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atelier HIKITSUGIができるまでとこれから 〜第3章 エシカルファッションについて〜

前々回から引き続き、今回もコンテスト主催でもあるAtelier HIKITSUGIの創設者のである今井翔さん(以下、sho)にお話を伺っていきます!

第1章では「Shoさんの経歴」について、第2章ではエシカル視点からの「ファッションの歴史」について語っていただきました。

今回はいよいよ「エシカルファッション」について。

まだ第1章第2章をご覧になっていない方はそちらから。
もちろんこの記事から読んでもわかる内容になっています!

それではどうぞ!

■ 「エシカルファッション」は「ムーブメント(運動)」

まず「エシカル」という単語は辞書では「倫理的な」という説明がされています。なのでエシカルファッションは直訳すると「倫理的なファッション」となります。使われ方としては、「ブランド」や「一枚の服」、「ある人のファッションの楽しみ方」などを「エシカルかどうか」という基準で判別して、それが倫理的と判定されたらそれを「エシカルファッション」と一般的に呼んでいるようですね。

ここからは一般論ではなく僕の考えですが、「エシカルファッション」という呼び方をすると、「モードファッション」「ストリートファッション」などのようなファッションの中の一つのジャンルのように感じられますが、そうだとは思っていません。そうではなくて、「従来のファッションをエシカルなものに変えていこうというムーブメント」だと思っています。前回の記事で「ファッションは様々な問題を生んでしまった」というお話をしましたが、そのような問題を解決し、「ファッションは当然エシカルなものである」という共通認識を生み出すことこそが目的で、それが達成されたときに「エシカルファッション」という言葉は役目を終えるのだと思います。

見方を変えると、現在のエシカルファッションムーブメントが起こっている今の世の中は、ファッションの歴史における大きな一つの時代区分となるでしょう。「時代のうねり」とも言えます。

前回の記事でお話したようにファッションの歴史を区分すると

①流行という概念はなく、機能性が重視されていた時代(服は単なる服の時代)
②上流階級の人々が流行として服を楽しんでいた時代(ファッションが芽生えた時代)
③産業革命でファッションが大衆化された時代(大衆化と問題噴出の時代)

がありました。

そしてこれまでに出てきたファッション業界の問題点を解決しようという運動が起こっている今の時代が4つ目の

④エシカルファッションの時代(問題解決期)

になるんだと思います。

このように捉えると、「エシカルファッション」は「ファッション(流行)」という単語は用いているものの、一過性のものではなくファッションの歴史の中でも、ひとつの大きな転換点として捉えることができるのではないでしょうか。

■ エシカルファッションの歴史

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─たしかにそうですね。でも「エシカルファッション」って最近流行りだしたものだから、やはりまだ「流行りもの」という認識のほうが正しい気がします。「一つの時代区分」というのは大げさな気もするのですが...。

そう思ってしまうのも仕方ないですね。でもエシカルファッションって実は結構前からあったんです。正式にいつどこで誕生したのかは有識者によっても意見が異なりますが、今回もサラッとその歴史を確認してみましょうか。

まずは、「エシカルファッション」という言葉はまだなかった頃ですが、その前進的な運動が起こっていた時代についてのお話です。

前回の記事でも触れた通り、産業革命の頃からファッションを取り巻く環境で様々な問題が発生していました。「③産業革命でファッションが大衆化された時代(大衆化と問題噴出の時代)」ですね。
当時発生していた問題に対して先進諸国は様々な対応をしてきましたが、中でもイギリスにおける運動が有名で、19世紀末から現れだした自然環境を守る住民運動である「ナショナルトラスト」などがその例として挙げられます。また、1960年代からはアメリカで「ヒッピー」とよばれる人たちが現れだしました。彼らは自然・愛・平和を大事にし、人工的なものを控えてなるべく自然回帰的な生活を目指していました。そうした時代背景の中で、環境破壊への関心は世界的に高まり、レイチェルカーソンの『沈黙の春』(1962年)という本がベストセラーとなりました。

この頃のファッション業界の問題点としては「環境保全」が焦点で、「エコファッション」や「グリーンファッション」などと呼ばれます。

しかし、ファッション業界の問題点は環境問題だけではなく、人権問題や社会問題まで広範囲に渡ることがわかってくると、それらの諸問題を一括りにまとめるには「エコ」や「グリーン」という単語でははみ出てしまう部分がありました。

そこで新たに使われるようになったのが「エシカル」という単語です。「エシカル」という⾔葉はエコファッションやグリーンファッションが扱ってきた環境問題の意味も内包しているし、より広範囲に、⼈道に関わる問題や幅広い社会問題に対しての問題も含めることができます。

