『統合失調症』伴走記
【ピエロの手記79 断章67】
相談員をしているとき
待合室で「なんだとう!」というどなり声がした
待合室のテレビのセリフにまともに反応したのである
私は 今日の相談者の中に
統合失調症の人が含まれていることを知った
統合失調症の大きな症状を2つ
まず「自分は病気ではない」という固い信念を持つことである
だから 受診に病院へ行こうと言うと
「なんであたしが」とテコでも動かないのである
もう一つは、幻聴・幻覚である
ささやきが聞こえる
❛苦しいだろう その苦しみから逃れるにはな
通りへ出て最初に出会った人の背中をどやしつけるのだ!❜
この幻聴に従ってしまうと
犯罪行為を犯してしまうのである
この『統合失調症闘病記』の主人公は
大学を続けるかどうか、の相談でやってきたのである
彼はある有名私大の、4年目の2年生であった
大学は、俗に裏表8年と言われているように
8年間籍をおくことができる
彼は入学してもう4年目になってしまった
入学までに4浪していたので
このまま順調にいっても
卒業には、少なくともあと2年、都合6年かかることになる
大学に留まるべきかどうかという相談であった
結論に誘ってはならない
こうすればこうなるよといういくつかの路線(選択肢)を示して
本人に選ばせることだ
彼は卒業に全力を尽くす道を選んだが
更に2年留年してしまい
結局大学には最大の8年間在学した
面談中の彼の発言をそのまま記す
3浪中のことです
ある朝、5時頃に起床すると耳の奥から声が聞こえ、それが神様の声のよ
うな気がして、鞄も持たずに下宿を出発しました。「右へ曲がれ」「まっ
すぐ歩け」などと頭にうずまく言葉にあやつられ、2時間くらい歩いたで
しょうか。朝7時頃、とあるビルの部屋の椅子に、裸足のまま身分証明書
も何も持たずに座っていました。そのビルの方が警察に連絡して、私は精
神鑑定を受けました。千葉の両親には「お宅のお子さんは無事保護しまし
た」と連絡がいき、私は睡眠薬を注射されて措置入院(強制入院)となり
ました。
その後、退院して大学生になっても、病気は繰り返し再発し、大学には結局8年間在学して卒業した。
彼が寛解(病状の喪失)を得たのは、ある時入院した病院が、デイケアやディスカッションなどほぼ毎日に亘る多彩なプログラムを用意し、投薬のみに頼らない人間性の回復を図る処方をしてくれたおかげであった。
再び彼の述懐を聞く。
私は48歳の時の入院を機会にタバコをやめました。パチンコも44歳の
ときにやめました。夕食は自炊なので、生活保護ではありますが、経済的
にそれほど不自由を感じません。それでも保護費は1か月に1万円貯める
のが精一杯です。そうやって貯めたお金は、靴とか洋服とか壊れた電化製
品の買い替えとかの費用に充てます。もしもデイケアという経験がなかっ
たら、今の生活はないと思います。暇なときは、ステレオを聞くのが楽し
みです。私は現在58歳、独身です。
一言付け加える。
彼が、20歳前後で、統合失調症の症状が表れたときに、何らかの方法で早急に精神科医に繋がることができていれば、彼の人生は全く違うものになっていただろう、ということである。
今年も彼から年賀状がきた。
「小生元気です!」とあった。
‟悲しいピエロ”
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