2018年ベスト

こないだ2018年になったと思いきや、もう2019年。年齢を重ねるごとに月日の経過が早く感じられるようになるというのは本当で「あれ、俺今年なにやったっけ?」と考える間もなく、いつの間にか年明けという感覚ですね(まぁ、いろいろあったはあったんだけど)。
2017年は個人的に転職による環境の変化等いろいろあり、そちらに目を向けなければならなかったのでベストアルバムがどうの…というのはやめておいたのだけど、2018年はまた少し音源探しの回遊に戻れたので、特によかったものをピックアップしつつ、2019年もいろいろ聴きましょう、という自分へのハッパにしたいと思います。

1. A PERFECT CIRCLE『EAT THE ELEPHANT』

2018年の文句なし1番はこちら。いよいよ本家TOOLが動くか?というじらし芸による期待が高まる中、唐突にリリースされたA PERFECT CIRCLEの14年ぶりのアルバム。全世界が「そっちかい!」と思ったのは間違いないものの、これが黙るほかない傑作でした。
プログレなりオルタナなりを咀嚼した方向性そのものはこれまでと同じではあるけど、より静かで、よりミステリアスで、よりムード重視。聴けば聴くほど理解が深まるし体に染み込むんだけど、どこまでいっても捉えきれないというか、本質に辿りつけないという、オタクリスナーを引っ張り込みまくる厄介なアルバムですね。やっぱビリー・ハワデル(g,vo)さん天才ですわ…とため息をついていたらもう1回頭から再生してたり。2019年こそ出るはずというTOOLのアルバムへのハードルを自ら爆上げしてしまったメイナード・ジェームズ・キーナンの明日はどちらか?
ちなみに先日スマパンでもアルバムを出したジェームズ・イハ(g)はたまたま写真には写っちゃったけど、制作には特に関与してないそうです。

2. flica『Sub:Side』

マレーシアのポストクラシカル/エレクトロニカ・アーティストの5作目。2年くらい前に2枚目の『Nocturnal』を初めて聴いてから、もう大ファンですね(来日を見逃していたと知ったときはのちうち回った)。
もともと電子音やピアノを丁寧に折り重ねた、感傷的で奥ゆかしい作風の人ではあるけど、今回はアナログ感というか、生っぽさが強調されている印象。ピアノの音割れとか、デジタルでは出せない要素がなんでかものすごくノスタルジックで、汚れたおじさんの心がめちゃめちゃ締め付けられる。
面白いところが「屋内向きの作品」ということ。個人的には通勤とか、移動のときに音楽を聴くことが多いんだけど、このアルバムは外を歩きながらよりも、家の中で何かやりながら(作業とか読書とか)のときにBGM代わりにかけておくと、ふとしたときにちょっとした1フレーズなりメロディのよさに気付くことが何度もあったり。結果BGMとして機能していないんだけど、ほかに集中している意識を引っ張る力があるということですね。外で聴いてるとそうはならないんだけど。
いろんな人にアプローチできる音だし、もっと認知度が上がってもいいのにと思うし、むしろ認知度上がったらまた日本に来てくれそうだし、ぜひみんな聴いてください。

3. Graupel『Bereavement』

東京のメタルコア・バンドの、シングル数枚を経ての初フルアルバム。2010年頃にDjentが大きなムーブメントになって以降、メタルコアやスクリーモがやたらめったらテクニカル化&プログレ化していく流れに、おじさんはちょっとついていけねえな…というなかで「あ、こりゃすげえや」と純粋に思わせてくれたのが彼らでした。PARKWAY DRIVEほか2006、7年あたりのメタルコア第二世代を基準にしつつ、それ以前のニュースクールなりメロデスなりだけでなく、ブラックメタルという明後日の方向からの影響まで取り入れて、現代のカッチカチなテクニカル/プログレ志向にも目配せを忘れないという奇跡のバランス感覚。なのにいやらしさやあざとさがなくて、持ち込んだ要素全部がちゃんと「好き」のうえに成り立っているとよくわかるのが、同世代のなかでもちょっと違った立ち位置にいる理由でしょう。
1曲目のイントロ以降、フルスロットルで爆走する曲だけで固めたのは「こういうことができるのは今しかない」というバンドの意識があったんだろうと思います。だけどほかのバリエーションの曲をやっていないだけというか、まだ手の内を全部出していないのも明らか。戦略や見せ方もうまいし、次が楽しみなバンドとしてチェックし続けられそうですね。
※インタビューをやりました。

