「プロ野球 FA宣言の闇」を読んで

プロ野球ファンは大別すると2つに分けられる

「FAで誰が加入するか?」と考えるファンと「FAで誰が抜けるか?」と考えるファンに

ちなみに私はライオンズファンであり、つまりは後者となる

選手が活躍し、一人前の選手になってくれることを切望する一方、
「FA権取得まであと○年か」と計算する癖がついてしまった

そんな私にとって、この本のエピローグでは衝撃的な事実が書かれている

とある球団の編成担当者が著者に対し、国内FA権を取得している十亀剣の「伝書鳩」になってもらうべく、条件提示を電話越しに依頼したという

シーズン終盤の大事な時期でもあり、いや時期は関係ない。タンパリングに加担すること、そのものが問題であるため、著者はこの話しを十亀に伝えることなく、結果的にはシーズン終了後、ライオンズとFA権を行使した上で3年契約を結び、残留となったのだが、改めてこのようなやりとりが当たり前のように行われている事実が浮き彫りになっている

と、ここまで書いてみたが、実を言うとタンパリングがプロ野球界で横行している事実を知らないわけではない。私もウブな子供ではなく、いい歳した野球好きなおっさんなので

永谷脩氏にとっては遺書のような形となった「西武と巨人のドラフト10年戦争」を始め、さまざまな著書やWEB媒体の記事を目にしたことはあるし、それこそライオンズ(特に西武球団以降)の歴史を辿れば、それはドラフトを巡るやり取りであったが、球団代表を務めた坂井保之氏や球団本部長を務めた根本陸夫氏がグレーゾーンの交渉術で選手を獲得し、チームを強化していった逸話はそこら中に転がっている

また星野仙一氏が当時、カープの中心打者だった金本知憲氏を熱心に口説いたことはタイガース史伝において美談の如く語られているが、これも冷静になってみれば、タンパリング以外の何者でもない


とは言え、生々しいやりとりを改めて知ることができたのは貴重であり、エピローグとしてはまさに「つかみはOK!」である


第一章では1993年にFA制度が誕生した際、日本プロ野球選手会の事務局長だった大竹憲治氏に選手会側の話しを、第二章では日本ハムの球団代表として、FA問題等専門研究委員会に名を連ねていた小嶋武士氏、当時は西武からダイエーの球団代表になっていた坂井保之氏に球団側の話しを聞いている

ちなみにNPB側にも選手会側にも「議事録」は存在しないとの事。昨今よく聞く話しではあるが、日本には議事録を残す文化が無いのか?と悲しくもあり、情けなくも感じるのは、私が少々ナイーブになりすぎてるのか

FA制度の導入に関して思ったのが、選手会側の熱意、執念の無さであり、戦略の無さである

1969年、MLBでFA制度の導入を検討されるきっかけが書かれてあるが、トレード要員になったとある選手の怒りやパッションが元になっている

それに比べ、日本では事務局長に任せっきりで、その上、顧問弁護士を切って自分たちだけで交渉のテーブルに着こうとするビジョンの甘さ

2004年に起こった球団再編問題では選手たちに怒りやパッションがあり、それにファンが同調して、大きなうねりとなったのに比べると、その違いが良く分かるし、これではなし崩し的なものになるのもうなずける

球団側の話しに関しては、ヤンキースと業務提携を結び、球団経営を学んだ小嶋氏の球団側でありながら、野球界においては「持たざる者」がゆえ、論理的で冷静な視点が心地よく感じ、一方で坂井氏はライオンズが福岡にあった頃、金策に走るなどの苦労した経験からか、どこか成金っぽくもあり、山師的な思考があって、球団側にも様々な人間がいる事が窺い知れる


第三章では現在の日本プロ野球選手会で事務局長を務める森忠仁氏、広報の山崎祥之氏、顧問弁護士の松本泰介氏にFA制度、そして現在、選手会が進めている「現役ドラフト」について、第四章ではFA権を行使したにもかかわらず、契約チームが決まらず、自由契約となった上でテスト生という形でライオンズへの入団が決まった木村昇吾氏に当時の思いを、最後の第五章では団野村氏に代理人として、FA制度を含め選手の権利を守ること、そして球界の更なる発展に向け、それぞれに話しを聞いている


