_額紫陽花

新宿方丈記・42「避雷針」

時々、思いも掛けない出来事に巻き込まれることがある。とばっちりとか災難と言ってもいいかもしれない。そんなつもりもなく言ったことが誤解を通り越してねじ曲がって伝わったり、などということは往々にして起こりうるかもしれないが、もっと厄介なことに、言ってもいないし関わってもいないことに、首を突っ込まされるようなことだって発生する。ただその場にいたから、同じチームだからというだけで、平等の責任を押し付けられる不平等さ。普段から大声で自分の正当性や不幸を訴える人はいつも決まっていて、自分がいかに不幸でかわいそうかを訴えたところで、何も解決しないし格好悪いだけなのに、何がしたいのかと首をひねるばかりである。たいていの人は自分が抱えた様々な感情を簡単に表に吐き出すこともできず、なんとか処理するか折り合いをつけて共存するしかない。それだけでもいい加減大変なことなのに、外からさらなる余計な厄介がやってくるなんてたまったものじゃない。逃れることができないとしても、せめて直撃を回避できる、避雷針のようなものがあればいいのに。窓から見える、通りの向かい側の背の高いマンションの屋上には、空に向かってまっすぐに避雷針が聳えている。青空をバックにして、定規で引いたようにまっすぐなシルエットだ。昨日から次々と、悲しいことやら嬉しいことやらの知らせがやって来て慌ただしい。昨日と今日は何も変わっていないようで、決して同じ日ではない。それが生きていくということなのだと、黙って噛みしめる。今年ももう直ぐ梅雨がやってくる。アスファルトの街が雨で洗われて、少しだけ綺麗になって、そしてまた、新しい夏が来るのだ。

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