4. SEVENDUST『ALL I SEE IS WAR』

アメリカのニューメタルバンドの12枚目。どうしても地味な印象が拭えないバンドだけど、解散も活動休止もしないで堅実にやって来た20年選手という、けっこう貴重な存在だったりします。今回はなぜかスクリーモ系でよく知られるRiseと契約して、キャリアでも屈指の出来に仕上がったアルバム。数年前からTAPROOTやILL NINOといったニューメタルの重鎮だけどちょっと落ち目だった連中が、Victoryに移籍して息を吹き返すという謎現象があったけど、なんなんでしょうね。
とにかくリズム感とグルーヴ感へのこだわりが強い(ヴォーカルが黒人&ギタリスト二人ともドラム経験あり)バンドだけど、今回は曲をコンパクトにしつつ、サウンドの風通しもよくなった感じ。ヴォーカルも押しとアクの強い暑苦しい発声よりも、メロディを朗々と歌い上げる場面が多く、間口を広げることに一役買っています。とはいえ軟弱化したわけではなく、バンドの持ち味はギュっと凝縮されているので、昔から聴いてきた人も納得のはず。大きくブレイクこそしなかったけど、シーンを支えてきたベテランの底力と巧みさがいかんなく発揮された、まっすぐにかっこいいニューメタルのアルバムです。

5. WILL HAVEN『MUERTE』

アメリカのニューメタル/ハードコアなバンドの6枚目。唯一の来日がCONVERGEやLOCK UPと一緒だったり、解散~再結成の流れの中で一瞬だけSLIPKNOTの天狗が在籍したり、わけのわからない立ち位置&知名度のわりには人脈が広い感じがありますね。
元々カリフォルニア州のサクラメント出身、DEFTONESやFARの直系後輩ということもあって、リフや曲の方法論が近いところもあるんだけど、実験性とポピュラリティのバランス感覚に優れたDEFTONES、なんだかんだエモい歌心とポップさのあるFARに比べると、へばりつくような暗さと神経に障るノイジーさが持ち味の彼ら(同時にそのせいで売れなかった)。3年前のEPは変にモワモワした音作りで曲の輪郭が全然わからん代物になってしまい、こりゃアカンなと思ってたけど、今回は元MACHINE HEADのローガン・メイダーがマスタリングしたおかげか、ちゃんと「らしさ」を取り戻した快作になりました。ジリジリとノイズを焦げ付かせながらにじり寄ってくる様は、『WHVN』『CARPE DIEM』あたりの全盛期にも負けてないんじゃないでしょうか。
ちなみにYOBのマイク・シャイドが1曲でゲストボーカルをやりつつ、最後の曲はDEFTONESの尊師ステフ・カーペンターとの共作。このあたりも復活の要因だったりするのかな。

6. Cyclamen『AMIDA』

東京とタイにメンバーが散らばっているCyclamenの、3枚目のアルバムかつ1st『Senjyu』から続いたコンセプトの最終作。Hayato Imanishiさんの海外アーティスト招聘活動と相まって、ここ4年くらいで格段に知名度が上がってきましたね。元々UKで活動開始して、SikTh以降のテクニカル/カオティックメタル(まだDjentって呼称が浸透する前)にEnvy等の激情系の要素を混ぜたスタイルが特徴で、『Senjyu』と前作『ASHURA』では基本をそのスタイルでやっていたんだけど、今回はほぼディストーションゼロ、ポップな歌ものという大胆な路線変更を見せた意欲作。
「4/4拍子じゃだめなんですか?」と詰め寄りフェイス不可避なリズムを駆使しつつ、ちゃんとポップソングとして成立しているソングライティングには目を見張るものがあるし、Cynicのショーン・マローン教授ほか国内外のゲストも自分の存在感を押し出すのではなく、曲に寄り添っているので、全体をブレさせずにピースがきっちりかみ合っているのがまたよろしい。初めてHayatoさん以外のメンバーが曲を作ったりと、バンドのキャリア転換期を象徴するアルバムになるのではと思います。
考えてみれば2013年の『ASHURA』時点で「次はほぼ歪んでいないアルバムを作る」とHayatoさんが宣言していたことを考えると、現在Djent~プログレメタル系が大挙してフュージョンぽいことをやっている状況の先を行ってたんじゃないのかという気も。曲がりなりにもシーン黎明期からいる人の説得力って、こういうときに出るものですね。
※インタビューをやりました。

