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「トランク1つで暮らしたい」からあふれるロマン

某巨大掲示板で十数年前に「トランク1つで暮らしたい」というスレッドがあった。「ミニマリスト」という言葉が一般的になるずっと前のことである。

「ミニマリスト」という言葉がいつからあるかは把握していないが、ここ7、8年で一気に広まったと思う。

今は「ミニマリスト」という言葉には手垢がつきすぎているように感じる。どこかファッション感覚で名乗り発信している人がたくさんいる。それを見る人たちから「ミニマニストはこうでなければいけない」と決めつけがあり、これはモノが多いからミニマリストとは言えないと謎の批判をされている。またはモノが少なすぎて何もない部屋をSNSで発信していると「貧乏くさい」「病的だ」と周囲からやんややんや言われてしまうものになっている。

本来なら、誰がどのくらいの量のモノを持っていていようがまったくの自由であるはずだ。

「トランク1つで暮らしたい」というスレッドを見た瞬間、気が向いたらいつでもさっと移動できる身軽で自由な自分をイメージできた。正直言って内容ははっきりと覚えていない。ただ、「ミニマリスト」が流行る前のことである。たった1つのトランクに入るだけのモノしか持たないという軽やかな発想が私にとっては新鮮で衝撃的だったのだ。

皮製のトランクが収納がわりになり、お気に入りの洋服が少しだけ入っている。その他の荷物も必要最低限だ。引っ越すことになっても、引越し業者に依頼しなくてもいい。段ボールに荷物を詰めなくていい。さっとトランクに荷物を詰めて、いつでもどこでも移動できる。最高だ。

もちろん、寝具はトランクに入らないし、家具家電が一切ない生活は不便なのである程度は必要だ。だから正確にはトランク1つだけではない。

モノを持つときにトランクに入るものを買おうとするし、たくさんのモノを持たなくて済む。洋服も枚数が限られるし、かさばるセーターや重いデニムは買わない。なくても困らない便利グッズは買わない。本当に好きな本しか手元に残さない。

小さい頃から、私は一つの土地にずっといることをどうしてもイメージできずにいた。実際に転勤族だったし、大人になってからも何度か引越ししている。マイホームを購入してずっとそこに住むとは考えられないのだ。家庭を持っていなければ、放浪の旅に出て行方不明になってしまいそうなやばいやつである。

でも、私は窮屈なのだ。家を持ち、あるいは家を借り、そこに定住して最新の家電やオシャレな家具や雑貨を揃え、ずっとそこに住むのが。大きな家に住むのがすごいこととされているのが。洋服を着回して毎日違うコーディネートを着なければいけないのが。モノが多すぎたり、高級すぎると批判されるし、少なすぎてもバカにされるのが。

毎日同じ服を着ればいいじゃないかと言われそうだが、私の職場には、少しでも変わった格好をすると陰でバカにする人がいるのだ。鮮やかなピンクのワンピースを着てきた上長でさえ「あの歳でピンクを着るって恥ずかしくないの。笑」と。

個人的に思っていることだが、人の格好について陰であれこれ言っている人に限って、その人の格好って大したことない。おしゃれではないし、ダサくもない。大したことないのだ。外見に気を使わない人が陰口を言うのだ。

一般的に「よいこと」とされる価値観に合わせて生きなければいけない。本当に窮屈だ。それを隠して「みなさんと同じ価値観ですよ」と言う顔をして、それなりにやり過ごしている。私は本当に社会不適合者だ。

いつでも移動できるように、トランク1つ分の荷物をまとめている。そしてそろそろ移動したい。

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