まずFAに関しては「自動FA」にすべきなのか、現行通り「宣言FA」のままにすべきか

選手にとってはどちらが良いというより、どちらが嫌か、困るかといった部分ではないか

事務局長の森氏は「自動FA」にした場合、チームの中心選手でないと買いたたかれる危険性があり、挙げ句の果てには契約がうまくいかない可能性もあることを考慮して、一歩踏み出せないといったところか

一方、木村氏は自身がチームの中心選手ではなく、控え選手の立場だったこともあってか色々悩んだけど、後悔しない為にも一歩踏み出したところ、落とし穴に落ちちゃったと。だけどライオンズで貴重な経験が出来て悔いはありません。といった感じでしょうか

そしてせっかく選手が勝ち取った権利なのに、「宣言」させる事で移籍した場合、元々在籍していた球団を「踏み絵」させるような形となり、ファンの愛憎愛半ばする思いが暴走し、憎しみの対象となってしまう事を考えると、選手にとって余計な負担が無い「自動FA」にすべきではという考えの様です


私もライオンズファンとして、岸孝之と浅村栄斗の騒動は見てきました

岸の場合は2013年、ライオンズと3年契約を結んだ時に「生涯ライオンズ宣言」をしていた事もあり、「あの時、ずっとライオンズにいると言ったじゃないか!」といった思いが深くなりすぎたゆえ、移籍後初めてメットライフドームで先発する試合で大ブーイングを浴びる事になってしまった


また浅村栄斗の場合、FA宣言をして他球団の評価を聞きたいと言ったはずなのに、バファローズとは交渉のテーブルにすら着かずにメールで断り、イーグルスへの移籍を決めたことから、きな臭さを感じる人が出てきて

その後、東京スポーツに当時、お付き合いしていた彼女(後の奥様)を自社のメディアで起用するなど囲い込んだという記事も出て、「出来レースじゃないか!」と不満が爆発しました

これ以外にも情報ソースが無く、信ぴょう性に欠けるのですが、浅村のお父様が倉敷商業のOBでそこから星野仙一氏とつながりがあったとか、尾ひれはひれが付いて、「裏切り者」のレッテルが張られるように

二人ともライオンズファンは必要としていたし、何より愛していた。だが、それゆえにオセロのコマがひっくり返るがの如く、過剰な反応を示す事となってしまったが、選手からすればこんな嫌な思いをしないと、自分でチーム(仕事先)を決められないのかと不満はあるでしょう


FAに関しては、あくまで選手が勝ち得た権利なので、選手にとってやりやすい方法、それが自動FAなのであれば、そちらにした方がまだいいんじゃないかなと思います。ただ勘違い?しないでほしいのは、自動にすればファンからブーイングを浴びなくなるかと言えば、そうではない

選手個人ではなく、チームのファンとしては大事な戦力が抜けられたら困るし、それによって加入したチームが強くなるのも困る。だからと言っては何だが、メジャー移籍する選手に対してそこまで不満を表さないことでも分かる

私自身サッカーも好きで、野球以上に選手の移動が多く、そういった経験を積んだ結果、選手の移籍に関しては、正直なところ「仕方がない」と諦めている

しかし夫婦だって離婚する時、円満に別れる人ばかりではないでしょう

今からちょうど20年前になるが、当時FCバルセロナに所属していた、ルイス・フィーゴがあろうことかライバル関係であるレアル・マドリードに「禁断の移籍」をした時は大変な騒ぎとなり、初めてバルセロナの本拠地、カンプ・ノウで試合が行われたときはボールに触れるたび、10万人はいたとも言われたバルセロナサポーターから強烈なブーイングを浴び続けた

つまり宣言FAなんて概念がないサッカー界でも主力選手が移籍したらファンは大騒ぎするし、ライバル関係にあるチームへの移籍であれば、なおさらである

だから、行きすぎた行為は止めるべきだが、一切のトラブルが起きずに、去り際にお互い笑顔で別れる。なんて映画やドラマみたいな結末はあまり期待しないでほしい。映画やドラマはそこで終わるけど、現実はその先があるので

とは言え、木村昇吾はプロ野球選手としてだけではなく、現在のクリケット選手として、そして会社を経営する代表取締役としてなど様々な経験をしているのと、元々おしゃべり好きな性格もあって、とても話しが面白く、日本プロ野球選手会は彼をアドバイザーとして迎え入れることをお勧めしたいですね


あと、自動FAとなれば自ずと、選手に払う年俸は増えるでしょう。そうなると球団はどのようにして収入を増やすのか?

