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「火星のねずみ」6

やれやれ。少し時間はかかったが、なんとか次の追放者を連れてくることができた。

この役目を果たすようになってもう何百年が過ぎただろうか。仕事を始めたときから着るようになったこの赤いチョッキは、火星の空気にさらされ続けたことでより鮮やかな色合いへと変わってしまっている。今の色合いはまるで血の赤だ。もっともわたしには血など流れていないのだが。


ねずみは、寝不足気味の12歳の子どもの夢の中でうまれた。歯列矯正の器具を四六時中つけさせられているその子の夢の世界は、金属の砂漠が無限に続き他には何もないという至極つまらないものだった。しかしある日、その金属の砂漠の中から小さな銀色の芽がでて、あっという間に花が咲いて枯れた。そしてみるみるうちに銀色の実がついたのだった。その実の中にいたのがねずみだった。

つづく



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