こうして「エシカル」という言葉が現在のような意味合いで使われるようになっていきました。

そして、1989年に創刊された世界初のエシカル専門誌「エシカルコンシューマー(ethicalconsumer)」や1997年にイギリスのトニーブレア首相がアフリカ政策に関する演説で言及したことで、「エシカル」という言葉が一気に広まっていきました。ファッション業界においても、それまで隠されてきた、ファッション業界というきらびやかな世界の裏側にある「闇」の部分が明らかにされ、当時急速に普及していたインターネットによって拡散されていったんですね。次々明かされる「トレーサビリティ(追跡可能性)」や「労働環境」などの問題に対して人々の関心が向くようになりました。

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Copyright: Ethical Consumer Research Association Ltd, 2019

世界の動向やトレンドに敏感なのがファッション業界というものです。2004年には、イギリスでエシカルファッションの推進団体「エシカルファッションフォーラム」が設立され、フランスでも同年からパリコレの後に「エシカルファッションショー」が開催されるようになりました。この頃からはいろんな団体やブランドが登場してきますので色々調べてみてください。

■ 現在のエシカルファッションの基準

─「エシカルコンシューマー」の創刊が1989年だから30年前ですか?!結構前ですね!びっくりしました。「エシカル」が出てきたのなんてここ2〜3年のことかと思ってましたが、それならエシカルファッションが "一時の流行じゃない" っていうのにも納得ですね。
おかげでエシカルファッションの経緯は理解することができました。でも「そもそもエシカルってなに?」って思ってる人も多いですよね。人によって言っていることも違う気がします。

そうなんですよね。「エシカル」の定義って統一されていなくて、使用する場面や状況に応じても変わってきますし、さまざまな解釈がされているんですよね。新しい意味もどんどん増えていって、解釈の拡大が止まらないんです。先ほどご紹介した雑誌の「エシカルコンシューマー」では「エシスコア(ethiscore)」というエシカル度を測る評価基準を設けたりしていますので、そうした基準を知るのも良いのではないかと思います。しかし、そういった基準も複数の団体が出していたりして、世界の共通認識としての「エシカル」ってまだないんですよね。

なので、ここからは「これが正解」というものではなく、現在「エシカルファッション」かどうかの基準にどのようなものがあるかの紹介をさせていただきますね。


まず、その基準は立場によって変わってくるのですが、「とあるブランドや、とある1枚の服がエシカルかどうか」を第三者が考えるときの場合についてお話します。
これは一言でいうと「生産者やその土地に倫理的に配慮しているかどうか」というのが基準になると思います。

細かい項目を挙げると、

①ブランドと生産背景との関係性がフェアかどうか(フェアトレード)
②服をどこでどのように生産しているのかを辿ることができるか(トレーサビリティ)
③今の商売のやり方で続けていくことができるか(サステナビリティ)
④環境に優しい素材を使用しているか(エコ)
⑤リデュース(Reduce)・リユース(Reuse)・リサイクル(Recycle)のいわゆる3Rやアップサイクリングによる生産か
⑥機械で⼤量生産をするファストファッションではなく、伝統⼯芸や職人技で少量生産か(スローファッション)

などの項目があげらます。

次に、「消費者がエシカルかどうか」、例えば「自分はエシカルなのか?」を考えるときの基準として、

①エシカルなブランドや服を選んでいるか
②できるだけ長く大切に使うこと(エシカル消費)

などが挙げられます。

ただ、気をつけていただきたいのは、こういった要素を一つでも行ってさえいればエシカルと言えるかというと、必ずしもそうではないということです。例えば、消費者がエシカルブランドの服を買ったからと言って、それをすぐに捨ててしまったらどうでしょうか。
エシカルなものを買ったとしても、消費の仕方としてはエシカルとは言えないですよね。

他にも、「環境にいい素材を使用しているので、私たちはエシカルブランドです」と謳っているブランドがあったとします。しかしそのブランドが利用している工場が劣悪な環境で生産者を働かせていることが発覚したらどうでしょうか。
環境に良い素材で服を生産していたとしても、生産者とブランドの関係がフェアでないなら、エシカルではないですよね。

ここで前回の記事でお話した、メディアの問題を今一度思い出してみてください。「情報をそのまま受け取って、それに流されないでほしい」ということをお伝えさせていただきました。この例では、ブランドがフェアトレードなのかを僕たち消費者が確認すればそのブランドが本当にエシカルなのかどうかわかりますよね。つまり、僕たち一人一人が情報を鵜呑みにせずしっかりと考えたうえで、どの服を買うのかを決めれば良いのです。

これは僕の考えですが(ちょっと大げさかもしれないですけど)服だけに限らず何かを買うという選択をすることには「責任」がついて回ると思っているんです。

わかりやすい例でいうと、ペットを飼うかどうか決めるときって結構悩みますよね?
ただただ可愛いから飼うというわけにはいきませんし。しっかりしつけることができるのかとか、最期まで面倒を見てあげられるのかとか。そこには命の大切さと責任の問題があると思います。

