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「悲しみ」は、乗り越えるべきもの?     --能登半島地震

  【ピエロの手記83  断章71】      

能登半島の被災地を回って
レポーターは 最後に
家族を失った被災者に向かって
「どうぞ悲しみを乗り越えて頑張ってください」と結んだ

このレポーターは
同じセリフが自分に向けられて言われたことを
想像したことがあるのだろうか

生木をへし折るような衝撃と悲しみ
それは
人間が乗り越えられるようなものなのだろうか

生命を賭けるほどの愛が
一瞬に失恋に終わったことでさえ
私は何年も経て のたうち回っている
悲しみを乗り越えるなんて
できることなのか

詩人のリルケは
夕暮れにきまって2時間
街はずれの公園でパイプをくゆらしていた
「何しに来ているの」と問う子どもに
『悲しみを悲しむために来るんだよ』と答えたものだ

悲しみとは
抱きしめて共存していくことが
辛うじて可能なのであって
乗り越えたり忘れ去るものではないのだ

悲しみを耐えるというのとは違う
悲しみを悲しみに悲しんで
果てまで悲しんで共に生きるしかない
そして
悲しみを知る人は
限りなく優しくなるのだ


  ‟悲しいピエロ”


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