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源氏物語 若紫の巻 概略7(眠れぬ夜)

源氏は僧都に言います。
「急に妙なことを申すようですが、私にその孫姫君の面倒をみさせていただけませんか」
「私にも妻はいるのですが、どうもしっくり参りませんでね」「思うところがあって、私は妻とは住まず、ほとんど別宅で一人暮らしをしているような具合なのです」
「年端も行かぬ子を側に置きたがるなどとは、まともでない申し出とお思いでしょうか」

僧都は、
「大変ありがたい御申し出ではございますが、歳よりも幼いような子でございますから、とてもとても、御座興にも御側に置いていただけるような具合ではございませんのです」
「しかしまあ女というものは婿殿に可愛がられ躾けられて一人前になるものでもございましょうから、愚僧からは何とも申し難い所もございますれば、妹ともよく相談してお返事申し上げましょう」

僧都はそんなことを真顔で言った後は、話を打ち切る様子です。
まだ若く世慣れない源氏は、言葉が出なくなります。

「勤行の時間でございます」「初夜のお勤めをまだいたしておりません」「済ませて参りましょう」
僧都はそう言って御堂に登って行きます。

初夜 いまだ勤めはべらず 過ぐしてさぶらはむとて 上りたまひぬ


・ 旅寝の夜

源氏は病み上がりでもあり、すっかり気落ちしてしまっています。
雨が少し降って、冷たい山風が吹いて、遠くない瀧壺の水嵩も増しているようで聞こえる瀧の音も高くなっています。

君は 心地もいと悩ましきに 雨すこしうちそそき 山風ひややかに吹きたるに
滝のよどみもまさりて 音高う聞こゆ すこしねぶたげなる読経の絶え絶えすごく聞こゆるなど


少し眠そうな読経が絶え絶えに聞えるのも物寂しさを増しています。
誰でもこんな所にいれば物思いもするのでしょうが、まして源氏は思うことが多く眠れません
僧都は初夜と言いましたが、実際には夜はもうだいぶ更けていました。

にも人の起きている気配がしています。
息をひそめているようですが、数珠が脇息に擦れるような微かな音や、優雅な挙措でこそ起きる何か慕わしいような衣擦れの音がします。


📌 初夜

時間の対照表 『六時』は、一日を六分割して念仏読経の定められた時間


源氏絵の目印を主なテーマにして、youtubeを始めました。
そちらもご覧いただければ幸いです。

🌺雨夜の品定め ≪源氏物語のなんちゃって図像学 02帚木の巻 - 01~3≫


🌺雨夜の品定め 嫉妬深い女もしくは指を噛む女 02帚木の巻


🌺雨夜の品定め 浮気な女 ≪源氏物語のなんちゃって図像学 02帚木の巻 - 04≫


🌺左大臣に御衣御下賜 ≪源氏物語のなんちゃって図像学 01桐壺の巻 - 06≫


                        眞斗通つぐ美



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