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中田裕二の「ゼロ」に焦点を合わせてみる

中田裕二の「ゼロ」という楽曲を聴いて、インスパイア先の松本清張の「ゼロの焦点」を読んでみたくなった。


時代背景も文体も古いので松本清張作品を敬遠していたのだけど、一度読み始めたら気にならなくなるくらい読みやすかった。
ミステリーなので殺人事件は起こるものの、この物語の哀愁がそうさせるのか、終始淡々とした印象で物語は進んでいく。
なのに続きが気になって仕方がないのだ。

読み終わった今となっては、「ゼロ」が中田裕二のフィルターを通した歌詞と、終始淡々としたメロディーラインと時よりみせる吐き出すようなボーカルの組み合わせが大変優れた作品だと思った。

※この記事は「ゼロの焦点」の直接的なネタバレは含みませんが、間接的な表現をしているので、クリーンな気持ちで読みたい人はここで読むのをやめてください。



物語中には登場しないキーワードがどれも的確で4分58秒の世界に496ページの「ゼロの焦点」が凝縮されている。
なので少し歌詞を引用してみたいと思う。

戦後の混乱期に選ばざるを得なかった選択が、ずっと心の中に引っ掛かり、偶然過去を知る者同士再会してしまったことで運命の歯車が狂っていく。

現代の貞操感覚とは違うので、当時の人々の苦しみは想像に難くない。
実際主人公である禎子は夫を失うこととなった犯人に同情している。

まさに

闇を彷徨う 赤い魂たちが
そのときだけ 交わったせいで

起こってしまった事件なのだ。

空から吹きつける 凍えた風が
白浪を立てて 孤独に砕けた

という歌詞は北陸の冬の寂しい風景と物語の哀愁をを情緒的に描いている。

遠く浮かぶ船は すべて道連れに
彼岸の元へと 流されてしまう

物語の終わりが切ないボーカルと共に情景が浮かぶようである。

「ゼロ」と「ゼロの焦点」どちらかしか触れてこなかった人にはぜひ両方の世界に飛び込んでみて欲しい。
丁度冷え込んできた今日この頃、切なさの白波にあなたを突き落としてくれるだろう。

(ちなみに2009年のリメイク版の映画は原作及び「ゼロ」とは雰囲気が違うものである)


「ゼロ」を含む中田裕二の最新アルバムの個人的レビューはこちら


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