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支援センター

以前入院していた病院の敷地内の支援センターに行ってきた。
6年通った病院なので、顔見知りの患者さんも多い。
誰かにばったり会えたらいいな、なんて思っていた。
寂しかったのだ。

喫煙所には、誰もいなかった。
あれ?ここもう喫煙所じゃなくなったのかな。
それとも、デイケアも病棟も昼食の時間だからかな。
そんなことを考えながら、病院の売店に向かった。
顔見知りの看護師とすれ違ったけれど、たいした馴染みではなかったので、気づかないふりをした。
売店で買った牛乳を手に、支援センターの建物に入った。

イスにこしかけて、見知らぬ患者さんたちの中、おどおどしていると、誰かに声をかけられた。
「あれっ?こんにちは!」
声の主に顔を向けた。
初老の男性だ。
あっ!
「Kさんですか!とりこです!」
7年前、同じ病棟に入院していたKさんだった。

Kさん、わたしより3つ年下だったHさん、わたしは、仲良し3人組だった。
いつも同じテーブルを囲み、テレビを見ていた。
「Hさんと3人で、退院したら百円寿司に行こうねって言ってたね」
Kさんは記憶力がいい。
「ほんとですね。
残念でしたね。
約束してたのに」
わたしも、その約束を、よく覚えている。
Hさんは、数年前、41歳くらいで亡くなった。

「Kさん、わたし今年で50歳ですよ」
と言うと、Kさんは、
「僕は68歳」
と言った。
「2月21日でしたっけ」
うろ覚えのKさんの誕生日を言ってみた。
「そう!
すごい記憶力だね!」
Kさんは、笑った。

Kさんは、趣味人だ。
油絵、らんちゅうの飼育、バイオリン、7年前他にもいろいろ聞いていたけれど、あまり覚えていない。
らんちゅうの飼育はやめて、今はメダカと金魚を育てている、バイオリンは、月謝が高いからやめた、とKさんは言う。
支援センターにときどき通い、美術館、デパートの絵画の展示、お城、そういったところによくお出かけする、とKさんは言った。
「楽しいでしょうね」
わたしは言った。
「楽しいですね。」
Kさんはニコニコした。

ただ、Kさんと言葉を交わし続けた。
1時間があっと言う間に過ぎた。
Kさんは、自分の油絵作品の写真を見せてくれた。
わたしは、自分の羊毛フェルト作品、刺しゅう作品の写真を見せた。
そして、たびたび微笑みあった。

「Kさん、今度一緒になにか食べに行きませんか。
病棟でも約束してたし。」
と言ってみた。
「うん、いいですよ。
行くって言ってたもんね。」
とKさんは答えた。
そして、ラインの交換をした。

Kさんは、自転車で支援センターに来ていると言う。
わたしはバスを使っていた。
わたしも自転車で支援センターに行くことにした。
体力作りだ。
これからは、足腰を鍛えておかなければならない年齢だ。
68歳のKさんが自転車で通っているならば、わたしもすぐに慣れるだろう。
Kさんの住む団地とわたしの住むグループホームは近所だ。

「Kさん、明日も来ますか?」
聞いてみた。
「うん、その予定」
Kさんは答えた。
「明日予定がなかったら、また来ます」
そう言って、わたしは支援センターを出て、帰りのバス停に向かった。

精神疾患を持つ人生は、孤独だ。
医療、福祉の人たちとのつながりだけではなく、患者同士の横のつながりを求める人は多い。
Kさんが、お友達になってくれたらいいな、と思う。
そして、少しずつでも、世界を広げていきたい。

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