07. KAGERO『KAGERO VI』

東京発、ジャズ/パンク・バンドの6枚目。例えばTHE DILLINGER ESCAPE PLANやCANDIRIAが「ハードコアをジャズの技巧で限界突破させた」のすると、KAGEROはそれらと逆のアプローチで「ジャズがハードコアやメタルの筋肉で限界突破した」バンドです。しかしジョン・ゾーン界隈とも、プログレ派生のジャズロックとも違うのは、やっぱりパンクやハードコアのストレートなフォーマットが根付いているからだと思います。
サックス、ピアノ、ベース、ドラムの4人編成で「ディストーションがかかったギター」という必殺武器がないのに、とてつもなくデカくて重いものが転がってくるような音像に毎回ビビらされるバンドだけど、相変わらずバッチバチ。今回は不穏なメロディのピアノが全体を引っ張りつつ、ほかの3人も過去最高の暴れ具合。ささくれだった音を耳にグリングリンねじりこんでくるが如しで、珍しく3年近くも音源を出していなかった悶々を解放するカタルシス満載のアルバムとなりました。
ブッキングでも自主企画でも相手を選ばず、どこでやってもちゃんと実力を発揮するんだし、もっと評価されるべきバンドなのではと思います。次にも大いに期待。

08. weepray『楽園』

長らくデモ音源2枚しか手にできる音源がなかったweepray、結成10年にしてやっとリリースになったアルバムです。これが2018年最高の殺人ミュージックとなりました。
トレモロギターやブラストビート、痛々しいスクリームにポエトリー・リーディング。要素だけを書き出すとあぁブラッケンドね、激情ハードコアね、となるけど、周囲の人間をもまとめて叩き潰す、無差別で無慈悲な残虐さこそweeprayの特徴でしょう。その理不尽と言いたくなる様なブルータルさの肝になっているのが、デスメタルやニュースクール・ハードコア由来の豪腕リフ(いやほんと、weeprayのときのモッシュは本気で無法地帯感がすごい)。激情系と言うと吹雪みたいな音が主体になりがちななかで、モッシュ上等ながらマッチョイズムに陥らせず、むしろ救いのない空気を増幅させるリフを自然とぶち込んでくるって、そうそうできることではないし、だからこそみんな10年もアルバムを待ったんじゃないかなと思います。
11月のあたけ(b)さんラストライブは行けなくて申し訳なかったし、どうしても活発に動けるバンドではないけど、むしろ強すぎるレアキャラというか、隠れボスキャラみたいな感じで異様な存在感を放ち続けてほしい次第。

9. SUNDR&REDSHEER split EP『SUNDR:REDSHEER』

2017年8月に来日したオーストラリアのSUNDR(サンダー)と、東京のREDSHEERの2バンドのスプリット。来日時に対バンこそしていないけど、SUNDRの東京公演のひとつをREDSHEERのメンバーが仕切ったことから両者の関係が深まり、リリースに至った1枚です。どちらも初出しの2曲を収録。
先攻のSUNDRはデビューアルバムの『THE CANVAS SEA』の発展系でありながら、静と動の落差を強調しつつその境目をより滑らかにした感じで、初期のDEAFHEAVENやCULT OF LUNAのフォロワー丸出しから見事脱却。もともと音のすき間の活かし方がうまいバンドだったけど、典型的なポストメタルから次のレベルへの足がかりを示したと思います。
後攻のREDSHEERは、ねじくれたコードの響きでジャンク/ノイズの怨念を塗りたくる“Another Hope Fades Away”、LOUDNESSの地下ハードコア解釈といった趣の“Me And Your Evil Spells”と、バックグラウンドをハッキリ分けた2曲で勝負。常に新鮮な空気を保とうとするバンドの気概というか、やってることは暗くて攻撃的なのに、やたらポジティブな力があります。
REDSHEERは昨年12/29に先行販売があったものの、SUNDAY BLOODY SUNDAYとのスプリットが控えているほか、2019年は新しいアルバムを出す予定。SUNDRも目下アルバム製作中…とのことで、次こそは対バンの実現を望みたいところです。
※これだけ視聴用の音源がないですが、インタビューをやりました。

9枚以外の話題
2018年リリースのもののなかでは、SWARRRMのアルバム、twolowとSUNDAY BLOODY SUNDAYのスプリット、Killieの編集盤のほか、DOOM、Harvest、Tesseract、Don Karnage、zArAme、THE SMASHING PUMPKINSあたりが印象的でしたが、書く労力を考えて上記9枚に絞りました(3×3で正方形の画像にまとめやすいし)。あとはAmazon Musicで昔のプログレやハードロックをたくさん聴いたり、ボヘミアン・ラプソディ景気で変にQUEENにはまったかな。とはいえ、時間とかタイミングの問題で買えていない音源がめっちゃある状態でもあります。ALICE IN CHAINS、SUMAC、Wombscape、PIG DESTROYER、BLEEDING THROUGH等々、ちゃんと懐と相談しながら入手する所存です(2017年もので買えてないのもまだあるけど)。

インタビュー等の書きものは7本ほどやらせてもらい、ありがたい限りでした(noteに1本、LIVEAGEで5本、ほか1本)。2019年もいくつか決定or進行中のものがあったりするし、こちらから声をかけることもあるかと思うので、今年もぜひよろしくお願いいたします。

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