第五章で触れられているが、Jリーグが窓口となってDAZNと大型契約を結び、各チームに分配したように、NPBも同じような事が出来るのかがカギとなる

放映権に関しては各球団にお任せとなっており、プロ野球界においては、自己責任であり、企業努力という解釈になっている。ただ一方でライセンスビジネスに関しては日本野球機構が行っていて、それだけではないけどコロナ禍でも黒字化に成功しているわけだから、放映権料に関しても包括的なビジネスとして出来ない話ではないはずなんですが…


あとライオンズに関しては、グッズ販売をもう少し臨機応変に対応して欲しいですね

全選手のプレイヤータオルが揃ってなかったり、余るのが怖いとはいえ、少なめに作ってすぐ在庫を切らしたり、あと他球団が即日でグッズ展開を始めているのに対し、対応が遅かったりと

スタジアムグルメは充実しているんだから、グッズにもっと力を入れたら、スタジアムに来るファンはもちろん、中々球場へは行けないファンも通販で買えるようにして収入源を増やして欲しいですね


最後に「現役ドラフト」に関してですが、選手会は公式のホームページであったり、公式ユーチューブchに導入したい意図であったり、その内容を載せて欲しい

公式ホームページを見ても、現役ドラフトに関する内容はどこにも載っておらず、公式ユーチューブchは2年前を最後に動画がアップされていない。それでは登録者数が4000人程度しかないのも肯ける

球団再編問題の時もファンの後押しがあって世論を動かしたはずで、なぜファンの手を借りないのか?それとも都合のいい時だけ「ファンあっての」と言いつつ、内心は何も思っていないのか…

それでなくても、スポーツ紙などで伝え聞く話だと、本来の意図とされる「埋もれている選手にもチャンスの場を与えて欲しい」というものなのに、骨抜きにされており、これではFA制度同様、使いにくい代物になってしまう

せっかく自ら発信できるメディアがあるのに、それを使わずスポーツ紙で取り上げた記事を引用リツイートするだけでは手を抜きすぎている

本気で「現役ドラフト」を導入したいのなら、野球ファンへのアピール方法を練って欲しい

どういうルールで導入したいのかも分からないのに「応援してください」の一点張りでは応援のしようもないので



脱線しながらいろいろ書いてきましたが、著者が望んでいるのは野球界がもっと発展して欲しいと言う事

それは以前に出版された「野球消滅」と共通している

プロ野球再編の時も、16球団に増やそうという話しをしている時も、否定派の方は現在のパイを少ない人数で分けたら、一人当たりの割り当てが増えるという考え方になりがちだが、そうではなくパイを大きくして割り当てを増やそうとする攻めの姿勢が見たい

その上で一つ疑問に思う事があって、それは「10年選手制度」について

「元祖FA制度」とも言えるもので、ウィキペディアによると、1947年に導入されており、取得まで10年要するとか、行使は1回のみだとかルールは違えど、MLBと比べても30年近く前に導入されていて、勝手なイメージで申し訳ないが、昔の人の方が頭が柔らかかったのか?それとも戦後間もない時期で、どこか大陸的で鷹揚な考えがその時のスタンダードだったのか分からないが、とにかく経営陣が了承したのが不思議と言うか何というか

流石にこの時、携わった方々は残念ながらほぼ全員、鬼籍に入られたとは思うが、タイムスリップできるものなら、この時の話しを聞いてみたいものである


FA制度をきっかけにプロ野球界の問題が分かるし、関係各所への取材も素晴らしく、とても分かりやすい。野球界の現在地を知る意味でも一度、この本を手に取ってみてはいかがでしょうか

では👋👋

ライオンズを中心にあれこれ思った事を書いてます。