べたり飲んだり「生きている」ことをするギャップへの違和感だったのだと思う。けれど昨日、だから仏間でやるのだと思った。かつて宴の席に座ったり、宴を準備してきた全ての親族が、いつでもひょいとこの宴に戻ってこられるように。

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              <2019年1月号>  挿絵/ 杉田美粋(妹) 

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