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フランスのラジオ局(Rinse France)デビューしました~ところでUKガラージって何?~

 ダブステップ黎明期にそのカルチャーと切っても切れない関係にあり名高い海賊ラジオ局Rinse FM(パイレーツ・ラジオであったのは00年代初頭の話であり、今はオフィシャルである)のフランス支局、Rinse FRANCEのスタッフからお声がかかり、UKガラージを中心に活動している我々の同人サークル「明るい農村計画」のDJミックスが放送されました。

 UKガラージダブステップを作る人間としてRinseで曲がかかるというのは非常に名誉なことで、いいことあったなぁと思うと同時に素晴らしいミックスが出来たのではないだろうか。

1.ところで、ガラージって何?

 ザックリとガラージの話をすると、1977年から1987年までニューヨークにあったディスコ「パラダイス・ガラージ」でかかっていた音楽及びその系譜に連なるハウスミュージックのことをガラージ(ガラージ・ハウス)と呼んだ。現在ではUKガラージと区別をつけるためにUSガラージと呼ばれいている。

 2015年に公開された映画『EDEN』は90年代初頭、ダフト・パンクと同世代のフランスの青年がDJとしての栄光と挫折を味わう物語であったが、そこで主にかかっている音楽はガラージである。劇中にはUSガラージの大御所Masters At Workも登場する。

この時点でガラージはあくまでNYが中心の音楽であった。

2.UKガラージってUSガラージと何か違うの?

 だが94年頃から英国ではレイヴカルチャーが隆盛する。エネルギーを持て余しドラッグを決めた若者が一晩中踊り狂うのだ。レコードのピッチはどんどん上がってゆく。次第に速いガラージが求められてゆき、元からテンポが速く、強烈なシャッフルビートのガラージが生み出される。最初それらはスピードガラージと呼ばれ、ジャンルの定着と共にUKガラージと呼ばれるようになる。

 1997年から2001年にかけてUKガラージとそこから四つ打ち要素が薄まってよりファンキーになった2ステップ(1小節の間に2回ステップを踏むビートなのでこの名がついた)は繁栄を謳歌する。WookieMJ Coleはキャッチーなメロディや流麗なコードも操り、クラブ通いをしない一般リスナーにまでそのサウンドを届ける。
 一方この頃日本でも「m-flo - come again」や「平井堅 - Kiss of Life」など2001年のJ-POPにおいて2ステップのリズムが大いに取り入れられていた。筆者はこれらの楽曲を聴いた時のときめきが2ステップへの愛着の原点である。

3.ブームが終わってどうなったの?

 その後UKガラージの一部はダンスホールレゲエヒップホップと強く結びつき、WileyDizzee Rascal達によって1999~2003年頃にはグライムと呼ばれる音楽へ変化してゆく。2004年頃にはDigital MystikzKode9Horsepower Productionなどの手によって、グライムからラップを抜いて、よりダークな音を指向した(アーリー)ダブステップが生まれる一方、2007年頃には特徴的なフヨフヨしたベースの音色と共にピッチが速くなったベースラインハウス、USガラージとレゲトンが合わさったような土着的なビートのUKファンキーなどの後継となる音楽が生み出され、これらのジャンルがオーバーグラウンド化する2011年頃にUKガラージは一度リバイバルのピークを迎える。

 個人的にはベースラインハウス以降の楽曲は140BPM以上とテンポが速すぎて好きではなかった時代だ。全部やたらと速かった。2012年にはDisclosureのようにUKガラージとUSのディープ・ハウスロウ・ハウスを組み合わせてテンポダウンさせるアーティストも登場、ラッパー達の場であるグライムシーンも、USヒップホップ勢による評価などが起き、ブームが移り変わってもゆるやかにシーンは続いてゆく。

4.最近の2ステップってどうなってるの?

 昨今、もっぱらオーセンティックな2ステップのビートを聴く機会が最も多いのがK-POPだ。LDN NoiseなどUKのプロデューサーも楽曲を多く手がけているのもその理由の一つであろう。かつてm-floや平井堅がJ-POPで2ステップのビートを響かせたように、MJ Cole以降の手法を用いたキャッチーなメロディと複雑なコードを組み合わせスタイリッシュな楽曲を生み出せるツールとしてまだ重宝していること、Disclosure以降のUKガラージのビートがトレンドとしてまだ目新しいことなどが考えられる。正直この辺りの細かい流れは不勉強で理解が足りていないが、現在進行系で変化と進歩を繰り広げているサウンドの一つと言えるだろう。

5.なんで書いたの?

 明るい農村計画は同人サークルであるため、出現する場所がコミケやコミティアのような同人即売会であり「このCDに入ってる音楽のジャンルって何ですか?」とクラブミュージックリスナーではない人に訊かれ「ハ、ハウスですかね……」と答えるやり取りを何度もやってきたのだが、そういう人に少しでも届いてほしい気持ち、そして改めて自分がどの程度それらを説明できてどこからを知らないのか、系譜を確認しようと軽くまとめてみた。ここからUKガラージ2ステップに興味を持って頂けたら幸いである。

(2/27 14時加筆修正)

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