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非実在パティスリーレビュー

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記事一覧

流行の店「pandémie」

 異常な人気を誇るケーキ屋の噂を聞いた。S町では誰も彼もがそのケーキ屋に通っており食べない日は無いというのだ。しかし、ネットでの評判はさして高いものではなく、食べログの評価は一件だけ自作自演らしいコメントがついているだけの3.01点である。これは現地で確かめてみる必要がある。
 閑静な住宅街の中に佇むケーキ屋「pandémie」は瀟洒なたたずまいを見せていた。店内は開放的で明るい作りになっているが

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ケーキヤクザの店「甘極道」

 この店は現役のヤクザが運営しているかなり珍しい店である。店長は腹富士組系暴力団「稲餅会」の組長を兼任しておりそちらでも熱心に活動を継続している。店内はベルベットを多用した高級感のある内装だがベンツのエンブレムがやたら刺繍されておりそこはかとない悪趣味さをかもし出している。店員はガリガリに痩せたタイ人女性や歯がほとんどない何を喋っているのか全くわからない青年など、どこか訳ありな雰囲気だ。しかし、ケ

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海底ケーキの店「ぽせいどん」

 私が知る限り、このシチュエーションで食べられるケーキ屋は日本でただ一つである。世界を回ってみても、ここだけかもしれない。この店が営業しているのは瀬戸内海の海中。販売もイートインスペースもすべて海中。海の中でケーキを食べる事ができる店なのだ。まず行くためにはスキューバダイビングの免許を取得する必要がある。そしてボートを手配して瀬戸内海の特定のポイントに行くと「ぽせいどん」の看板が立っている場所があ

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AI用ケーキ「バーチャルボーイ」

 ケーキは人間が食べるもの、そんな先入観はないだろうか。確かに最近はペット用のケーキなど人外でもケーキを食べる傾向はある。だがこの店は更に「先の人類」相手の店なのかもしれない。店の名は「バーチャルボーイ」気鋭のパティシエ兼天才プログラマーの電脳筋太郎(でんのう・すじたろう)氏の店だ。

 「人類が、これからも文明の中心で在り続けるとお思いでしょうか?これからはAIの時代が来ます。そしてAIは人類に

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「感動」と交換するケーキ屋

 この店は通貨を使えないことで有名なケーキ屋である。日本円、米ドル、ユーロ、あらゆる通貨が使えない。どんなクレジットカードも今話題の仮装通貨もこの店では話にならない。どのようにしてこの店のケーキを手に入れれば良いのか。答えは「感動」である。この店は店主を感動させることを対価としてケーキを譲ってもらえるのだ。店についてみると小学生たちが列をなしていて「ありがとう!」「ありがとう!」とそれだけ言ってた

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「南極点」

 世界で最も過酷な場所にあるケーキ屋と言っても過言ではないだろう。ここはケーキの店「南極点」店名が示すとおり南極点の真上に存在する。店主の極点助(きわみ・てんすけ)だ。彼の半生は波乱に満ちている。東京郊外の裕福な家に生まれた彼は不動産バブルが弾けた瞬間、世界が一変した。土地を買いあさっていた彼の両親は資産家から一転、借金まみれになり自身は日々食べるものにも苦労するようになった。両親の借金を返す為に

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着られるケーキの店「ウェアラブル」

 今日紹介するケーキは少し変り種だ。ケーキには一つの問題がある。みなさんもいつも苦労されていることではないでしょうか。そう、ケーキはとても壊れ易い。箱に入れても持ちにくく、ちょっとした衝撃で中身がバラバラになってしまう。自宅に持ち帰っていざ食べようと箱を開けるとめちゃくちゃになっていた経験は一度や二度ではないはずだ。お客さんにそんな悲しい思いを二度とさせたくない。立ち上がったのが「着られるケーキの

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砲弾ケーキの店 「ブレット」

 店の扉を開けるとあまり他の店にないものがケーキのショーケースに入っている。日本では特に見かける機会は少ないだろう。弾丸だ。 筆者はハワイで一度見たことがある。 この店はケーキを弾丸にして販売している一風変わった趣向の店なのである。食べ方も変わっていてケーキ弾を詰めた特製のケーキ銃を数十メートル離れたところから口の中へ撃ち込むのだ。シューティングレンジを模したイートインスペースでシェフに撃ちこんで

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ドローンがケーキを作る「ドロネア」

 2100年には全てのパティスリーがこの店と同じ方式を採用しているかもしれない。紹介しましょう。ここが未来のパティスリー「ドロネア」だ。この店は売り子兼店長の麻信田猛吉(ましんだ・もうきち)氏とメンテナンススタッフ以外の人員を置いていない。パティシエ不在のパティスリーなのだ。しかし、それはパティシエの変わりに素人がケーキを調理している、ということを意味しない。全パティシエが自宅勤務で厨房では遠隔操

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「肉体の門」

 いつ来てもスタッフ一同最高の笑顔で迎えてくれる店がある。寸場沼東町の「肉体の門」である。ここの特徴はケーキを作るときに一切の機材を使わないことにある。そのこだわりは他と一線を画している。電動の泡立て器を使わないなどという生ぬるい話ではない。金属器一つ、ボウル一つすら使うことはないのだ。アシスタントが手をボウルに見立ててそこへ材料を入れるとパティシエが指でかき回す。その妥協無い姿を披露するために厨

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土の店「みなもと」

 ケーキに置いて素材を厳選することはケーキ作りの基本であり深奥ともいえよう。良い材料を使えば技量が同じでもケーキの質はグッと上がる。今回紹介する「ケーキの店・みなもと」は極限まで素材にこだわったお店だ。売られているケーキは一種類のみでバリエーションはサイズ違いだけ。10X10cmキューブ、15X15cmキューブ、そして25X25cmキューブ。すべて真四角。真四角に固められた土である。
 「ケーキの

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南米ケーキの店「レインフォレスト」

 南米ケーキの店「レインフォレスト」は二キロ先からでも存在感を感じさせる。店で飼っているホエザルが常に泣き叫んでいるのだ。大地を引き裂くような大音量は地域の風物詩であり、付近は「ホエザル止めろ!」「ホエザル殺せ!」のポスターで埋め尽くされている。いつ来ても元気が良い。お店の概観はシンプルなガラス張りなのだがしかし、中は全く見ることができない。その理由は扉を開けた時に理解できるだろう。
 店内をすさ

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