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~閉塞感に侵食される~映画「バーニング 納屋を焼く」

村上春樹の『納屋を焼く』を原作に、現在の韓国を舞台にした今作。二人の男と一人の女の出会いによって、現代社会が抱える闇が浮き彫りになっていく。

主な登場人物は3人。主人公のイ・ジョンス(ユ・アイン)は大学の文芸創作学科を卒業し、兵役も終えて、運送業のアルバイトをしながら小説家を目指している。現在は事情があり実家で一人暮らしをしている。実家があるのは北朝鮮にほど近い郊外の村。

2人目はジョンスがバイトの最中に出会ったヘミ。ダンスが好きで、コンパニオンのアルバイトでも踊っている。定職につく気はなく、自由奔放な暮らしをしている。言動も不思議ちゃん気味でおそらく女友達が少ないタイプ(…だと思われる。偏見に満ち満ちた目線です…)。ヘミは整形をして顔を変えていたためジョンスはすぐには気が付かなかったが、再開した二人は意気投合し恋人のような関係になる。要は体の関係を持つのですね。

そして、3人目のベン。ヘミの夢であったアフリカ旅行から空港に戻ってきた際に一緒に帰国した男性。ナイロビの空港がテロリストに襲われ三日間、監禁状態だった時にヘミと知り合う。爽やかな見た目で「超」がつくほどのお金持ち。村上春樹の言うところの『まるでギャッツビー』のような青年で仕事は何をやっているか不明。いつもどこかに電話をかけている。

この3人の出会いから事態が動いていく。ヘミはベンと会う際にジョンスを呼び出し、ジョンスの前でもベンと恋人のようにイチャつく。『おいおい、ヘミさんよー、女友だちがいないのは、そういうところやで!(決めつけ!)』と思わんでもないが、ベンはそういったヘミの行動を妹を見るような感じで受け入れている様子。このあたりから違和感が引き立ってくる。

ある日、ヘミとベンがジョンスの住む村に突然やってくる。その時にジョンスはベンからとある趣味について聞かされるのです。それがタイトルにもなっている『バーニング 納屋を焼く』なのです。ベンは「ビニールハウスを焼くことが趣味」だと言い出し、焼いている時だけが生きている感覚がすると……。

ここから数日後、ヘミからジョンスにおかしな電話がかかってきた後、ヘミの消息がわからなくなるのです。心配になったジョンスはヘミが最後に一緒にいたと思われるベンに問うたところ「ヘミは煙のように消えてしまったね…」と言うのです。まぁ……犯人の想像はつきますよね? そこからジョンスはヘミを探すためベンを尾行し始めるのです。

ベンを尾行すればするほど、自分の境遇とのあまりの差に愕然としていく。ただ、生まれが違うだけでここまで生活に差が出るのか…。そのあたりが淡々でありながら執拗に描かれていていきます。

ベンは生まれながらのお金持ちで顔もよく、人当たりもいい。おそらく頭もよくてソツがなく、なんでも簡単にこなしてしまうのだろう。しかし、生きている実感がなく、何をしても楽しめない。それゆえに強行に手を染めたのだと思われる…(ここは想像です)。

貧困層と富裕層…。なんだかどっちに行っても幸せではなく地獄な感じがして、まさに八方塞がり。心の大切な部分をじわじわと侵食されている感じで、生きていく上でのやる気を吸い取れるような映画であった。現在の韓国(もちろん日本も含めた世界中)もこのような閉塞感が広がっているんだろうなぁ。だから見ているだけでエネルギーを奪わる感じがしたのだろう。

#映画 #感想 #コラム #納屋を焼く #村上春樹 #ユアイン #007


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