疑いは塔にて No.2

 その時、天井から紙が一枚降ってきた。
「なんだ、これ。」 
手に取ってみると、本の表紙に書いてありそうなオシャレな字体で、文が書いてあった。
 
 当ホテルのご案内
 皆さまにご宿泊頂く東京ツキミヤホテルでは、最大限のおもてなしを心がけております。
 そのため、一生をここで過ごすことができます。しかし、その一生の期限も、こちらで決めさせて頂くことになります。それは、この塔が崩れるまで。詳しくお伝えすることはできませんが、期限がくるまでは、この場所で幸福に暮らすことができます。
 しかし、万が一外に出たいという場合は、誰かを殺すしかありません。誰かを殺せば、塔にあるエレベーターを利用できます。
 また、今みなさんのいる場所は五十五階なので、飛び降りることは出来ませんし、もしも外壁を伝って降りようとしても、センサーにより外壁から塔が崩されます。
 つまり、塔から出るにはエレベーターしかない。もちろん、出ないで頂くのがベストですが。下手に動くと、周りの方々の命にも関わるということを忘れないでくださいね。
 
 「なんだこれ…バカげてるだろ。」
俺は思わず呟いた。いつのまにか後ろにいた橋本さんが、
「これをみんなに伝えるべきだとは思わないわよね?」
と言った。
「それはそうです…皆さんには、外に出たら危険ということだけ伝えることにしませんか」
「残念ながらそれは無理だ」
突然の声に驚き、俺は振り返った。そこに居たのは、安本さんだった。先ほどと同じ明るい声だったが、その奥にはなんだか暗いものがあった。
「僕は、そういう訳には行かないと思うよ。だってさ、君たちのどちらかが裏切る可能性がないとは言えないじゃないか。それに、その手紙にはなんだか裏があると思うんだよね。その抜け道を、みんなで探した方がよくないかい?」
俺は、久しぶりの「疑われる」という感覚に狼狽えた。安本さんの言い分は正しいが、どうしてもこの事実をみんなに伝えることはできない。
「それに、もう遅いですよ?」またまた突然現れたのは、未来さんだった。咄嗟に周りを見る。周りの皆は、揃って僕の手元を見ていた。もう遅かった。僕の手元の手紙を見ていた…
 それからは、とにかく皆で手紙をじっと見ていた。
「誰かを殺したら脱出できるっておかしくない?…やろか」
山寺さんの言うことに賛成だった。一体どうしたら、誰かを殺したなんて判別できるだろうか。そもそも誰が?俺たちをこんな目に遭わせる張本人は、この中にいるのか、それとも、どこか別の所に…?
「私、見たことあるよ…友達がこういうゲーム好きでね、そのゲームの中だと、オシオキ、とか、処刑、って言うのがあるの。それでね、悪い人達に皆殺されちゃうの…」
幼い少女の言葉に、俺たちは震えた。そうだ。人を殺しても、何も起こらないのたろうか??そもそも、そんなことが本当に起こるのだろうか?
「そうですね。日本のゲームでは、仲間でも平気で殺し、平気で裁くものが多いです。私の国のゲームは、悪党を残酷に蹴散らすものばかりですから…」
スミスさんの発言を聞いて、俺は改めて気がついた。この状況では、人の命がまるでゲームのように扱われていることに。一体、誰が…
「おい!アンタのそのロボットになんか調べさせられないの?」
「シュワシュワは本来インターネットを通じて色々な情報を手に入れられるが…君たちの携帯も繋がらなかっただろう?」
霧崎さんと佐藤さんが言い合っている。どうやら、ネットは繋がらないようだ。しかし、皆は携帯を没収されて居ないのだろうか?俺のものは見つからなかった。
 そのとき、低い声が響いた。
「この手紙にある、エレベーターとはなんのことでしょうか?」
バイオリンをチューニングしながら、冷静に今田さんが言う。俺は答えた。
「誰か見つけた人がいるんじゃないですか?」
「…私、知ってるかも」
か細い声で、高木さん…(小学生だから、高木ちゃんの方がいいだろうか)が言った。
 そのあと、高木ちゃんに続いて俺たちは廊下の奥まで来た。
「多分…ここ」
廊下の奥はくらいので気が付かなかったが、そこには鉄の扉があった。安本さんがドアを開けようとして、
 
「…固い。やっぱり開かないようになってるみたいだね」
と言った。そのとき、天井からまた紙が落ちてきた。
 
 エレベーターについて
 エレベーターにたどり着いたようですね。しかし、まだそれより先に解決すべきことがあるのではないですか?それを解くことで、エレベーターの謎は明かされるでしょう。
 
 「まだ解いてない謎?一体どれのことなんですかね」
俺は皆に問いかけた。皆の反応はイマイチだった。
「まだ何も解けてないと思う…ねんけど」
山寺さんは言った。すると、
「今ある謎をまとめてみない?
 まず、一つ目は一体誰がここに皆を連れてきたのかということね。そして、その理由や手段も。
 次に、誰かを殺したら脱出できるという矛盾。私たちを連れ去った犯人が見張っているのかも」
と橋本さんが話しだした。
「見張ってるってことは、アタクシ達の誰かなんじゃない?」
霧崎さんが口を挟む。
「むしろ、それが一番あり得ると思うわね。だって、他に人がいそうな痕跡はないし」
それから、未来さんも続ける。
「では、あの手紙は何なんでしょうか?」
「それも犯人が用意したものでしょう。仕組みは分からないけどね。
 それから、三つ目はこの塔について。外が見えないから、様子は分からないけど、手紙には塔と書いてあったわ。この塔はいつか期限が来ると崩れるらしいわね。それか、誰かが外に行こうとした時も…でも、窓もないのにどうやって」
俺は、思わず口を挟んだ。
「窓?みなさんの部屋には、窓がないんですか?」
「あら?私が智也くんを着替えさせた時にはなかったと思うけど」
俺は赤面した。しかし、冷静になろうとして言った。
「それでは、僕の部屋に行って確認しませんか?外の様子とか…何か手がかりがあるかもしれませんし」
 みんなで窓を確認したが、特にそれらしい手がかりが見つからなかった。そこで、俺は単なる疑問として聞いた。
「あの…橋本さんはどうしてわざわざ俺を着替えさせたんですか?」
「え!?何だかアブなそうな言葉が聞こえたんだけど?」
未来さんに口を挟まれた。
 はっきりいってうざい。確かに、俺もそういうことを考えなかったことは無いが、今は謎を一刻も早く解決することに専念しなくてはならないのに。
 話題は、すっかりその方向に持っていかれてしまった。
 しかし、俺は不思議だった。当の橋本さんが何も話さないのだ。それどころが、驚いたような、不安げな表情を浮かべている。まるで、俺の行動が不可解であるとでも言うように。
 ああ、一体なんなんだ?
 「もうここは何もなさそうだから、一旦戻ろう」

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もちりんご

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