もちろん服と動物とでは「重み」が異なるかもしれませんが、服を作るのにだって、自然の恵みや生産者の方の命の一部である時間を使っているのは間違いないですよね。

だから、多少でも「私はこの子のことをずっと大事に着られるかな?」って考えてほしいなって思います。

■ Shoが本当に伝えたいこと

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─責任!でも確かにそうですね。今はモノで溢れているし、どんな人が作っているかもわからないとそのありがたみを実感するのは難しい世の中かもしれませんね。しかし、やはり自分で考えることは重要なんですね。

そうですね。もし、エシカルなことをしていたとしても、自分で考えてやっていないのならばあまり意味はないのかなとさえ思っています。なぜかというと、僕やエシカル業界の人がエシカルの良さをアピールして、それを鵜呑みに行動してしまったら、流行のファッションの情報に流されている時と同じ状態になってしまいますからね。

そしてもっと言うと、僕が本当にお伝えしたいのは「みんなエシカルファッションしましょうよ!」っていうことではないんです。本当にお伝えしたいのは、そのもう一個前の段階の「『生き方』についてみんな “自分で” 考えてみようよ」ということです。

「エシカル運動」というものがそもそも、環境問題、社会問題、人権問題などの様々な問題を倫理的な視点から解決しようとする運動です。これは深く考えていくと、「人間社会のあり方」や「人間としての生き方」まで考えさせられるかなり思想的かつ哲学的なお話になってしまうんですよね。単にファッションに限ったことではないんです。今の時代に生まれた者としてどう生きていくかを考えてほしいです。僕も「こういう生き方が正解だよ」なんて言えません。それでは押し付けになってしまいますしね。そこは人それぞれ違う部分。だから一人一人が自分で考えるしかありません。

そしていろいろ考えた結果、あなたの生き方にエシカルが必要なら、ぜひ取り入れてほしい。このまま地球に悪い消費を続けていたらどんどん環境が悪くなってしまう。そうしたら自分も次の世代の人も困ってしまう。「それはだめだ」と思いその解決策の一つとしてエシカルが必要な人がエシカルなアクションを起こせばいいと思います。
だって人生は自由だから!エシカルの定義もあなたが決めればいいし、エシカルなアクションをするかどうかもあなたが決めればいい

■ エシカルファッションを始めるにはどうしたらいい?

─なるほど、確かにその通りですね。でも急にそう言われるとどうしたらいいのかわからなくなってくるような...。先ほどご説明いただいたエシカルファッションの基準もたくさんあって難しいですし...。

そうなんですよね。なので初めてエシカルファッションに触れる方には「エシカルファッションはみんなハッピーになるファッションです」って言ってます。シンプルでしょ(笑)

そして最初のとっかかりもシンプルに、「エシカルブランドの服を買ってみる」というのでもいいと思います。「エシカルってまだよくわからないけど、とりあえず買ってみました。これからいろいろ知りたいと思ってます」という感じで。
要は、その行動の理由を自分で考えていて、説明ができればそれで良いのです。

「エシカルとは○○!」っていう定義が決まっていないことはメリットだと考えています。自分で決めて、自分なりのエシカルファッションを楽しむことができるからです。

もし「エシカルファッションとは、トレーサビリティ、サステナビリティがしっかりしていて、フェアトレードかつエコな素材を使用した洋服を、長く大事に使うことである」なんて定義されていたら、ハードルが高いと思いませんか?すべて完璧にするのはかなり難しいと思います。

でも、自分なりに決めることができると、例えば「私は学校が忙しくてアルバイトができないから、ファストファッションの服を買っちゃうけど、ずっと大切に着る。これが私のエシカルファッション!」と自信をもって言えるのであればそれはその人のエシカルファッションの楽しみ方だと思います。

なんならファッションにこだわらなくてもいいと思います。「私はあまりファッションにこだわりがないから、着る服はファストファッションで十分。だけど、その分お金を使わずに済むから、そのお金を事前団体に寄付します」というのもその人なりの「エシカルアクション」です。自分で考えてそういう行動ができるのなら素晴らしいと思います。

「私はこう考えて、こうしてるからエシカルです!」と自信をもって言えるようになった瞬間があなたがエシカルになる時なんです。
無理をしないでできることから始めてみましょう。

■ 取材後記

今回のお話を伺って、少し肩の荷が下りた気がします。長く続けるためにも無理はしないほうがいいですね。そして、みんなそれぞれできることから始めればいい。

そして、Shoさんはそれを体現するかのように、起業してからはずっとエシカルな事業を行っています。
次章ではそのうちの一つで、2018年冬に立ち上げられたatelier HIKITSUGIというファッションコミュニティについてお聞かせいただきます。

次回はいよいよ最終章です。お楽しみに!

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エシカル始めてみたい人はチェックしてみてくださいね!

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