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アルバム『PORTAS』レビュー その門を潜って

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初めに

2020年11月17日追記
CDが届いたので、歌詞カードを元に歌詞を正しく引用し直しました。

このnoteは中田裕二の10枚目のアルバムである『PORTAS』を主に歌詞を中心に勝手にレビュー及び解釈をしています。
音楽配信サイトの先行配信を元にレビューを書いており、CD発売日前につき、引用している歌詞は正確なものではありません。
解釈は全て個人の主観です。



1. プネウマ

プネウマという印象的なタイトル、意味を調べて見ると、

ギリシャ哲学で、人間の生命の原理。一切の存在の原理。
デジタル大辞泉より引用

とある。

こう見ると何か壮大なテーマだと思ってしまうが、私は「プネウマ=日常」だと捉えた。
2020年このコロナ禍によって失われた今までの日常、
好きなところに自由に行き来きできた日常が失われて、エンターテイメントを享受するには色々制約ができた。
今までのエンターテイメントは密だらけだ。

いつかやがては  気付かれてしまうでしょう
わたしのありがたい姿にみんな
そして今更たくさん恋しがれよ
わたしのありがたい姿にみんな

この切実な歌詞が中田裕二の切ないボーカルにメロディアスに乗せられる。

どこまでも続いていきそうなシンプルな曲がスッと切れて終わるところが、いつのまにか変わってしまった日常を表していると感じた。
このアルバムの大きなテーマになっていると思う。


2. BACK TO MYSELF

ポップな曲に現代の皮肉が乗っている曲。
リアルで繋がれなくなった孤独をオンラインで埋めようとする事への危機感を歌っている。

ありもしないことを さもありげに話す
らしいよ これ知らないの
我に帰りなさい 孤独とは自由だよ
構わず君とただ語れ

オンラインなら簡単に繋がれる現代人は、孤独に慣れていない。
でも孤独とは自由でクリエティブな時間だ。
気軽に人に会いづらい今こそ自分と見つめ合う時間なのだ。


3. ゼロ

松本清張の長編推理小説、ゼロの焦点を読んでインスパイアされた楽曲。
サスペンスドラマの崖のシーンからエンディングに向けて流して欲しい。
80年代歌謡曲のドラマテックさとシティポップのスタイリッシュさを感じる。
私個人のイメージとしては中森明菜の北ウイングを山下達郎が編曲した感じ。
個人的に一番好き。


4. おさな心

穏やかな情景が浮かぶようなカントリーソング。
ただ最後の歌詞に含みがあるので、童謡のシャボン玉のような儚い鎮魂歌のようにも聴こえる。
それが夢なのか魂なのか私には分からないけども。


5. あげくの果て

1番が厳かなピアノ伴奏による静かに噛み締める悲しみで、
2番のバンドサウンドが悲しみの渦中から少しづつ歩き出したよう。

本当の事を知ったとして
それが誰を救っただろう  謎は解けたのに
僕はわからない

からCメロの対極のワードを切々と歌い上げたのち、

本当の事は知ることができない
不毛とも言えない  まだ続く旅路
僕はそれでいい

白黒のコントラストからグレーに納める決意みたいなものを感じる。
はっきり答えを出していれば、上手く行かなかった時に終わりにすることができる。
なんらかの答えを出さず進み続ける事は終わりが見えない旅路が続いていく事である。

このアルバムにおけるA面の〆の曲のように思える。

6. 夢の街

脈打つようなドラミングと流れるようなストリングスで新たな生命の始まりを感じる曲。
美しい外国の景色が想像されるAメロからサビに入るとそれは中田裕二の考える理想郷の曲だったということが明かされる。
造像主的な視点で今の人間の嘆きと新たな人間の望みを静かに歌っている。

何もたくらまない
何もこだわらない

まさに夢の街なのだ。
分かったような顔をして書いているレビューである。

7. Predawn

夜が未練を残す様な
早まった時間に目覚めた

はまるでカップルの日常の情景のように感じるが、
実はコロナ禍で右往左往している中、今やれることを考えた中田裕二そのものの目覚めの姿なのではないだろうか。

世界が静けさで  包まれる今だけ
思い付く言葉があるんだ
君が寝ている間に書き残そう

コロナ禍においてたくさん楽曲を制作した中田裕二。
実はこのアルバムそのものの制作話なのかもしれない。

8. DAY BY DAY

オーセンティックなロックに親しみやすいメロディー。
このアルバムの楽曲の中では一番抽象度が低く日常に近い曲。
何かと風刺的なこのアルバムの

何その癒し系

である。

9. ふさわしい言葉

和製R&Bに切実な自身の葛藤を乗せた楽曲。
産みの苦しみから産まれたDOUBLE STANDARDというアルバムを共にツアーを回れなかったことは悔しいという言葉では表せなかったと思う。
それでも留まる事はアーティストしての歩みを止めてしまうことになる。
音楽はアーティストに絶望も希望も与えてくる。

それ故に君が必要なのさ

の「君」は「音楽」の事であると私は解釈している。

10. 君が為に (album version)

パーソナルな事をドラマチックに描いた椿屋四重奏から、
2011年の「ひかりのまち」から人に寄り添い、励ます曲を聴かせてくれるようになったソロ活動、
そして2020年の誰しもが予想が付かなかったこの渦中で産まれた楽曲である。

どうか君の為に 明日を恐れずにいてよ
誰も責めない君の事を 僕が受け止めるから

中田裕二の楽曲は全体的に歌詞の抽象表現や比喩表現が多いと感じる中、人に寄り添う曲は易しく、優しく伝わりやすい言葉を用いているような印象を受ける。

このアルバムの世界、ひいては今の自分を受容する懐の深い楽曲。


終わりに

アルバム『PORTAS』はこの2020年を象徴するようなアルバムになったと思います。
この渦中の中、リモートでの楽曲制作を逆手にとってシンプルなアレンジになりました。
それにより、良質でシンプルなサウンドに伸びの良いボーカルが乗った、素材が良いから塩胡椒で美味しいコース料理のような音楽を楽しめます。
しかし一度噛みしめればこの渦中が故の苦悩や葛藤が垣間見れるアルバムだと感じました。

私はこの楽曲達を、満員のホールでスポットを浴びながら朗々と歌う中田裕二の姿を夢見ています。

アーティストにとって苦難の2020年を素敵なアルバムにしてくれた中田裕二を私は応援しています。


前作DOBULE STARTED の勝手にアルバムレビューはこちら



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