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懐かしい顔

グループホームの1階の部屋に、食事を取りに行った。
エレベーターを出て、前を行く後ろ姿に、あれっ?と思った。
Nさん?
以前入院していた5階の病棟で一緒だった、Nさんだろうか。
もう7年前からの馴染みだ。
前を行く男性は、1階の部屋のドアを開け、
「食事を取りに来ました」
と言った。
顔が見たい。
顔が見たい。
Nさん?
Nさんなの?
彼は食事を受け取り、自室に向かった。
顔を見ることができなかった。
彼の次に食事を受け取り、世話人さんに
「今の人の名前は?」
と聞いた。
ほんとうに、Nさんだった。

食事を食べ終えても、そわそわした。
会いたいな。
2年ぶりじゃん。
元気そうだったな。
退院できたんだな。
5階のみんなは元気かな。
わたしは再び1階に降りた。

まず、世話人さんに声をかけた。
「Nさんにあいさつに行っていいですか」
世話人さんは言った。
「あら!じゃあ一緒に行きましょ!」
そしてふたりでNさんの部屋を訪れた。

世話人さんは、Nさんの部屋のドアを開け、
「Nさん、お客さんよ」
と言った。
「Nさん!とりこです!」
わたしは笑顔であいさつした。
「あれ、なんでここにいるの?」
Nさんはびっくりしていた。
「わたしもここなんです!
ここのグループホームなんです!」
「お久しぶりです!
Uさんは元気ですか?」
Uさんは、わたしと大の仲良しだった男性患者さん、ちなみに誕生日もわたしと同じで、いつも一緒に過ごしていた患者さんだ。
「うん、元気」
Nさんは、嬉しそうな顔をしてくれた。
わたしはその3倍くらい、嬉しそうな顔をしていたと思う。
「一緒のグループホームなんで、よろしくおねがいします!」
そう言った。
世話人さんが
「良かったわねえ、お友達がいて」
と言った。
そして、世話人さんもわたしも、部屋に戻った。

5階の病棟のみんなのことを思い出した。
たまに気難しいおじいさんに叱られながら、毎日ワイワイ仲良くやっていた。
テレビのチャンネル権争いのことさえ懐かしい。
ああ、仲間っていいな。
そう思った。
わたしは精神障害者だ。
住む世界は、障害者の世界。
でも、この世界で、確かにわたしは生きている。
笑って泣いて、生きている。
精神障害者になってしまった。
それがなんだ。
この世界にも、幸せはきっとある。
その小さな幸せを、強く抱きしめて生きていこう、そう思う。


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