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ふありのリハビリ作品 act.9

Make a Wish(願い事)


こちらの作品はマガジンを作成しています。ご興味を持たれた方、途中参加の方などは、そちらから入って頂くと読みやすいかと思われます。


#9、紅王子稀くれないおうじまれの過去

学校の屋上で、あたしは壁にもたれ、足を投げ出して座っていた。その太股の上に稀くんが頭を乗せ、くの字になってあたしの三つ編みをほどき、
「あれれ、上手く結べないや」
と、苦笑いしている。
「…ねえ、莉々りり、王子様のお話聞いてくれる?」
わぁぁ〜と、三つ編みを諦めながら、まれくんが、呟く。
「ん?なあに?」
「あのね…あの夏の日。僕がママと暮らししていた海のある町に、莉々が家族旅行に来たでしょう。僕は、ママを肺炎で亡くしてから…独りぼっちで。でも、パパは生きていて、別の知らない女の人と暮らしていた。家庭を持っていた。だから、そこに僕の居場所はなくて…ずっと親戚に盥回たらいまわしされていたんだけど、僕、もう、そんな生活は嫌で、早くママに会いたくて、ママのそばに行きたくて…あの日、海壁まで行ったの。そこで莉々に出会った。家族旅行で、海に訪れていた莉々に。莉々が、将来、淋しくないように、大家族にしてくれるって、約束してくれて。だから淋しいときも、辛いときも、苦しいときも、悲しいときも、いつも莉々のスミレのペンダントを見て、莉々の事だけ考えていた。あのときね、僕4歳で、莉々は5歳だった。忘れちゃうのも…仕方ないよね。凄く昔のことだもん。…でも、僕はペンダントがある限り、1日も、莉々のこと、考えない日はなかったよ」
そこで、稀くんはふーっと息を吐き、話を続けた。
「大人になったら、また莉々に会えるって思っていたけど、なんだか待ちきれなくて…」
一旦言葉を切り、
「えへへ。僕の方から来ちゃった」
向こうの町から宮坂の高校を受験して、そしたら義兄弟の暮らしている町で、びっくりしちゃった。
「凄いよね〜運命みたいて思っちゃった。はやく莉々に会いたくて、始業式の日、騎士と登校したとき、莉々に再会できて、すごく嬉しかった。だから…僕のこと知らないって言われたときは、すごくショックで…。それから、莉々には好きな人が居て…僕、もうどうしたら良いか分からなくなっちゃった。ねぇ、莉々。今でもルーナ・シャンティが好きなの?」
稀くんに訊かれて、あたしはまぶたを伏せた。
「ルーナは…ルーナはあたしが創り出した物語の人。リアルじゃないわ。稀くんは現実リアルに存在している。…でも…まだ割り切れないの。あたしは、ルーナが好きで、でも稀くんにも…惹かれている。これが全部。約束とか、無しにして…これが全部。あたしの中で、ごちゃごちゃして…いるの」
「…うん」
稀くんは、あたしの返事に頷いて、あたしの制服のスカートの上から、腰に腕をまわし眸を閉じる。稀くんの香り、オーガニック系のハーブシャンプー匂いを、あたしは思いっきり吸い込む。
始業式に初めて吸った、稀くんの優しい香り。どことなく安心するのは、稀くんが優しさ100%で作られているからだ。


#.10、それぞれの想い、へ続く

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