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映画「ライ麦畑の反逆児~ひとりぼっちのサリンジャー~」

『ライ麦畑でつかまえて』の作者J.D.サリンジャーの自伝作品。『ライ麦畑でつかまえて』は読んだことがある。なんならサリンジャーの他の著書、『フラニーとズーイ』『ナイン・ストーリーズ』も読んだことがある。自分で本屋さんで買って読み、随分長い間、自室の本棚に鎮座していたことも覚えている。
な・の・に、ライ麦畑はもちろん他の著書も含めて、内容がまったく思い出せない…。名作だからと思って買い、意味がわからなくて最後まで読み通せなかったとみた。読んだ気になっていただけという悲しい現実が今、判明致しました。

では、気を取り直して(何の?)物語は1939年の華やかなニューヨークから始まります。20歳のサリンジャー。

このサリンジャーを演じている人、どっかで見たような?と思っていたのですが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で妻の一人と恋に落ちるウォーボーイズの子ではないか?と気づいた時、一瞬テンションが上りました。お名前はニコラス・ホルトさんです。お得意の話が脱線。本筋に戻ります。

20歳のサリンジャーは、作家を志して大学に通っていたが、反抗的な態度からいくつかの大学を退学となり怠惰な生活を送っていた。実家はベーコン産業で財を成した資産家。家業を継ぐのか? それとも作家になるのか? 選択を迫られていた。作家業が諦めきれなかったサリンジャーはコロンビア大学に入学し、そこで、教鞭をとっていた編集者でもあるウィット・バーネットのアドバイスのもと短編を書き始めるのです。

サリンジャーはお金持ちの子息で、年頃の青年らしく恋も謳歌していた。お相手は劇作家ユージン・オニールの娘ウーナ。親は超有名人、自身は自他共に認める美少女。向かうところ敵なしってやつですね。そんなウーナの小悪魔ぶりにサリンジャーはまんまと振り回されるのです。

その振り回されぶりも小説に生かすサリンジャー。しかし、小説は書いても書いてもボツを食らう日々。編集者のウィットからは「掲載されなくても、お金がなくても、名声がなくても書き続けられるのか?」と小説家としての覚悟を突きつけられる。

そんな時、第二次大戦が勃発する。入隊したサリンジャーは戦争の最前線に送られ、飢えや寒さ・自身の大怪我・仲間の死といった壮絶な体験をすることになる。戦争中も執筆を続け、終戦後、トラウマに苦しみながらも完成させた初長編小説『ライ麦畑でつかまえて』は発売と同時にベストセラーとなる。サリンジャーは天才作家として名を馳せることになった。

しかし、戦争で負った心の傷跡が瘉えることはなく、さらに名声を得たことによる次回作への大きなプレッシャーや熱狂的なファンに悩まされることになる。追い込まれたサリンジャーが出会ったのが『瞑想』であった。瞑想のおかげで執筆活動を再開したサリンジャーは結婚をし、二人の子供にも恵まれる。

サリンジャーが過酷な戦争を生き延びられたのは「自分の中に物語」があったからで、戦争後のトラウマも「書く」ことで正気を保ち、生きることができたのだろう。(帰還兵が精神を患い自殺に至る――ということは社会的にも大きな問題になっている)

「職業」として小説家を続けていくためには、「編集者」や「読者」といった「世間」と対峙し続けるということでもある。しかし、サリンジャーはただ純粋に「書く」ことに没頭し始める。そうなると、小説家でいる自分を含めた世間、すべてのことが煩わしくなってしまうのであった。

小説家とはなんと業の深い職業であろうか……。書くことに純粋さを突き詰めれば突き詰めるほど、日常生活や一般的な範囲からは逸脱してしまう。そんなサリンジャーはすべての出版を断り、表舞台から姿を消したのであった。映画のラストに2010年に91歳で亡くなった――とあり、最近までご存命だったことに正直驚いた。

映画の中でも熱狂的なファンが、ライ麦畑の主人公を「これは自分だ!自分のことが書かれている!!」というシーンがある。ここまでの妄信的な読者は迷惑だけど、物語の世界に心を救われた人は大勢いるだろう。もちろん私自身もたくさんの作品に助けられてきた。

一方で書き手はどうなのだろうか?「ギブ・アンド・テイク」という考えがあるように、熱狂的に求められて世間から「搾取」とも取れるような状態になっていかないのだろうか? 世間から姿を消したサリンジャーはもちろん、現在世間を騒がせている国民的アイドルグループ休止についても「A」のリーダーはそのあたりに疲れてしまったんじゃないのかなぁと思ったりした次第です。

あらら?サリンジャーの話から、なぜかアイドルグループ休止の話にたどり着いてしまったわ…。

まずはこれを契機に『ライ麦畑でつかまえて』を再読(正しくは初読か!?)してみます。

#映画 #感想 #コラム #ライ麦畑の反逆児  ひとりぼっちのサリンジャー  #004 #0127

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